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第1話から読む。 前話(13)から読む。 <登場人物> 翔子:主人公 芳賀啓志:翔子の父 芳賀朋子:翔子の母 芳賀登美子:啓志の母、翔子の祖母 芳賀仁志:啓志の父、翔子の祖父 ジャン:翔子の夫(イギリス人) 鳥越玲人:翔子の従兄 * * * * * 第3章:帰宅――<ホーム> 06 翌日は、朝から細い雨が降っていた。 軒を跳ねる規則的な雨音で翔子は目を覚ました。 朝食の準備を手伝うつもりでいたのだが、
第1話から読む。 前話(12)から読む。 <登場人物> 翔子:主人公 芳賀啓志:翔子の父 芳賀朋子:翔子の母 芳賀登美子:啓志の母、翔子の祖母 芳賀仁志:啓志の父、翔子の祖父 ジャン:翔子の夫(イギリス人) 鳥越玲人:翔子の従兄 * * * * * 第3章:帰宅――<ホーム> 05 「いいかい、翔子。人は揺れながら生きているんだよ。現代と過去、未来との間を、振り子のように」 ――えっ? 翔子は膝に抱えた
第1話から読む。 前話(11)から読む。 <登場人物> 翔子:主人公 芳賀啓志:翔子の父 芳賀朋子:翔子の母 芳賀登美子:啓志の母、翔子の祖母 芳賀仁志:啓志の父、翔子の祖父 ジャン:翔子の夫(イギリス人) 鳥越玲人:翔子の従兄 * * * * * 第3章:帰宅――<ホーム> 04 「暑くなってきたね」 陽は射しこまずとも、ぬるく居座る熱気はすべりこむ。 父は立ち上がると、書斎机の前の窓を閉め、エアコンの
第1話から読む。 前話(10)から読む。 <登場人物> 翔子:主人公 芳賀啓志:翔子の父 芳賀朋子:翔子の母 芳賀登美子:啓志の母、翔子の祖母 芳賀仁志:啓志の父、翔子の祖父 ジャン:翔子の夫(イギリス人) 鳥越玲人:翔子の従兄 鳥越貴美子:玲人の母、啓志の姉 * * * * * 第3章:帰宅――<ホーム> 03 盆に茶菓子をのせ居間に戻ると、父の講義は途切れることなく続いていた。 庭の築山の裾で
第1話から読む。 前話(09)から読む。 <登場人物> 翔子:主人公 芳賀啓志:翔子の父 芳賀朋子:翔子の母 芳賀登美子:啓志の母、翔子の祖母 芳賀仁志:啓志の父、翔子の祖父 ジャン:翔子の夫(イギリス人) 鳥越玲人:翔子の従兄 鳥越貴美子:玲人の母、啓志の姉 * * * * * 第3章:帰宅 ―― <ホーム> 02 「ただいま」と声をかけながら、翔子は玄関の格子戸を引く。 低く剪定され、古色蒼
第1話から読む。 前話(08)から読む。 <登場人物> 翔子:主人公 芳賀啓志:翔子の父 芳賀朋子:翔子の母 芳賀登美子:啓志の母、翔子の祖母 芳賀仁志:啓志の父、翔子の祖父 ジャン:翔子の夫(イギリス人) 鳥越玲人:翔子の従兄 鳥越貴美子:玲人の母、啓志の姉 * * * * * 第3章:帰宅――<ホーム> 01 梅雨入りはまだだったが、リムジンバスに乗ろうと空港ビルを出たとたん、半袖の腕にぬるい
第1話(01)から読む。 前話(07)から読む。 <登場人物> 翔子:主人公 芳賀啓志:翔子の父 芳賀朋子:翔子の母 芳賀登美子:啓志の母、翔子の祖母 芳賀仁志:啓志の父、翔子の祖父 ジャン:翔子の夫(イギリス人) * * * * * 第2章:父ーグラウンド 04 父の文机の周りで山脈を築いている書物の中に、それはあった。 百か日の法要と新盆を済ませると、母は離れに居を移すと言いだした。母屋には部屋がじゅ
第1話(01)から読む。 前話(06)から読む。 <登場人物> 翔子:主人公 芳賀啓志:翔子の父 芳賀朋子:翔子の母 芳賀登美子:啓志の母、翔子の祖母 芳賀仁志:啓志の父、翔子の祖父 ジャン:翔子の夫(イギリス人) * * * * * 第2章:父ーグラウンド 03 翔子が生まれた朝のことを、啓志は近ごろよく思い出す。 日付の変わった深夜に陣痛をもよおした朋子を親戚が営む産院に車で連れて行った。
第1話(01)から読む。 前話(05)から読む。 <登場人物> 翔子:主人公 芳賀啓志:翔子の父 芳賀登美子:啓志の母、翔子の祖母 芳賀仁志:啓志の父、翔子の祖父 ジャン:翔子の夫(イギリス人) * * * * * 第2章:父ーグラウンド 02 春の海のような人だと思った。 はじめて朋子に会ったのは嵐山の料亭だった。淡い縹色の訪問着がよく似合っていた。庭の桜が風に舞って二、三片うすい水色のきものの肩に乗った
第1話(01)から読む。 前話(04)から読む。 <登場人物> 翔子:主人公 芳賀啓志:翔子の父 芳賀登美子:啓志の母、翔子の祖母 芳賀仁志:啓志の父、翔子の祖父 ジャン:翔子の夫(イギリス人) * * * * * 第2章:父ーグラウンド 01 芳賀啓志は、書斎の北向きの窓を開けた。 さっと風がカーテンの裾を舞い上げる。庭では雀がしきりに賑やかな声を立てていた。朝の5時を回ったところだ。あたりは、うっすらと
第1話(01)は、こちらから、どうぞ。 前話(03)は、こちらから、どうぞ。 <登場人物> 翔子:主人公 ジャン:翔子の夫(イギリス人) * * * * * 第1章:翔子ーフライト04 ジャンは卒業すると教授の紹介で美術館にアシスタントキュレーターの職を得た。その2年後に学位卒業した翔子は、小さな古書店に勤めた。ジャンと暮らしていたアパートはシティの近くだったから、金融機関に就職すれば、もっと良い給料が得られただろう。だが、古書店は翔子にとって憧れであり、イギリス留学
第1話(01)は、こちらから、どうぞ。 前話(02)は、こちらから、どうぞ。 * * * * * 第1章:翔子ーフライト03 この国には勉強をしに来たのだからと。はじめは頑なにあらがっていた翔子だったが、ひとりで異国の地にいる寂しさがあったことは否めない。 その冬一番の冷え込みになった朝、部屋のヒーターが故障していることに気づいた。イギリスの冬は寒い。セーターを重ね着しマフラーを巻いて布団にくるまったが、それでも、古い安アパートの窓のすき間から容赦なく侵入してくる冷気
第1話(01)は、こちらから、どうぞ。 第1章:翔子ーフライト02「ブレックファストだよ」 ジャンに耳もとでささやかれて、我に返った。 どうやらいつの間にか再び眠りに落ちていたらしい。朝焼けの雲海を眺めながら、遠い日の追憶にふけっていたように思っていたのだが、どこからが夢だったのだろうか。 ジャンと出会ったのは、ロンドンに留学してまもないころだ。 その朝は寝坊してあわてていた。キャンパス前の信号がウォーキングに変わるのを、せわしなく足踏みしながら待っていた。信号が
第1章:翔子ーフライト01 まだ、機内は暗い。 だが、窓の縁からにじむ光が夜明けを告げていた。 翔子は隣のジャンが一定のリズムでひそやかな寝息を立てていることを確認して、そっと自分のリクライニングをもどした。 周囲を気にかけながら、ほんの数センチだけ窓のシェードをあげる。 たちまち淡い光がきっちりと窓枠の幅で躍りだす。翔子は上半身だけ斜めに窓の方に向けて、光を遮った。 ふふ、いたずらをしている子どもの気分ね。 ためらいがちにシェードを半分まで持ちあげると、眼下