【取材】「創造提案企業」フレスタのサステナビリティ―環境、健康、地域―(後編)
公益財団法人流通経済研究所
上席研究員 石川 友博
研究員 寺田 奈津美
こんにちは。後編では、近年のサステナビリティについての取り組み成果や、ダイバーシティ、ウェルビーイング、エンゲージメント向上などの取り組みについて、前編に引き続き株式会社フレスタホールディングス執行役員の渡辺さんにうかがったお話を紹介します。
※前編はこちら👇
近年の取り組み成果-エネルギー使用量削減など
――この1、2年での具体的な取り組み成果について教えていただけますか。まず環境分野についてはいかがですか。
そうですね、環境分野についても基本的にはQMSの現場活動が中心です。例えば、エネルギー使用量の可視化を進めることで、削減を実現しています。また、リサイクルステーションやトレー回収の取り組みも毎年成果を上げています。これらは私たちにとって通常の活動であり、日々の取り組みによって得られた成果です。
確かに、環境に優しい取り組みとして自家発電やパネルの設置なども行っていますが、全体から見ると微々たるものですし、はじめの1~2年は効果が出るものの、3年目以降は劇的に数字が変わることはなく、少しずつの改善が続きます。そのため、環境に優しいイベントや企画を先導して行うことで、常に従業員に環境意識を持ってもらうよう努めています。
――健康の取り組みについてはいかがでしょうか。
健康の取り組みは2014年から行っています。例えば「今月は豆腐」といった形で、従業員向けに毎月テーマを決めて、従業員がその商品を購入するとポイントを付与する仕組みで、健康に良いものを会社が推奨するプログラムを実施しています。これに加えてコラムや体操の動画も提供しており、例えば、豆腐の効用や美味しい食べ方を紹介するコラム、腰痛防止の体操を指導するインストラクターの動画などがセットになっています。これは昨年から始めた取り組みです。以下はその一例で、フレスタが考案し、自社のYouTubeチャンネルで配信している体操プログラム「フレスたいそう」です。
また、日本政策投資銀行の健康経営格付で3回Aランクを取得しました。飲食料品小売業では初とのことです。今後は「ホワイト500」のような外部の公的な評価の取得も目指しています。外部からの評価を受けることで、会社の取り組みが正しいかどうかを確認し、健康経営が単なる自己満足に終わらないようにしています。
社内だけで判断すると、「これでいい」と思い込んでしまう傾向があるため、自分たちの取り組みが社会全体の動向とかけ離れていないかどうかを確認することが重要です。企業という組織の特性上、異なる意見が出にくい傾向があるので、外部からの情報を得ることで、自分たちの取り組みが正しいかどうかを客観的に評価することができます。
――地域の取り組みについて、この1、2年で成功した具体的な事例があれば教えていただけますか?
当社は昨年の3月に広島市の「ひろしま型地域貢献企業」の認定を受け、地域の活性化に積極的に関わることを宣言しました。
私たちの会社は地域なしでは成り立たないため、自治体などからの公的な認定を受けるなどして、地域との関係を深めていく必要があります。また、各店舗の店長が地域の学校や行政機関と連携し、地域との関係性をしっかり構築することも重要視しています。
今後、人口減少が続く中で、スーパーやコンビニが地域のコミュニティーの中心になると考えています。行政機能や病院の一部が入り、現在少なくなってしまった、自治会や地域の祭りといった地域の人々が集まる場所としての機能を、私たちの店舗が果たすようになるでしょう。
そのため、これからの店舗作りは、単なる販売促進だけでなく、地域の維持と人々の集まる場所としての機能を重視します。例えば、スーパー内に市役所や区役所の出張所が設けられたり、病院の一部が入ったりすることで、地域の生活機能を支える場所になるでしょう。これにより、店舗は従来のような大規模なものだけでなく、より小さく効率的な店舗作りが求められます。
例えば、行政手続きができるスペースや公民館の代用のようなイベントホールを備えた店舗作りが考えられます。こうした取り組みにより、1日3000人、4000人の集客がなくても、1000人程度でも成り立つビジネスモデルを構築することが重要です。地域との関わりは、これまで以上に密接で多機能なものになるでしょう。
ダイバーシティ実践:理念経営の基盤の上で組織を揺らす-3年異動徹底
――人的資本経営が注目されていますが、ダイバーシティを実現し、多様な意見が出るようにするために具体的にどのような施策を実施しているのか教えていただけますか?
そうですね。まず、当社は下図のような人財戦略を推進し、「中国四国で最も働きやすい企業グループ」をめざしています。そのうえで、創造性豊かな企業でありつづけるために、組織内での思考が止まらないように、マネジメントとして意図的に組織を揺らす取り組みを行っています。長期間同じ組織が続くと、変化への抵抗が強くなり、新しい取り組みを導入する際に問題が生じます。そのため、基本的に従業員全員の異動を3年ごとに行い、同じ部署に3年以上留まらせないようにしています。これにより、従業員は常に新しい環境に適応し続けることが求められます。
また、採用に関して、理念に共感する人を8割、新しい視点をもたらす可能性のある人を2割、採用するようにしています。2割の人は会社の社風に合わずやめてしまう可能性もありますが、その中で残った人が革新的なアイデアを出すことを期待しています。これにより、組織の同質化を防ぎ、新しいイノベーションが生まれるようにしています。
このように、意図的に異なる意見や視点を取り入れることで、組織が硬直化することを防ぎ、常に新しい変化に対応できるようにしています。
社長はエンゲージメントを高める取り組みに力を入れています。最終的に、従業員が安心して働けるようにし、経営がサステナブルに続くことが経営陣の目的であり、そのために従業員が会社の理念に沿うよう努めています。私も同じ考えですが、それぞれが役割分担をしています。社長は全体の理念や会社の方向性を示し、自社の理念である「お客様の笑顔を原点に」に加えて、「褒める文化を作ろう。」「1人の100歩ではなく、100人の1歩」という考え方を、折に触れて必ず説明しています。
一方で、私は人事的に仕組みを揺らしてバランスを取っています。理念一辺倒になると、突飛な人材を採用しなくなり、異なる視点や新しいアイデアを持つ人材が入らなくなるため、現状維持が続き、変化が起こりにくくなります。これでは組織が硬直化し、新しい発展が難しくなります。結果として、同じ人に同じ業務を続けさせ、新しいことに取り組まないようになってしまいます。新しいことは脳が一番エネルギーを使うので、嫌がるのは自然なことです。
人は習慣に従う方が楽なので、みんな習慣化しようとします。しかし、たとえ良い習慣であっても、世の中が変わるとその習慣が合わなくなることがよくあります。結果として、お客様のニーズを見失ってしまうのです。しかし、従業員一人一人に「お客様を常に見なさい」と言い続けても、見ない人は見ません。基本的に、人は今やっていることを変えたがらないのです。だからこそ、意図的に人を動かし、動くことが当たり前になることで、常にお客様を見させ続けることが重要です。
ダイバーシティについてあえていえば、私たちの組織はもともと多様性に富んでいます。女性の比率は85パーセント、障害者は180人、外国人は300人、LGBTQの人もいます。年齢も75歳まで働くことを可能にしています。つまり、究極のカオス状態です。
それくらい多様な人がいるなかで、私たちは3年ごとに人事異動を行い、同じ場所にとどまらせないようにしているので、新しい人と上手に協力する能力が自然と身につきます。さらに、障害を持たれた方は各店舗に1人必ず配置するようにしているので、障害を持たれた人たちと接することが日常的になります。また、認知症サポーターの研修を受けた従業員が約300人おり、そうした対応について学ぶ機会も多いです。基本的にこの環境にいるだけで、多様な状況に対応する能力が自然と身につく仕組みになっています。
ウェルビーイング経営の実践-「みんながスマイルプロジェクト」で全員笑顔を
――ウェルビーイングについての施策や今後取り組みたいことについて教えていただけますか?
ウェルビーイングについては、健康経営の一環として、従業員自身の健康寿命を延ばすことや地域のまちづくりを推進しています。その中で、「みんながスマイルプロジェクト」では、特に若い社員の提案を重視し、働きやすい環境を作っています。一方で、女性活躍推進も重要ですが、当社の従業員は女性が85パーセントと多数派であるため、「みんながスマイルプロジェクト」では、女性だけでなく全ての従業員が笑顔で働ける環境を目指しています。
「みんながスマイルプロジェクト」の具体的な取り組みとして、現場では「ありがとうコンテスト」などを実施しています。パートさんは店長に個人的に褒められることはあっても、公の場で褒められることは少ないので、カードを作って褒め合う仕組みを整えています。こうした取り組みはプロジェクトメンバーが企画し、自分たちで実行しています。
例えば、服装の自由化もその一環です。以前はほぼ黒い髪でなければならなかったのですが、現在では金髪に近い色まで許可しています。ただし、異物混入防止のために一部のルールはありますが、それ以外は基本的に自由です。
また、新店開店時には、売り場を広くする代わりに、従業員の休憩スペースなどを狭くするということになりがちでしたが、プロジェクトを機に売上規模を考慮して各店舗でこれらを決定するように方針を変更しました。
他にも、営業時間の短縮、経営者と管理職志望者の食事会など、さまざまな変革が実現しています。女性管理職のフォロー体制についての議論も行っています。
私たちは、常に変化を取り入れることが成長の鍵だと考えています。同じことを繰り返しても成長はありません。流行や時代の変化に対応し、常に新しい取り組みを行うことが重要です。
「みんながスマイルプロジェクト」の他のウェルビーイングに関連する取り組みとしては、半年に1回、エンゲージメント向上のための管理職研修を実施しています。管理職には年1回実施する従業員向けのエンゲージメントサーベイ(無記名式)の結果をその場で共有し、その内容を元にエンゲージメント向上のためのアクションプランを考えてもらい、PDCAサイクルを回して、半年ごとにその進捗をチェックしています。
また、人事責任者である私(渡辺さん)は約600名の全従業員と1対1での面談を年1回行うようにしており、店舗に出向いて対面で実施しています(現在は取締役を含めて手分けして面談を実施しています)。これにより、直属の上司には伝えにくい家庭事情や今後のキャリアについても、人事責任者に言うことで、それらの事情を考慮した人事配置などの具体的な対応ができるようになっています。これを開始してから、勤続期間が大幅に延びました。以前は突然の辞職もしばしばありましたが、現在は社員が自発的に相談してくれるようになり、適切な対応ができるようになっています。
これらの持続可能な働き方の創造に関しては、当社は小売業界の中でも進んでいる方ではないかと思っています。実際、有給取得率は約60%に向上し、平均残業時間も11時間まで減少しました。
――サステナビリティに関する情報発信の取り組みについて詳しく教えていただけますか?
サステナビリティに関する情報発信は、主にSDGs推進室が担当しており、地震があった際の募金活動や、サービスとしての新しい取り組みなどを発信しています。宅配システムの変更など、会社全体に関わる情報は私が発信しています。会社全体で年間で約40件ほど情報を発信しています。
小売業は変化対応業なので、世の中の変化に対してどれだけタイミングよく情報を合わせられるかが重要です。意図的に情報を発信することもありますし、結果的にうまくいく場合もあります。ただし、今は安易に情報を出すと人権問題になってしまうこともあるので、そうした点には特に気をつけています。ですので、自分たちのエゴで情報を発信するのではなく、お客様の動向を見て、世の中の変化に合わせた情報発信をするよう心がけています。
サステナビリティのネクストステージ-データ活用型健康経営
――今後、理想にさらに近づけるために、サステナビリティの領域ではどのような施策を考えていますか?
究極の健康経営やサステナビリティは、病院とリンクした取り組みを行うことです。現在取り組んでいるのは、医師会の方々と協力して、お店にがん検診の車を配置し、お店に来たお客様がその場で検診を受けられるようにすることです。
現在、一部の店舗ではスポーツジムをテナントとして迎え、運動と食事を組み合わせた取り組みを行っています。しかし、健康診断のデータに対してどう対処するかは、病院の役割であり、私たちの範疇を超えています。
どちらにしても、食べること、運動、病気のケアがセットにならないと、健康経営は成り立ちません。お客様の視点から見ると、体調に合わせて食事や運動をし、必要な時に医師のフォローを受けるという流れが理想です。
そのため、今は医療系の大学の先生や管理栄養学科の先生と積極的に連携しています。彼らはデータ分析も得意なので、協力しやすいです。最終的には、病気の予防と健康的な生活が一体となった健康経営を目指しています。また、ベンチャー企業と連携し、フレスタで購入した商品のデータを分析して、足りない栄養素をお客様に知らせる取り組みも実施したことがあります。しかし、このようなシステムではフレスタ以外で購入した食品がカウントされないという問題があります。例えば、お昼に定食屋さんで食べたものはデータに含まれません。これでは100パーセントのサービスを提供することが難しいです。
さらに、購買データを見ると、実際に買っている人と食べている人が一致しない場合もあります。例えば、お年寄りが孫のためにお菓子を買っているケースなどです。このように、データが正確でないと、正しい健康アドバイスを提供することは難しいです。
ですから、もっと大きな枠組みで、行政や国がビッグデータを活用して、それぞれに合った健康提案ができると理想的です。現段階では、一企業ができることとして、正しい商品を提供し続け、運動の企画を行い、情報提供として健康に関するコラムを書くなど、最大限の取り組みを行っています。
まとめ
今回は食品スーパー・フレスタのサステナビリティ推進について、SDGs推進室の立ち上げ、現場でのサステナビリティ推進を担うQMS活動、ダイバーシティの実践などについてご紹介しました。その中で、特に重要なポイントとして、以下の3点が示唆されました。
専門部署の設置:サステナビリティの推進を目的として、社内外の窓口となるSDGs推進室を部門横断的に設置し、そのトップには取締役を任命した。これにより、実業務との兼務の難しさから解放され、会社としての方向性を明確に打ち出せるようになり、法令等への専門的な対応が可能となった。また社内の各部門に対して推進すべき内容を指示し、全体の取り組みを統括するとともに、外部から見た専門部署が明確になることで、自治体等との情報交換が活性化し、取り組みを積極的に発信することが可能になった。
組織を揺らす:同じ部署に3年以上留まらせないようにして、従業員を常に新しい環境に適応させる状況をつくる。それにより組織の同質化を防ぎ、変化への抵抗が働くのをおさえ、新しいイノベーションが生まれやすいようにしている。
自分ゴト化するための仕組みの重要性:フレスタでは、環境・健康・地域といったサステナビリティ活動がQMS(小集団)活動に委ねられている。QMSは全社で600チームあり、それぞれがPDCAサイクルを回して改善活動を行い、成果は半年に一度のアワードで共有され、横展開される。またQMSの設定目標の達成度は社員の賞与評価に直結するなど、サステナビリティの取り組みを自分ゴト化する仕組みとして機能し、成果をあげている。
食品スーパー業界で注目される地域密着スーパー・フレスタにおけるサステナビリティ推進の事例をご紹介しました。業種・業界が違っても、専門部署の設置の意義や、ダイバーシティを発揮するための組織マネジメントなど、示唆に富んだお話ではなかったでしょうか。
とくに社長が全体の理念や会社の方針を示して社員を理念のもとに結集させ、渡辺さんが人事や仕組みをあえて揺らすことでダイバーシティを発揮し「創造提案企業」を理念とするフレスタらしさを確固たるものにするというマネジメントは非常に興味深いものといえます。
少なくない食品スーパーが、人手不足のため、自社の抱える問題で手いっぱいで、社会課題にまで手が回らないという状況にあるのが現状ですが、こうした現状を変え、地域の社会課題解決に取り組み、お客様からの支持を得ていくためのヒントが、フレスタの事例には多く含まれていると思います。
――渡辺さん、ありがとうございました!
今回の記事にいいねと思ったら、スキをお願いいたします💡
フレスタホールディングスグループのサステナビリティの詳細はこちら👇
サステナビリティ取り組み企業の紹介 その他の記事はこちら
#サステナビリティ #事例 #小売 #フレスタ #QMS活動 #推進体制 #環境 #健康 #地域 #リサイクル #健康経営 #環境経営格付 #健康経営格付 #エネルギー使用量削減 #サステナビリティ経営 #流通経済研究所