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"感情コントロール”のカギは”ホルモン”にあった?! -慶應義塾大学 満倉靖恵教授 ウェビナーレポート-

「ホルモンを制する者は心を制する。」

満倉教授は熱く語ります。

Covid-19影響下での生活が始まって、早くも1年以上が経過しました。
新しい生活様式に慣れてきた部分もある一方で、急激な環境の変化に適応しきれず戸惑いを感じたり、長引く自粛生活に閉塞感や疲労を感じている方も多いと思います。

民間企業が行った医師への調査によると、実際に外出自粛やリモートワークなどの影響で、精神疾患を患う方が増加していることがわかってきました。

人はどうして自分に負荷を与え続けてしまうのでしょうか?
受け入れざるを得ない環境の変化から、自分自身の心と体を守る術は無いのでしょうか?

今回、脳波から感性を可視化する研究の第一人者であり、弊社CTOでもある慶應義塾大学の満倉靖恵教授を迎え、『withコロナだからこそ必要な“感情のコントロール”をホルモン変動と脳波から考える』と題して、2021年4月19日にウェビナーを開催しました。

満倉教授は20年近く生体信号の研究を続け、脳波測定技術を活用して弊社と共同開発したリアルタイム感性把握ツール「感性アナライザ」でも注目を集めています。

今だからこそ知りたい、自らの感情をコントロールする大切さ、心身の健康を保つために必要な知識について、脳神経科学・ホルモン分泌の視点から紐解きます。

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満倉靖恵
慶應義塾大学理工学部システムデザイン工学科教授
慶應義塾大学医学部 精神神経科学教室 兼担教授
株式会社電通サイエンスジャム CTO

満倉研究室では医工連携に注力。工学だけでも医学だけでもできない研究を行っている。脳波をはじめとした生体信号解析、脳波によるリアルタイム感情認識、脳神経科学、認知症発生メカニズムの解明、遺伝子解析、ゲノム編集、睡眠解析、音声認識・画像処理などをキーワードとした幅広い分野での研究は、医療のみならず、商品開発や企業のブランディング等、さまざまな応用が期待されている。


6割以上の人が、自分で自分の健康状態を把握できていない?

“37%”
「皆さん、この数値は何を示していると思いますか?」

ウェビナー冒頭、満倉教授はこのような質問を参加者へ投げかけました。

参加者がそれぞれに考えを巡らせる中、満倉教授はこの数字を示した意味と、”いかに人は自分の感情を正確に把握できないか”という事実について語り出しました。

「答えは、“自分自身の睡眠の良し悪しを正確に理解している方の割合”です」

睡眠の深度判定を行う実験の際に、「睡眠がよく取れている/取れていない」をひとつの指標としたアンケートによる主観評価と比較したところ、僅か37%の方しか自身の睡眠の良し悪しを把握できていないという結果が表れたそうです。

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自分の体にも関わらず、6割以上の方が正確に睡眠状態を把握できていないというのは、驚くべき事実ではないでしょうか。
満倉教授は研究結果から見える”人間の感情把握能力”に対し、問題提起を続けていきました。

「きちんと睡眠が取れているのか、取れていないかでさえ多くの方が把握できていない中、自身の感情やストレスをどれだけの方が正確に把握できているのでしょう?」

これまで一般的に用いられてきた、アンケートなどの主観評価も自分自身を知るためのひとつの方法ではありますが、前述の事例からもわかるように、人々が気づいていない無意識に潜む感情にも注意を向けないと、“本当の感情”を見逃してしまいかねません。

ホルモンが変わるから行動が変わる

「ホルモンが変わるから行動が変わるのです。」
続けて、満倉教授はこのような定義を示しました。

満倉教授は脳神経科学・生理学の研究を通じて”ホルモンが変わるから行動が変わる”を実証するため、ホルモンと身体の関係性について、様々な実験を用いて解明を進めています。

「“ストレスは溜めない方が良い”と昔から言われるように、私たちも過度なストレスは体に良くないという認識を持っているかと思います。」

では、なぜストレスは体に良くないのでしょうか?

主な理由として、ストレスは自律神経の働きを乱したり、胃潰瘍や心筋梗塞等の危険な症状を引き起こし、さらにはうつ病やパニック症候群の誘発にも影響を与えていると言われています。

体がストレスを感じるメカニズムを図で見ていきましょう。

ホルモンメカニズム

脳がストレスを感じると交感神経が刺激を受け、副腎内からアドレナリンやコルチゾールを分泌します。血液を通じてそれらのホルモン物質が全身にめぐることによって、身体にストレス反応が起こるのです。
さらに人の身体はストレスを感じると同時に、ストレスを抑え平衡状態を保とうとし、ノルアドレナリンやセロトニンといったホルモンも分泌します。

ここで満倉教授は、女性特有の”生理周期によるイライラ”を例に、ホルモン変化と行動の関連性について次のように語りました。

「女性の生理は約27日周期で、月経期・卵胞期・排卵期・黄体期のサイクルを繰り返します。「卵胞期」ではイライラが最大となり、「黄体期」では物事に対する集中度が減少するなど、生理周期によって女性が精神的に不安定になることも“ホルモンの変動”が密接に関係しているからなのです」

生理周期

なんとなく感じていたあの“イライラ”には、しっかり根拠となるメカニズムがあったのです。

ホルモンの変動リズムで「未来の感情と行動」を先読みする

感情とホルモンの関係について少し理解が進んだところで、満倉教授が行っている研究についてもう少し掘り下げていきたいと思います。

ホルモン変動を測定する際、一般的には血液や唾液・尿などを採取し分析しますが、毎日変動するホルモンを調べるために毎回採取するのは困難です。
そこで、脳波とホルモンの関係性を見いだした満倉教授は、ホルモン分泌を脳波計測で推定できる研究を進めています。

満倉教授がこの研究を通じて得た成果のひとつが、“生理周期と脳波の強い関係性”で、月経期と平常時の脳波を測定し、98%以上もの確率で「月経期」の判定に成功しています。

さらに現在得られている結果では、「卵胞期」と「黄体期」では集中度に平均36%の差が出ており、さらに「黄体期」におけるストレス度は「卵胞期」と比べて8%も高いことが判明しているそうです。

グラフ


女性はこの生理周期に起因するホルモンの影響から、時期によってパフォーマンスに大きな差が生じることが脳波測定によって明らかになったのです。

ちなみに女性が絶好のパフォーマンスを発揮できるのは「卵胞期」のおよそ1週間だけだそう!
この研究によって、卵胞期が一体いつなのか特定できるようになれば、仕事や勉強の効率が上がったり、自分の体や心をコントロールすることがもっと楽になり、心身の不調に悩む人も減るのではないでしょうか。

「あっ!私、今イライラしてる!」と気づいた瞬間にホルモンバランスに意識を向けるだけで、今までよりちょっぴり冷静な気持ちになれる気もします。

ホルモンのお話となるとどうしても女性中心になりがちですが、男性の体にもしっかりホルモンは影響しています。
例を挙げると、テストステロンの減少によって「更年期障害」の症状を引き起こすことがわかっており、筋力の衰えや動悸・息切れなどの身体的な症状をはじめ、集中力・記憶力の低下や不安感、イライラなどの精神的症状も現れます。

このように、男性にとっても自分自身の体をコントロールしているホルモンを知ることはとても重要なことです。ホルモンと心、体の関係を知ることでこれらの不調に備えることができるからです。

まとめ

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Covid-19により世界全体で精神的なバランスを崩す人が増え、いま世界は改めて人の“心”と“体”の関係の重要性に向き合うべき状況に直面しています。

一人ひとりが自分自身を守るためにも、ホルモンがどう働きを及ぼすのかを学び、自分の感情と状態を知り、どのように向き合えばよいのか客観視することは必要です。
満倉教授が行っている「ホルモン分泌を脳波計測で推定する」研究は、多くの人々が簡単にいつでも自分の状態を知るための手段となり得るでしょう。

誰もが健やかな体と心を保って、のびのびと生きられる未来が訪れることを願って、新しいテクノロジーやサービスを創造していければと思います。

画像引用(TOP画像):下記URL参照
画像引用(その他)   :画像内にリンク貼付


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