見出し画像

ブレインテック・コンソーシアム 藤井直敬代表理事インタビュー<後編>

前編に引き続き、藤井直敬さんのインタビュー<後編>をお届けします。
<後編>では、よりビジネスとしてのブレインテックに焦点を当ててお話を伺いました。

藤井直敬 
医学博士/脳科学者
株式会社ハコスコ 代表取締役
デジタルハリウッド大学学長補佐、大学院卓越教授
一般社団法人 XRコンソーシアム代表理事
ブレインテックコンソーシアム代表理事
東北大学客員教授

東北大学医学部卒業、同大大学院にて博士号取得。1998年よりマサチューセッツ工科大学(MIT)McGovern Institute 研究員。2004年より理化学研究所脳科学総合研究センター所属、適応知性研究チームリーダー他。2014年より株式会社ハコスコを創業。
主要研究テーマは、現実科学、社会的脳機能の解明など。
主な著書:「脳と生きる」「つながる脳」「ソーシャルブレインズ入門」など

“役に立つ”事例を積み重ねていくことでブレインテックの魅力を伝える

現在と今後の展望に続き、少し方向を変えて投資先としてのブレインテックの魅力についてもお伺いしました。そして、世の中にブレインテックの魅力を伝えていくためのBTCの役割とは?
 
【藤井氏】
恐らく、投資家の皆さんが何に投資の意味を見出すかによって違ってくると思います。
 
もしも短期でのリターンを求めているならこの分野は魅力的ではないですが、社会的な貢献や、長期的に新しいものを生み出す原動力になっていきたいという視点を持った投資家には魅力的なのではないでしょうか。
ただ、魅力を感じてもらう為には、投資家の方々に対する啓蒙も必要だと思います。何も知らない人に夢を語っても伝わらないので、相手に理解してもらえるように話し続けることで魅力が伝わっていくと思う。
 
BTCとしてはまだ着手できていないですが、そういったアプローチとコンテンツ制作を進めていく必要があるということは感じています。
 
【DSJ】
BTCとしても今後スタートアップ企業をフォローしていく上で、資金調達に着手していくことも考えているということですね。
 
【藤井氏】
そうですね。既存のVCの方々にブレインテックに興味があるかと問いかけたら、100人中100人が興味はあると答えると思います。しかし、実際投資するのかという問いには即答できる人はいないと思う。
そこで、この技術にどういった可能性があるかということがわかれば、ブレインテック分野にいる人たちがなぜそこに人生を賭けているかわかってもらえると考えています。
 
【DSJ】
まさにそのあたりがBTCが向かっていかなくてはならない部分、サポートしていかなければならない部分なんでしょうね。
 
【藤井氏】
研究者・サービス提供者・ユーザー、それぞれのフィールドがうまく繋がるプラットフォームとして、BTCは場所を提供していかなければならないと考えています。
 
【DSJ】
様々な分野でブレインテックの活用による進歩が望まれますが、導入・活用が進んでいない分野に対しては、どのようなサポートや働きかけを行っていくことが必要だとお考えでしょうか?
 
【藤井氏】
世の中の数%の人しかブレインテックを知らない状況で、社会に対して働きかけていく為には、“ブレインテックが役に立つのだ”という事例をひとつひとつ積み上げていく他ないと考えています。
 
例えば、脳に深部刺激を与えたら精神疾患が改善した等、臨床応用の場合は脳に起きた変化がわかりやすいのですが、このように何らかの形で“役に立つ”ということを実証していくのです。いきなり一発逆転ホームランで市場規模が拡大する可能性は低いですから。

今後ブレインテックの活用が期待される分野とは

【DSJ】
時間をかけて人々の理解を促していかなければならないということですね。
 
ただ、弊社がスタートした約10年前から比べると、少しずつブレインテックに関する知識や関心を持っている方は増えてきています。今後さらに発展していくと思うのですが、近い将来ブレインテックが発展していく領域はどの分野だと思われますか?
 
【藤井氏】
教育分野だと思います。例えば、自分自身のフォーカスレベルが高まっている時に勉強すると効率が良くなるだとか、集中力を維持できる自分なりのメソッドを獲得するなど、学びの場に役立つのではないかと感じています。
 
また、効率を上げるという意味では、仕事のあらゆる場面で、教育で身につけた技術を大人になっても引き続き維持していくことができると思います。恐らくこの先、ブレインテックネイティブの子供たちが出てくると思う。デジタルネイティブと同じような感覚ですね。
 
もし、自分の脳の状態を常にモニター可能な世代が現れたとしたら、フィードバックが無いと逆に不安になるのではないでしょうか。ニューロフィードバックがあるおかげで、常に自分自身を望ましい状態にもっていくことができる環境があればよいと思います。
 
【DSJ】
たしかに、自分の脳の状態を知ってより良い状態にし、自分の潜在能力を発見するといった部分を、ブレインテックで助けることができるようになれば素敵ですね。
 
ちなみにこれは脳の拡張なのでしょうか?脳の拡張に対しては賛否両論あるなかでどのように活用、展開していけばよいのでしょうか?
 
【藤井氏】
フィードバックの与え方が、無意識のうち(自動的)に脳の中に直接与えられて、24時間ずっと覚醒状態というような状態をつくり出すのは拡張だと思いますが、今我々が行っているような非侵襲のニューロフィードバックは、拡張というよりは熱っぽい時に体温計で体温を測るような感覚に近いです。
 
生き物として自分の内面を定量的に見ることができないので、自分の状態を正確に知る為にはツールが必要だということですね。

ニューロ・マーケティングにおける課題

最後に、DSJの事業領域であるニューロ・マーケティングについても、貴重なご意見を伺うことができました。
 
【藤井氏】
ニューロ・マーケティングは、ブレインテックとして一番はじめに事業化が始まった領域なので、それだけ需要がある領域なのだという理解はしています。一方で、ブレインテックが持っている潜在的な可能性のほんの一部でしかないとも感じています。
 
私は個人的に、基本的に脳から何等かの情報を取り出すときは、誰かの為ではなく自分の為に行うべきであると考えています。ニューロ・マーケティングの場合は、誰かの為に自分の脳活動データを提供するということなので、それは個人にとってあまり幸せな構図ではないと思うんです。ブレインテックのような技術は、一人ひとりが自分を幸せにするツールとして存在した方がよいし、そうあるべきだと考えています。
 
ニューロ・マーケティングも精度が上がってくれば社会的に実装されると思いますが、それによって自分自身が操作されてしまうことには抵抗を感じます。しかし、それは避けられないことだとも思います。
 
【DSJ】
ニューロ・マーケティングは、無意識下における行動を把握して顧客にふさわしい購買行動を促すことを目的としていますが、藤井さんのお話を伺って、究極的には顧客が心から望んでいるものを買ったり体験したりして、自分自身の新しい価値を創造できる形に誘っていくことが必要なのかもしれないと感じました。
 
購買行動を促すだけではなく、人の幸せに寄与できる何かを見つけ出していけたら良いと思います。
 
【藤井氏】
こんな質問をしてよいのかわかりませんが、DSJが提供しているニューロ・マーケティングで、実際にお客さんから期待通りの効果が得られた、継続して活用していきたいというような声はありますか?
 
【DSJ】
案件は様々ですが、可能性を示唆できたという点で評価をいただき、継続してご活用いただいているクライアントもいらっしゃいます。
 
ただ藤井さんのおっしゃる通り、まだ不十分なところがあるのも事実ですが、これまで主観評価では説明しづらかったものに対して、客観的データを示すことで価値を感じていただいています。
 
【藤井氏】
ニューロ・マーケティングも応用脳科学の一種だと思いますが、やってみたけれども思っていたほどの結果が得られなかった場合に、マイナスの部分が出てくると思います。
 
結果に不満があった場合は、脳波計測が役に立たないと判断する人が増えるリスクもある。何かネガティブなインパクトを与えてしまうかもしれないという点では、怖いところですよね。
 
【DSJ】
たしかに実際に実験を行ってみて、ネガティブな結果が出ることもあるので、そこは私たちが気を配らなければならない部分だと思います。これまでの知見を元に脳波だけではなく他の生体信号を組み合わせる等、さまざまな方法を模索する必要があると感じています。
 
今はまだ従来の主観調査の補完的な役割であるという領域を出ない部分もありますが、そこをどうやって確かなものに昇華させ、人々の役に立てていくことができるのかという点はこれから考えていかなければならないですね。
 
想定とは異なる結果があらわれた場合、少し視点を変えてみると、意図していなかった結果を得たことで、新たな事実や糸口が発見できたというポジティブなご意見もありました。そういった視点でも可能性を探っていきたいです。

新たな挑戦

【DSJ】
改めて藤井さんご自身のことにお話を戻すと、この4月からデジタルハリウッド大学(以下 DHU)の学長補佐に就任されましたよね。DHUと脳科学の掛け算で、チャレンジされてみたいことはありますか?
 
【藤井氏】
DHU自体は神経科学をやり得る場所にはならないと思うのですが、それらを繋げる場所にはなり得ると思っています。
 
それぞれのフィールドで先端の研究を行っている研究者たちが自分の時間の5%でも10%でも、他の場所で活躍しているプロフェッショナルと繋がる時間を持つことで見えてくる可能性があるとしたら、そのハブになり得る場所だろうし、単に繋げるだけではなく、新たなプロジェクトを起こせればいいと考えています。
 
分野を問わず事業化を含めたエコシステムを創る場所を提供することが、これからの大学が持つべき機能だと思います。
 
世の中がブレインテックに感じている懐疑的なイメージを払拭するために、自分たちがきちんと真面目にやっているということを示していく必要があるし、そのために努力し続けていかなければならないと思います。
 
【DSJ】
ブレインテックの未来にある夢を潰さないように、私たちも責任をもって取り組んでいかなければならないですね。
本日は貴重なお時間をいただきありがとうございました!

まとめ

多忙な中で、ブレインテックについての想いをたっぷり語ってくださった藤井さん。インタビュー時間があっという間に感じるくらい、興味深いお話を聞くことができました。
 
また今回、率直なお話を伺えたことで、自分たちが今後見据えていくべき方向性も改めて考える貴重な機会となりました。
様々な課題があり、すぐに解決できることばかりではありませんが、脳波によって“見えないものを可視化”し、“一人ひとりを幸せにする”ことをイメージしながら、これまで以上に真摯に一つひとつ向き合いながら歩みを進めていければと思います。
 
現在、DSJもBTCと連携し、ブレインテック市場の成長に貢献するべく共に活動しています。そして、ブレインテックに関心を持つ方々が、個人・企業を問わず少しずつ増え始めています。
藤井さんのように専門家として求心力を持つリーダーが、率先して業界を牽引してくださることで、よりブレインテック業界が活性化していくことを願うとともに、ブレインテックが人々の幸せや社会の発展に役立つ未来を実現するために、今後も力を合わせていければと考えています。


<画像出典>
TOP:リンク(ライセンス取得済/転載禁止)
その他:画像内にリンク貼付


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?