【歌から妄想してみた】第四回 ハリケン・リリ、ボストン・マリ つづき

歌から妄想してみた(企画主旨)第四回、前回妄想の続き(以下太字部分妄想)


H30太田晴男(15)
 鍋を洗っているときに強い光に視界を奪われ、気が付いたら飛行機に乗っていて、梯子のようなものが下りてきたのであった。そして、その先にいた山田さんというスーツを着た、謎の太ったおじさんと会う。彼は、僕に今は2018年だと言った。僕は1960年に戻ろうとするも、戻れない。ここはどういう世界か。まさか、宇宙のどこかの惑星ではないか。山田さんは宇宙人。山田さんは僕を家に連れて行ってくれるというので、怖いけれど家についていってみることにした。宇宙人の家についていく体験などそうそうできない。
 山田さんは道中、僕にいくつかの質問をした。宇宙人は日本語が流暢である。山田さんは僕にここに来た経緯、僕の生い立ちを聞いた。山田さんとの会話よりも、僕は夜なのに、光輝いて、まぶしく、人が大勢いる宇宙の街並みを眺めるのに気がいっていた。山田さんがところどころで構っている、機械も何をしているのかわからないけれど、感覚的に凄いと感じる。日本にはもちろんあのような機械もないし、夜は静かだ。途中、これまた光がまぶしい本屋のようなところを通りかかったときに、「太田晴男の本」という文字が見えた。なんだ、これは?なぜ、僕の名前が本屋に。疑問に思ったが、山田さんはスタスタと先を行くので聞きそびれた。
 山田さんの家は、二階建ての団地のような場所の二階にあった。彼がカギをあけて、ドアを開け、中に入り、廊下を通って一番奥の部屋に行くと、廊下の先にはすこし臭い汗のようなにおいと、衣服が散らばっている部屋があった。布団は敷きっぱなしで、少し黄ばんでいる。宇宙人はこんなに、汚い部屋にすむのか。そう思った。山田さんは床に散らばっている衣服をどかして、座布団を投げるように置き「ここに座って。」と言った。そして、彼は冷蔵庫のようなものをあけた。
 すごい。うちの家の冷蔵庫とは全く違った。光沢がかかっていて、中の明かりも優しい。そこから、水をだしてコップにいれてくれた。「ありがとう。いま山田さんが出してくれた水がしまってあったのは冷蔵庫?」「うん。」「すごーい。見せてもらってもいい。うちのとは全然違う。」興奮して、中に入っている物を見た。中に入っているものも不思議な食べものや飲み物ばかりだ。プリンが容器にはいっている。僕は、「プリンってあのプリン?」山田さんに聞く。山田さんは「食べる?」と聞いてきてくれて、プリンの容器を冷蔵庫から取り出し、スプーンをくれた。プリンは想像以上に甘くておいしい。宇宙ではこんなにもおいしい食べ物をたくさん食べることができるのか。そりゃあ山田さんも太るはずだ。プリンを食べながら、部屋を見渡しているとあるものが目に入る。
 僕はそれを見つけた瞬間、何のためらいもなく問いかける。「山田さん!これって電気釜でしょ?」山田は僕の質問に驚いたような顔をした「うん。電気釜。炊飯器だよ、炊飯器。知らないの?」「知らないよ!こんなかたちの日本にないもん」僕は山田に少しばかにされたように思われて悔しかった。山田さんは日本を馬鹿にしているのか。「僕の家は、まだ鍋釜でご飯を炊いているからこんなものがあるわけがない。」「そっか。知らないのか。」山田は噛み締めたように言った。「ご飯炊いてみたい!」僕が言うと、山田は「本当に知らないのか。わかった。」といった。何回僕を馬鹿にすればよいのか。彼は米をといで電気釜のボタンを押した。僕はその一連の作業を近くでじっと観察した。「あと、50分で炊ける。」山田さんは言った。
 待っている50分の間、山田さんは僕に仕事の話をした。彼は、営業の仕事をしていて、自分の理想と現実がかけ離れていることに苦労しているようだ。彼の言っていることは宇宙人の世界のことなので内容を事細かには理解できなかったが、「とりあえず、目の前のことに一生懸命になってみたら。お父さんはいつもそういっている。」と言うことを言った。山田さんは夢ばかりを語って、目の前にあることの悪口しか言ってなかったからだ。それよりもご飯が気になった。時間がたつにつれ、ご飯を炊くときのなんともいえぬ良い香りが鼻に指すのである。
 「ピーピーピー」という音とともに、「あ、炊けた。」と山田さんがいった。僕は炊飯器のところに行き、「開いていい?」と聞く。山田さんは顔に少し笑みを浮かべて頷く。僕は蓋を開いた。湯気と共に現れたのはピカピカに輝いた白米。「うわあ。」思わず感嘆の声を上げた。この感覚は、宇宙でも一緒だ。
 山田さんが彼のお母さんがつけたという梅干しを出してくれて、僕と山田さんはご飯を一緒にたべた。宇宙人の梅干し、ご飯は美味い。僕の炊いたご飯よりうまいのだ。僕と、山田さんはご飯を二杯ずつ食べた。僕は、お腹が相当一杯になった。先ほどプリンも食べて、ご飯も二杯食べたのだ。すると、山田さんはウトウトとし始めた。僕も眠くなりその場で寝転がって寝てしまった。


S60太田晴男(15)

 起きた時、天井の明かりは薄暗く感じた。次の時、母が顔を覗いた。「あ、目を覚ましたのね。」ここはどこだ。「あれ、山田さんは?」僕が言うと、「なにを変なことおっしゃいますか。まだ夢でもみているの?」母は困惑した表情を浮かべる。「まったくあんなところで、眠って。何を考えているの!」怒られるけれど、何の事だかわからない。何事だかはわからないが先ほどまで起きていたことを説明するのは難しい。もしかしたら、夢のなかだったのかもしれない。
 僕は「もう今日はそのまま寝なさい。」と母に言われたので、そのまま布団に寝転がっていた。しかし、寝付けない。思い出すのだ。あの宇宙のことを、なかでも印象的だったのはスイッチ一つでいとも簡単に僕が炊くよりおいしいご飯が炊けることだ。なんだかワクワクする。まだ、僕の家は電気釜すらない。さらに世間の電気釜で炊いたご飯はまずいと評判だと父が語っていた。しかし、僕は知っていた。宇宙には極上にうまいコメが炊ける炊飯器がある。
 その晩は結局眠れなかった。次の日、いつものごとくご飯を炊く。食べてみても、宇宙で炊いたご飯よりもおいしくない。しかし、父が「今までで、一番うまい。」と褒めてくれた。僕は嬉しくなかった。

H30 山田幸喜(25)
 眠りから目が覚めた。あの子がいない。家電の神様、太田晴男が。本当にあれはなんだったのだ。まさか、夢か。しかし、部屋には二人分の茶碗と、彼が食べたプリンの殻、炊飯器には茶碗一杯分くらいしか余っていないご飯が残っていた。確かにあの子は来たのだろう。
 思い出してみると、彼は太田晴男とだけあって確かに炊飯器を見る目は大そう輝いていた。この炊飯器は自社のもので、僕がご飯くらいおいしく食べたいと、少ないボーナスで奮発して購入した最高級のものだ。同僚や、後輩にそのことを話しても、「ますます太る」とか、「それを買うくらいなら、売れ」と嘲笑されるだけだった。しかし、彼は目を輝かせ、炊いたご飯に感動してくれた。それが僕に承認欲求を久しぶりに満たした。それも僕の認めたのは太田晴男という、日本の経済成長を支えた男なのだ。
 太田晴男をインターネットで改めて検索してみた。太田晴男のエピソード集というネットの掲示板が存在した。そこに、書いてあったあるエピソードを見て僕は驚愕した。「中学生の時、晴男は夢のなかで近未来の世界にいき、炊飯器で実際にご飯を食べたことがあるという。それが彼の炊飯器に取り組んだ原点だった。」と書いてあった。まさに、僕との体験ではないか。さらに、検索をすすめ、太田晴男の言葉にはこのようなものが存在した。「理想に踊らされるな、目の前のことに没頭しろ、その中で理想は生まれてくる。そして、それは人々の理想を成し遂げていることもある。手を動かすことなく、生まれた理想は理想で終わる。」
 僕が言うあてもなく、人と人とのつながりを大事にしない上司や、同僚、部下に対しての不満を彼にぶちまけたときに彼は同じようなことを言っていた。
 取り敢えず、これからは営業成績でトップを目指そう。そうすれば、何か見えてくるだろう。そのなかで理想を実現できるのかもしれない。僕はそう思うと、どこか心が安らかになった。

終わり

炊きという言葉とUFOという言葉に引っ張られたように思えますが、歌のSF感とマッチしたような妄想がなされましたね。そして、過去最長の妄想となりました。

僕はこの曲の歌詞の「臆病者が唱えてる優しさはいつも無責任、耳に心地いい言葉にいつまでも酔っ払っている」という言葉が好きで、それは実践なき哲学、走らない考察、まさに、妄想内の幸喜のような姿を指摘している言葉だと思います。逆に彼を励ましたのは目の前のことに純粋に夢中になっている晴男の姿と言葉でした。手と身体を動かしながら、生んだ言葉はどこか重みがあるように思えます。逆はどこか空虚に思えるのですね。経験なき、独断論はなんとでも言えるのです。

幸喜がこの後どうなるかは皆さまの妄想にお任せします。

さて、次回の妄想は最終回、渡月橋 ~君 想ふ~(倉木麻衣)です。

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