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最期の花火

夏が近付くと思い出す事がある。
これまでもSNSなどで言って来たけど改めて、俺が子供の頃の話し。



俺はよく母方のおばあちゃん家に遊びに行ってた。
実家から車で30分くらいの距離で周りが山と川、国道沿いで路線もある騒がしい環境の実家とは違って田んぼに囲まれた長閑な集落だった。
ばあちゃんとじいちゃんは畑仕事をしていて小さい頃から俺も土いじりを手伝ったりした。
少し離れた所が最上川の河口だったのでデカい堤防があってその周りに田んぼや畑がたくさんあった。


夏になると酒田市のデカい花火大会があってその堤防は地元の人しか知らない絶好の花火スポットだった。
その当時、5歳くらいだったかな?
花火大会当日、俺は母ちゃんとばあちゃんと3人で花火を見に行く約束をしていた。
ばあちゃん家の近くによく遊んでいた公園があってそこからでも十分見える。



ただその日は朝から雲行きがあやしかった。
大雨になると花火大会は中止。
俺はどうしても花火が見たかったからてるてる坊主を作ったりとにかく晴れる事を祈った。


夕方になっても天気は良くならず雨も降り出した。
「もう今日は花火上がんねよ…」
母ちゃんがそう言い聞かせてきたけど俺は諦められなかった。
ばあちゃんが、行くだけ行かないと納得しないだろって公園までとりあえず行ってみる事にした。

雨の中、3人で傘を差しながら公園に向かう。
公園に着いてから花火が上がる方をただじっと3人で見つめていた。
遮るものが何も無い平野なので遠くの堤防もしっかり見える。
田んぼが広がる視界に1箇所だけ煙突が見えた。
その煙突からはモクモクと煙が上がっていて灰色の雨空に溶けてゆく。

雨はどんどん強くなって母ちゃんもばあちゃんももう諦めて帰ろうと言ってきた。
俺も半分諦めてはいたけどまだもしかしたらって期待もあった。
ただ呆然と堤防の上を見つめ続け、ばあちゃんが「よし、あど行ぐぞ。」と言った瞬間だった。


ちょうどさっきの煙突の横らへんで花火が1発上がった。

「あ!花火!」

俺は興奮気味にそう言うと母ちゃんもばあちゃんもその瞬間を見て無かったのか「何処?」、「嘘だぁ〜」などと疑ってた。
俺は詳しく説明して、暫く同じ方向を眺めていたがその後1発も上がらなかったから母ちゃんとばあちゃんの中では俺が嘘を付いてると思っただろう。

何故あの時1発だけ、俺だけ、花火が見れたのか?その時はなんとも思わなかったどころか信じて貰えなかった事に怒っていたと思う。
後にその事をふと思い出し、不思議な事に気付いた。
あの日結局花火大会は中止になってたらしい。
じゃあの花火はなんだったのか?

あの時見た田んぼの真ん中にある煙突がふと頭を過ぎった。
同じ頃、叔父(母親の弟)と公園へ遊びに行った時、俺はその煙突を指差した事があった。


叔父は「ダメ、指差すな!すぐ親指噛め!」


と訳の分からない事を言い出した。
今思えばいわゆるエンガチョ的な事だったと思う。
そう、あの煙突は墓地に隣接してる火葬場の煙突だった。
昔は今みたいに火葬場が別の場所に施設としてある訳では無かった。
大体は墓場の横にある小さな窯で火葬を行っていたらしい。
あの日、つまり当時はまだその釜が現役で煙が出てたという事はまさに火葬中だったって事。
そうと気付いた時に、あれは多分あの日火葬された方が最期に見せてくれたんじゃないかって思う様になった。
一瞬ゾッとしたけど、なんとなく怖いって感覚より、ありがとうって気持ちになった。

最期の花火は今も目に焼き付いてる。

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