雨の日の階段

外は雨。関東は今日から梅雨入りらしい。
6月の雨というと、中学校の階段を思い出す。私はバスケ部だったのだが、平日体育館が使えるのは火曜と水曜だけで、木、金は校庭の外周を走ることになっていた。外周300mを20周で約6km。ここ最近ランニングをするようになったので今となってはたいした距離ではないように思えるが、あの頃の自分にはかなりしんどかった。毎週、木曜、金曜は朝、家を出るときから憂鬱だったのを覚えている。

苦い気持ちが呼び起こされる外練(当時はそう呼んでいた)だが、雨が降ってグランドが使えない場合には「階段」というメニューに変更になった。そして当時の私はこの練習が何より苦手、大嫌いだった。
私の通っていたの中学校の校舎は4階建てで、両サイドに階段があった。この練習では、西側1階の階段を4階まで駆け上がり壁をタッチして1階まで走って降り、1階の廊下を抜けて西側の階段を同様に昇り降りしてスタート地点に戻ってようやく1セット。これを20セット行う。単純に平面を走るより工程が複雑だからか、外連と同じ20セット以上に気が重くなる練習だ。ある6月の放課後にじめじめとした学校の階段をひたすら登っていた。ランニングほどの速さはないが、この上下運動は確実に、そして着実に私の体力を奪っていく。窓がないので風がない。クーラーもなければ扇風機もない。体中から汗があふれでてくる。袖で顔の汗をぬぐうけれど、学校名が蛍光オレンジの文字でプリントされたTシャツは汗をうまく吸ってくれない。まだ10セット以上も残っていることに途方に暮れて、私は途中から数えるのをやめた。
ふらふらになりながらもかろうじて20セットを終えた私は、玄関横にある1台だけある冷水機にしゃぶりつくのだった。あの冷水機だけが救いだった。
インドにいたときにひょんなきっかけからハーフマラソンを二回も走ることになったが、そのおかげで長距離走というものへの苦手意識はだいぶ緩和された(フルマラソンを走る勇気はまだない)。しかし、この「階段」の練習はもう二度とごめんだ。梅雨という言葉を聞くと、いまだにあの苦い気持ちがよ蘇る。

ところで、なぜこの思い出が6月だったと言い切れるかというと、ちょうど部活のみんながワールドカップの話をしていたからだ。1階には守衛室があり、そこにはテレビがあった。「階段」トレーニングを行いながらも、廊下を走りながらだれもが試合の趨勢が気になって仕方ない様子だったのを覚えている(注:私たち部活はバスケ部)。

気になって調べてみると、2002年6月の日韓ワールドカップの日本戦で、木曜日か金曜日のいずれかの曜日かつ夕方に行われた試合は、6月14日(金)15時30分キックオフのチュニジア戦のみだ。森島(48分)と中田英(75分)がそれぞれのゴールし、0-2で日本が勝利を納めている。これにより日本は初のグループリーグ突破を果たした。練習はだいたい16時から始まる。走っている途中に森島と中田英のゴールを廊下で聞きつけて盛り上がったのだろう。

考えてみると2002年6月ということはまだ中学1年生、しかも入学して2ヶ月しか経っていない。それでいきなりあの練習はしんどいわけだ。

これまた余談だが、当時やたらと話題になっていたトルコ代表選手がいたけど誰だっけ?と思ってしらべたら、そうだ「イルハン」だった。トルコは決勝リーグで日本を破り、ベスト4まで行く快進撃だった。イケメン・イルハン王子は怪我による引退後、なんとフィギュアスケート選手に転向したそうで、こへへーとなった。

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