すぐに分かるような経験は、大したことはない
まず経験を信じよ。信じるから疑うことができるのだ。その一方で、経験もせずに軽々しく信じるな。疑うことで、経験していない事実を覆い隠すな。信じるということは、責任を取ることだ。信じるという力を失うと、人間は責任を取らなくなるのだ。
小林秀雄は、あくまでも批評の精神を説いている。本を読まないでも本の批評をし、経験もしていないことを、理論で説き伏せようとする批評に苦言を呈している。『私の人生観』発表当時の文壇を憂いての発言だが、それから70年以上が経過した、いま眼の前にいる読者に