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休憩の科学-脳波から仮眠とワークパフォーマンスの関係を探る-

人は休息なくして働き続けることはできません。
もし無理をして働き続けたとしても、肉体的・精神的に大きな負荷がかかり、十分なパフォーマンスを維持することはできないでしょう。人間よりも遥かに長時間稼働し続けることのできるロボットや機械でさえもメンテナンスが必要なように、人には適切なメンテナンスが必要です。
さまざまな場面において休息をとることは必要不可欠であり、特に勤務中においては作業能率の向上と、健康的な活動を促すため、法律でも休憩の取得が義務付けられています。

今回は、私たちにとって欠かせない休憩をとるための“環境”に注目し、休憩用PODによる検証実験についてご紹介します。

日本人の約8割は睡眠不足

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皆さんは日頃どのような方法で休憩を取っていますか?
一般的に休憩の効果を高めるために、仮眠や瞑想、ヨガ等を行うと良いと言われていますが、他にもコーヒーやお茶を飲むなど、人によってさまざまな休憩方法があります。

ところで、公益財団法人日本生産性本部が発表した「労働生産性の国際比較」によると、日本の労働者1人当たりの生産性は、アメリカをはじめとする主要先進7ヶ国の中で最も低い水準となっています。

この背景のひとつに他の先進国と比べて、睡眠不足を抱えている人の割合が高いことが挙げられ、睡眠不足による経済損失は年間のべ約480万時間(約60万日)分に相当すると言われています。
また過去の調査により、特に日中(主に昼食後)に眠気を感じる人が多いという実態も示されています。

実際に私自身も日中に眠気を感じて、眠気と闘いながら業務をこなすことはよくありますが、皆さんの中にも同じ経験をしている方が少なくないのではないでしょうか?

そんな現代日本人の課題を解決すべく、私たちは“仮眠”に着目しました。

実験方法

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今回のテーマとなる“仮眠”の効果について、次のような方法で検証実験を行っていきます。

個人でも休憩環境の違いによって、労働パフォーマンスや心理的な違いがあるのかを検証するため、企業に勤務するリモートワーク経験者の男女12名(20~50代)を対象に、自宅と休憩用POD、2パターンの環境下での休憩効果に関する調査を実施。それぞれの環境で休憩を取ってもらい、アンケート、認知課題に加えて、感性アナライザでの脳波計測による感性評価を行いました。

無意識に人が感じている感情を感性アナライザを活用することで見える化し、アンケート等の主観評価のみでは見えてこなかった客観的な感情を把握することで、より多角的に検証していきます。

休憩用PODとは?

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続いて、実験で使用する休憩用PODについて簡単にご紹介します。
休憩用PODは、効果的な休息をとることを目的として、完全にパーソナルな空間として設計されており、POD内には椅子・モニター・空調・スピーカー等が完備されています。
また、モニターや空調、スピーカーから流れる音等は自由にアレンジすることができるため、より自分に合った快適な空間をつくることが可能です。

今回は休憩中の仮眠をサポートするため、スピーカーからは鳥のさえずりや川の音などの自然環境音を流し、モニターにもせせらぎや森の木々のような自然環境のイメージを投影してリラックス状態に導きます。
また、照明の明るさや色調の調整も行い、休憩終了時間が近づくと照明が白色光へと移行し、段階的に覚醒を促すよう設定しました。

実験結果

今回の実験では、「ピッツバーグ睡眠調査票」を用いて被験者の睡眠習慣を調査するとともに、「スタンフォード眠気尺度」を用いて被験者が感じている眠気の変化について評価を行いました。

ピッツバーグ睡眠調査票による睡眠状況の回答においてはPSQI平均6.93点(6点以上では睡眠に障害があると判定される)という結果となり、今回の被験者中に睡眠不足を抱えている人の割合が多いことがわかりました。

また、スタンフォード眠気尺度による眠気の変化については、結果として在宅時の休憩後には眠気が増加、休憩PODでの休憩後には眠気が減少する傾向がみられ、同じように仮眠をとっても、環境によってその後の回復度が左右される可能性があることが見えてきました。

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次に、やる気を測るための「やる気スコア」を用いて、被験者の主観的なモチベーションの評価を行いました。
やる気スコアは、スコアが高いほど“やる気のない状態”を示していますが、どちらの環境においてもスコアが減少し、特に休憩PODでは優位な減少傾向が表れました。

認知課題においても両環境ともに点数がアップしたものの、休憩PODの方がより点数増加の割合が高くなる傾向がみられ、モチベーション、パフォーマンスについても休憩PODの方が回復しやすい可能性が見受けられます。

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以上の主観評価と併せて感性アナライザによる感性評価を行います。
今回は、タスクに対する関心を表す「興味度」、感情の正負と活性度から脳活動の状態を評価する「ネガティブ-ポジティブ度(ネガポジ度)」、「活性度」を用いて検証しました。

その結果、興味度については休憩POD内での休憩後の認知課題実施時に上昇、反対に在宅環境では興味度が減少する傾向が見られました。

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このように感性アナライザで取得したデータから、アンケートのみではわかりづらかった、より細かな感情変化の違いを確認することができることも、脳波を活用するメリットです。

また、ネガポジ度についてはどちらの環境でもポジティブ側に変化しましたが、活性度については在宅環境では減少していました。アンケートによる眠気の増加と同様の傾向が見られ、在宅環境下での休憩後には眠気が増加しやすいと考えられます。

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まとめ

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今回の検証実験をとおして、ただ単に休憩をとることで疲労が回復し、パフォーマンスが向上するのではなく、より効果的に休憩の効果を得るためには環境が重要だということがわかりました。

実際に筆者自身も休憩PODを体験してみたのですが、在宅環境での休憩時よりも休憩後にスッキリと頭が冴えるような感覚を実感することができ、新しい休憩のスタイルとしてオフィスにこのような環境があれば、生産性向上の一助になる可能性もあると感じました。

また、在宅環境でこのような休憩PODを利用することは難しいですが、リモートワークにおいても十分な効果を得られる休憩環境を整えることが大切だと気づくきっかけにもなりました。
Withコロナでリモート体制へ移行する会社が増え、新しい生活様式として定着した今、ワークパフォーマンスを維持するために、休憩も含めた快適な在宅勤務環境の構築が急がれます。

検証結果からも考察されるとおり、在宅ではオフィスよりもリラックス状態から仕事モードへの気持ちの切り替えが難しいだけに、制限された環境の中で、いかにうまく心と体をコントロールできる方法を見つけるかがカギになってきそうです。

さらに、感性からそれぞれの生活環境に適した休憩方法を探り、パーソナライズした休憩方法を提案することができれば、より効率的にリモートパフォーマンスの向上を図ることができるかもしれません。

今後も電通サイエンスジャムならではの視点を活かして、人々の生活をより良くする活動を続けていければと考えています。

■出典
公益財団法人日本生産性本部 労働生産性の国際比較
■画像出典
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その他の画像:画像内にリンク貼付


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