エジプト分数のかけ算 Part2 〜古代エジプトの人々は”交換法則”や”分配法則”を知っていた!? 『エジプト分数×エジプト分数』〜
古代ギリシアの"数"と古代エジプトの"数"
古代ギリシアでは、“数”といえば自然数を意味し、長さ、重さ、角度などは“量”として扱っており、“数”とは区別していました。自然数とは、ものの個数を数える1, 2, 3…などの数、つまり正の整数のことです。古代ギリシアでは「自然数×量」は扱われていたのですが、「量×量」は考えられていませんでした。しかし古代エジプトのパピルスの問題には「エジプト分数×エジプト分数」の形の問題が多数出てきます。これは実用的な問題からの必要性から生まれたものではなく、純粋に“知的な探究心”から考え出されたものではないかと思います。古代ギリシアと古代エジプトを比べてもわかるように、扱う数の概念は普遍的なものではなく、時代や場所によって変わってきているのです。
さて、かけ算は足し算から派生しました。数 a の n倍 na とは、a を n個足したもの、つまり
a × n = a + a + ⋯ + a ( n 個 )
のことです。a を「かけられる数」、n を「かける数」と呼びます。今回は「エジプト分数×エジプト分数」の計算方法を見てみましょう。
「2進分数×エジプト分数」
前回は「自然数 × エジプト分数」についてお話しました。
▼前回のお話
「自然数 × エジプト分数」を習得した古代エジプト人は、かけられる数が自然数ではなく、2進分数の場合にも適用できることに気が付いたのだと思います。
次の計算問題は実際にパピルスにあった問題です。
この表の右の欄では、以下のような計算を行なっています。4行目は1行目を半分にしています。5行目は 1/p を半分に割ると 1/2p となることを使っています。6行目は 3 を半分にし 1;1/2 を得ています。
現代の数学で考えると、これは次の計算を行ったものです。
この計算を見ると、エジプト人は分配法則が成り立つことを知っていたようです。処理しやすい数をかける数として選んだ方が、計算が簡単になることを知っていたことから、交換法則も分かっていたのではないかと思います。
古代エジプト人がこれらを規則として認識していたかどうかは分かりませんが、計算のときにこれを使いこなしていたことは確かです。「交換法則」と「分配法則」は現代数学でも式の変形を行う際によく使われる規則です。古代の人々は、何度も計算を繰り返し数を扱っていく中で、よりよい方法を考えていくうちに、こういった規則に気づいたのだと思います。
「エジプト分数×エジプト分数」
次に一般の「エジプト分数×エジプト分数」を考えましょう。たとえば 「21;1/2 × 46;1/3 」を考えましょう。まず現在の数式を使って考えます。
単位分数どうしのかけ算は
で計算できます。ここで p と q は自然数です。「単位分数×自然数」は交換法則を使って「自然数×単位分数」に変形できます。したがって、「エジプト分数×エジプト分数」の計算は、「自然数×単位分数」の計算に還元できることが分かりました。この計算は、13×a の計算で述べた方法で計算できます。つまり、【 2倍表 】を使えば、任意の「エジプト分数×エジプト分数」の計算ができます。しかし、この方法だと一つのかけ算にいくつもの計算表を作らなければなりません。そのため、古代エジプト人はさらに効率的に計算ができるように【 2倍表 】を拡張しました。この続きは次回の記事で書きたいと思います。
▼次のお話
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