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太田明日香『書くことについてのノート』

太田明日香『書くことについてのノート』(夜学舎)を読む。

書くことを生業にしようと東奔西走し、自費出版をステップに商業出版にもこぎつけるが、後が続かない。周りが活躍することに嫉妬したり、「見返してやる」という思いで力み、かえって空しさを感じてしまったり。そうこうしているうちに「書くこと」が苦しくなってしまった筆者が、どうやって「書くこと」を楽しみ、嫉みや、出版という「労働」から自分自身を取り戻したか。もともとはTwitterで7か月にわたって発信したミニエッセイをまとめ、全面改稿したリトルプレス。A5判60ページなので、2回読む。

ライターや編集者、あわよくば作家になりたい。そんな思いを心の裡に秘めている人は少なくない。そしてnoteであれfacebookであれtwitterであれInstagramであれ、フォロワーや「いいね!」「スキ」の数に一喜一憂する。だれでも評価されれば嬉しかったり、評価が低ければ自尊心を損なった気になったりする。だが、他人から査定される生き方を選ぶならば、創造的なことをできるはずがない。

筆者は、特別なことをしなければいいものは書けないという思い込みを捨てて、「自分にとっての面白く楽に書ける方法で書く」ことを考える。本書がTwitterのミニエッセイから始まったのがその実践。成功した人を「いいな」と思うより、「よかったね」と思うようにする。自分の書く文章の、最初の読者は自分なのだから、自分が楽しめる文章を書く。人から評価され、売れるため「メジャーバンド」のような文章ではなく、自ら音楽をたのしんでいる「インディーズバンド」のような文章を書けばいい。そう筆者は考える。

「正直こんなことまで書いてしまっていいのか」と惑うとおり、筆者は強烈な自意識過剰と承認欲求を吐露する。ただ、作家でミュージシャンの町田康のいうとおり、誰であっても、無名であっても、絶対におもしろい文章を書くコツは「本当のことを書くこと」。そのときの本当の気持ち、本当に考えたこと、本当に思い浮かべたことを、書くという自意識にとらわれずに、正直に書くとき、その随筆はおもしろくなる。本書の筆者は苦しみながら、もだえる心を文章にしている。リトルプレスでも、十分におもしろい。むしろ、ライターになりたい、作家になりたいと同じ思いを抱えている人は、筆者の抱くもどかしさに共感を覚えるのではないか。

とても興味深く本書を読んだが、いざ自分はどうなのかといえば、このような悩みの段階を、もはや通りすぎている。こうやってnoteを書いていて、どなたか出版社の編集者の目にとまってくれないかという下心もないわけではない。

ただ、無目的に、無報酬で、ただ自分の心の向くままに文章を書く愉しみ、悦びを感じている。「往復書簡」も、読むのにも書くのにも時間も手間もかかるが、自分の想いが伝わったとき、そして相手の想いを受けとめたとき、真実に心が震える。此の上ない幸せ。だから、書いている。

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