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ブレインテック・コンソーシアム 藤井直敬代表理事インタビュー <前編>

今、少しずつ盛り上がりを見せつつあるブレインテック業界。
 
そんな中、脳科学とテクノロジーの融合によるブレインテックを産業として健全に発展させることを目指し、2021年7月 ブレインテック・コンソーシアム(以下 BTC)が発足しました。
 
今回は「脳科学とテクノロジーの融合によるブレインテックの産業化とそのエコシステム創造」をミッションに掲げ、精力的に活動を行っている、ブレインテック・コンソーシアムの代表理事であり、株式会社ハコスコの代表取締役を務める、脳神経科学者の藤井直敬さんをお招きして、ブレインテックの現在と未来についてお話を伺いました。

藤井直敬 
医学博士/脳科学者
株式会社ハコスコ 代表取締役
デジタルハリウッド大学学長補佐、大学院卓越教授
一般社団法人 XRコンソーシアム代表理事
ブレインテックコンソーシアム代表理事
東北大学客員教授

東北大学医学部卒業、同大大学院にて博士号取得。1998年よりマサチューセッツ工科大学(MIT)McGovern Institute 研究員。2004年より理化学研究所脳科学総合研究センター所属、適応知性研究チームリーダー他。2014年より株式会社ハコスコを創業。
主要研究テーマは、現実科学、社会的脳機能の解明など。
主な著書:「脳と生きる」「つながる脳」「ソーシャルブレインズ入門」など

ブレインテックとの出会い

ご両親共に医師という環境で育ち、いつしか自然に医学の道を志すようになったという藤井さん。大学進学当初は、意外にも眼科医としての道を歩まれていたそうです。

その後、どのような転機を経て脳神経科学の道に進むことになったのでしょうか。ブレインテックとの出会いについてお話を伺いました。

 【電通サイエンスジャム(以下DSJ)】
藤井さん、本日はどうぞよろしくお願い致します!
早速ですが、そもそも藤井さんがブレインテックに関心を持たれたきっかけを教えていただけますでしょうか?

 【藤井直敬氏(以下 藤井氏)】
大学院在学中に、神経科学一般への興味から、次第に産業・事業の方向にも関心を持ち始めたのがスタートだったように思います。

 【DSJ】
なるほど、そこがスタートだったのですね。
藤井さんは大学院修了後に理化学研究所(以下 理研)のチームリーダーもご経験されていますが、その経緯についてもお伺いできますか?

 【藤井氏】
研修が終わった段階で、大学院に進学してすぐの頃は眼科の研究をしていたんです。
ただあまり関心を持てず、ある時、教授に相談した。だからと言って他に関心を持てるものもこれと言ってなかったのですが、苦し紛れに“脳”に興味があると言ったんです。(笑)

そこで、運動制御の研究で有名な東北大学の丹治順先生を紹介していただき、丹治先生のラボで研究を始めたところすごくおもしろかった!そこで初めて神経科学に触れました。
医学部の同期たちは博士号を取得したあと臨床に戻ったけど、私は臨床よりも基礎がやりたいと感じていたので、留学して研究を続けることにしました。 

【DSJ】
そのような経緯があって脳の世界に入られたのですね。その後も基本的にはずっと基礎の研究をされていたのでしょうか?

 【藤井氏】
基礎の研究を行っていましたが、理研で自分の研究チームを持つようになった頃から、研究だけではなく、何か社会に還元できることをしたいという想いを抱くようになりました。ただ、研究をしながら社会に貢献できることは少なく、いまいち社会の役に立っている実感が得られなかった。

 そんな時、偶然VR関連の技術に興味を持ったことから、ハコスコを立ち上げることになりました。
当初はニューロテックやブレインテックの為に会社を立ち上げたわけではなかったのですが、仕事を進めるうちに、すぐには世の中に貢献できることはないだろうと思っていたブレインテック分野で、ハードウェアを作るスタートアップ企業が現れはじめたんです。そこで、会社のもうひとつの柱としてブレインテックに参入することを決めました。

 【DSJ】
以前、当初はブレインテックへの期待が低かったとお話されていたと思うのですが、どのような契機でブレインテックに対するイメージが変化し、参入を決めるに至ったのでしょうか?

 【藤井氏】
それまでは日常生活で使えるような、応用の可能性が高い技術があまりなかったことが一因です。
以前は、信頼性の高いデータを得ようとすると、研究室等の特別な環境で専門家が時間をかけて行わざるを得なかった。

 necomimiのような一般向けのデバイスが出始めた頃は少し苦々しく思う部分もありましたが、その一方で “なるほど、みんなこの分野に興味を持っているんだな”ということは感じました。
将来的には簡易的なデバイスでも、もっとちゃんとした信号が取れて、再現性のあるものになるかもしれないという期待感を抱きつつも、正直なところその当時は、それを実現できる可能性は低いと考えていたんです。

 ただ実際に時間が経ってみると、一般向けでも、ある程度の再現性を持ったデータが取得できるデバイスも出てくるようになり、そこから可能性を感じ始めました。

ブレインテック・コンソーシアムが目指そうとしている世界とは?

【DSJ】
藤井さんのお話を伺っていると、“世の中の役に立つことがしたい”という部分が大きいのだと思いますが、そうした中で、BTCが目指そうとしているのはどのような世界でしょうか

 【藤井氏】
某大型グラントの設計のお手伝いをしているとき、“いわゆるブレインテック、ニューロテックで応用可能な技術を世の中に出すことが必要だ”という確信を持ちました。そのためにどのような仕組みが必要か考えた時に、まさに今BTCのミッションとして取り組もうとしている部分が必要だと感じました。

 ブレインテック分野におけるスタートアップ企業の数はまだ少ないですが、これから始めようとしている人たちを繋いだり、サポートしたりできる仕組みを作らなければ、この分野はベンチャーキャピタル(以下 VC)からの投資を受けにくい。

今でこそ勢いを伸ばしつつあるVIE STYLEも、当初はVCに軒並み断られたそうですが、キックスターターで評価されたことで、援助が受けられるようになったという実例があります。このように最初は苦労する人が多いんです。

 今、応用脳科学コンソーシアムと共同でピッチ大会の計画を進めようとしていますが、まずはブレインテックのビジビリティを上げて、そこから更に評価をしてくれる人たちが現れれば投資も受けやすくなる可能性があるし、その様子を見ている若手研究者の人たちに、“この領域でも会社を始めていいんだ”と思ってもらえればいいなと考えています。

ブレインテックの現在と今後の展望

既存のサービスとは異なり、ブレインテック市場では、技術開発・ソリューション・ユーザーを循環させるサイクルが未だ確立されていないという現状があります。
この課題を解決するためにはエコシステムの構築が不可欠ですが、 “残念ながら、そのエンジンの一発目をかける原動力がまだ足りていない状況です”と語る藤井さん。
 
日本のブレインテック市場が、前述のような課題を抱える中で、ブレインテックにおける海外との技術進歩や、目指している方向性の違いについて、藤井さんはどのように感じていらっしゃるのでしょうか。
今後の展望も見据えながら、語ってくださいました。
 
【藤井氏】
欧米、特にアメリカの場合、未開発のハードウェアをゼロから何年もかけてつくっています。基礎研究者と応用エンジニアリングの担当者が共同で開発を行い、しかもきちんと資金調達を行った上でようやく製品化に漕ぎつけ、市場に出てきている。
 
今、同じことを日本でやろうとすると、ピースがすべて小粒なことに加え、“やろう!”という意欲を持った人が少ないのが現状です。日本で欧米と同じ状況をつくり出そうとすると少し難しい感じがしますね。
 
【DSJ】
技術力の違いは特にないのでしょうか?
 
【藤井氏】
技術力というよりは、先陣を切ろうとする人が少ない。誰も周りにいなくても、前に出ていこうという人がいないんです。
 
仮装通貨やXR、メタバースとは異なり、ブレインテックはまだひとつの分野として認知されていない部分があると思います。そのため参入のハードルが高い。もし神経科学の知識と起業の経験が無かったら、私自身も何をすればよいのか戸惑ったでしょうね。
 
【DSJ】
これから認知が進み、挑戦する人が増えれば、日本でも新しい技術が生まれる可能性はありそうですね。日本にも熱量を持っている人はいるけれども、彼等にガソリンを供給する人がいないからこそ、エコシステムを創造していかなければいけないということですよね。
 
【藤井氏】
そうですね。エコシステムがまわっているのを見たら、熱意のある人は“いけるかも”と思ってくれると思う。例えば、VIE STYLEの茨木拓也さんは熱意を持って活動している方々の一人だと思うけど、そういう人を見れば“自分もやっていいんだ!”と感じてくれる人が出てくるきっかけになるのではないでしょうか。
 
【DSJ】
今後、市場の成長に期待がかかるところですが、日本のブレインテック業界をスケールさせる為に考えていらっしゃることがあれば教えていただけますでしょうか。
また、それを実現するために、あともう一押し必要だと感じていらっしゃることはありますか?
 
【藤井氏】
実用的な日々使えるサービスが必要だと思います。
新しいソリューションを活用して収益を得られれば、より多くの人が参入してくると思いますが、現状では汎用性が低いので、もっと一般の方々に浸透しやすいカジュアルな形になるようにかみ砕いていかなければならないと感じています。
 
【DSJ】
“怪しさ”ではなく、世の中の人たちに“期待感”を抱いてもらえる状況を作ることができれば良いですね。
 
【藤井氏】
“何かおもしろそうじゃん”と思ってもらえるといいですよね。
 
例えば、BTCメンバーの一人はオンライン会議中に脳波計測器を装着して、常に画面上に自分の集中度とリラックス度が出るようにしています。そうすることで自分の状態が認識できるし、相手にも自分がどういう状況なのか理解してもらえるので良い。
こういうものが、もっと簡単にたくさんの人が利用できるようになればよいと思います。
 
【DSJ】
そのような活用の仕方もあるのですね!コミュニケーションの形として新しいですし、面白いアイデアですね。


ここからは<後編>にてお届け致します。
後編>もボリュームたっぷりの内容となっておりますので、どうぞご期待ください。

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