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古代エジプトの数学を学ぶ

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古代エジプトにはピラミッドをはじめ多くの巨石建造物や彫像が残されています。また世界最古の文字の一つである神聖文字(ヒエログリフ)があり、高い文明を誇っていたことがわかります。最近… もっと読む
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リンド・パピルスの問題がマザー・グースに隠れている!? 〜エジプト算法〜 

〔 古代エジプトの数学書「リンド・パピルス」の問題を解く〕では、古代エジプトの数学書リンド・パピルスに書かれた表を使って、古代エジプトの人々がどのような方法で計算をしていたのかを考えました。リンド・パピルスに書かれていた問題は、次のような表でした。 上の表は次のように解釈することができます。 この問題にとてもよく似た問題が、中世ヨーロッパの文書にも書かれているのです。  古代エジプトでリンド・パピルスが書かれた時代から2千5百年以上後の中世のヨーロッパに時代を移しましょ

エジプト分数の割り算Part2 〜割り算って何だろう?〜

分数の割り算はどうしてひっくり返してかけるの? 分数の割り算がよくわからない、という話をよく聞きます。「どうして分数の割り算は、分母と分子をひっくり返してかけるの?」つまり、「 a ÷ 3/4 は、どうして a × 4/3 で計算できるのか」という質問です。計算の方法は知っているのだけれど、なぜだかわからない。教えてもらったかもしれないけれど、理由は忘れてしまった。そんな方も多いのではないでしょうか。そもそも分数の割り算(たとえば 3/4 で割る)とはどういう意味なのでしょう

エジプト分数の割り算 Part1 〜拡張規則を使った計算〜

これまでのお話:エジプト分数のかけ算 エジプト数学の特徴の一つは、エジプト分数と呼ばれる数を扱うことです。数回に渡ってエジプト分数のかけ算についてお話してきました。今回はエジプト分数の割り算です。私たちは小学校で分数のかけ算や割り算を勉強しますが、「分数の割り算の意味がよくわからない」というお子さんも多いようです。「どうして分数の割り算は分子と分母をひっくり返してかけるの?」と聞かれて答えに困った経験があるという方もいるかもしれません。分数を使っていた古代エジプトの人々は、分

エジプト分数のかけ算 Part3 〜2倍法、2分法からの拡張〜

これまでのお話 古代エジプト人は1より小さい数を扱うために2進分数を考えました。実用的には2進分数で十分だったはずです。なぜエジプト分数を考えたのでしょうか。古代ではまだ“近似”という概念はありません。1/3 とか 1/5 などという分数は、2進分数では表すことができません。古代エジプト人も純粋な理論的探求心を持っていたのだと思われます。  パピルスに書かれた問題を見ると、古代エジプト人は交換法則や分配法則を使いこなして、エジプト分数×エジプト分数の計算を行なっていたことがわ

エジプト分数のかけ算 Part2 〜古代エジプトの人々は”交換法則”や”分配法則”を知っていた!? 『エジプト分数×エジプト分数』〜

古代ギリシアの"数"と古代エジプトの"数" 古代ギリシアでは、“数”といえば自然数を意味し、長さ、重さ、角度などは“量”として扱っており、“数”とは区別していました。自然数とは、ものの個数を数える1, 2, 3…などの数、つまり正の整数のことです。古代ギリシアでは「自然数×量」は扱われていたのですが、「量×量」は考えられていませんでした。しかし古代エジプトのパピルスの問題には「エジプト分数×エジプト分数」の形の問題が多数出てきます。これは実用的な問題からの必要性から生まれたも

エジプト分数のかけ算Part1 〜2倍表を使って『自然数×エジプト分数』を計算する〜

これまでのお話 古代エジプトでは自然数のかけ算や割り算は「2倍法」を使って計算していました。やがて古代エジプト人は1より小さい数として2進分数(ホルスの目)を考え出しました。そしてさらにこれを拡張し、エジプト数学の特徴の一つと言われているエジプト分数を考え出したのです。前回のお話ではこのエジプト分数の考え方をご紹介しましたので、今回はエジプト分数を使ったかけ算の方法について詳しくみてみましょう。 古代エジプトの2倍表 自然数や2進分数のかけ算は2倍法と2分法で計算できます。

『ホルスの目』から古代エジプトの2分法を学ぶ…1より小さい数の計算方法は?

 どんな古代の言語にも、1より小さい数を表す「半分( half )」とか「四半分( quarter )」という単語があります。古代エジプトでは、これに加えさらに 八分、十六分、三十二分、六十四分までありました。今ではあまり使われませんが、日本語にも「八分」や「十六分」という表現があり、「八分の一」「十六分の一」という意味で使われます。日本語では「八分」のように「数詞+分」の形で表ますが、古代エジプトではこれらは単一の概念で、それぞれが一つの記号で表されていました。  図1は「

古代エジプトではどのような方法で5個のパンを8人に分けていたか? 〜エジプト分数の考え方〜

エジプト分数とは? 古代エジプト数学の特徴の一つは、エジプト分数と呼ばれている数を用いていることです。「エジプト分数は、幼稚で制限の多い方法だ」などいう意見をこれまでよく聞きました。“数”は一度習得して慣れてしまうと異質のものはなかなか受け入れがたいものです。現代人の私たちから見れば、原始的で奇妙な方法に見えるかもしれませんが、先入観を持たずにまずよく理解することが必要です。エジプト分数はとても理にかなった記数法ですし、アルキメデスのようなヘレニズム期の数学者たちや、フィボナ

古代エジプトの割り算 エジプト算法

「古代エジプトのかけ算 エジプト算法 〜2倍法〜」では、古代エジプトの人々がどのようにかけ算を計算していたかを勉強しました。古代エジプトの割り算は、古代エジプトのかけ算と見かけ上同じ形をしています。割り算をかけ算と比較しながら見てみましょう。 下の表は41 × 53 = 2173 と 2173 ÷ 53 = 41を表したものです。 左の表がかけ算、右の表が割り算です。 一番上の行は標題で、真ん中の赤字が作業欄です。標題と作業欄はパピルスにはありません。この部分を除

古代エジプトの数学書「リンド・パピルス」の問題を解く 〜リンド・パピルスの新解釈〜

「リンド・パピルス」79番目の問題【完全数のお話】では、ネズミ算のお話をご紹介しましたが、古代エジプトにも似たようなお話があります。今回はリンド・パピルスと呼ばれる数学書に書かれている問題について考えましょう。リンド・パピルスは古代エジプトのアーメスという書記官が書いた数学書で、「アーメス•パピルス」と呼ばれることもあります。リンド・パピルスには数学の例題と解答が収められています。 その中の一問、79番目の問題には、次のような表だけが載っています。 スペルトとヘカトは小麦の

古代エジプトのかけ算 〜エジプト算法:2倍法〜

 前回のお話では「農夫のかけ算」の計算方法をご紹介しました。今日は歴史をさかのぼって、古代エジプトではどのような方法でかけ算をしていたのかを見てみましょう。 古代エジプト人のかけ算の方法は、「農夫のかけ算」と原理は同じなのですがやり方が少し異なります。n×m のかけ算を、前回と同じ42×123を使って、つまりn=42、 m=123として説明しましょう。エジプト式かけ算では以下のような表を使って計算をします(表1)。  4つの列があります。最初の欄はㇾ印を記入する欄で、これを

農夫のかけ算ってどんな計算? 〜エジプト算法:2倍法〜

 古代エジプトにはピラミッドをはじめ多くの巨石建造物や彫像が残されています。また世界最古の文字の一つである神聖文字(ヒエログリフ)があり、高い文明を誇っていたことがわかります。しかしこれまでは、古代エジプトに高度な数学が発達していたという認識はありませんでした。むしろ、エジプト数学はとても初歩的なもので、原始的でさえあると思われていました。最近になって、エジプト数学が見直されるようになり、ギリシアやローマの数学、ひいてはヨーロッパの数学に少なからぬ影響を及ぼしているのではない