メンタルヘルス、手厚いケア制度整う
今回は英国のメンタルヘルスのケア事情をお伝えします。
以前の記事ではフィジカル面での病院の治療制度についてだったので、今回はメンタル面でのお話。少しどんよりしたお話ですが、同時に英国の良いところのご紹介なので、うまく相殺されるのではないでしょうか
・私に鬱症状が出た
自分で認めるまでにとても時間がかかったし、実はまだ1人(セラピーの先生を除いて)にしか伝えられていません。その方にも表面的なことを軽く伝えた程度。
人に言いにくい理由は主に2つ。
1つは、いまだに自分がメンタルやられた、や「うつ」と言うのには抵抗があるから。プライドだったり、日本人のうつの捉え方がかなりネガティブだったりすることが原因かな。
もう1つは、自分の症状を話そうとすると涙が溢れて話せなくなる、という物理的な理由。
お伝えした、たった1人は業務上必要だったからで、それでも言うまでに1カ月かかったし、長く伝えようとすると涙が出そうになった。あと、私の症状が、カウンセリングとピルで少し落ち着いたころだったから、まだ安定して話せた。
自分でもまさかとは思った。
好きな仕事に就いて、海外で暮らして、自分のやりたいように生きて、発症する理由なんて思いつかない。それに、自分で選んだ道なのに、どうして辛いことがあるものか、弱音は言っちゃいけない、と母親にも言われてきた。
そりゃそうだ。私は恵まれているし、新型コロナ危機の中でも仕事を続けられている。他に悲しい思いをしている人はたくさんいる。
ずっとそう思ってきたし、今もやっぱりそう思う。周りの友達が一時帰休となり、3カ月仕事がなくなったり、毎日ニュースで多くの人が亡くなったと聞いたりしていたから。他人事と思えなかった。
だから認めたくなかった。自分が弱い人間と思うのが嫌だった。認めてしまうともっと弱くなりそうで、とっても怖かった。
でも、心の弱りは物理的に身体にも影響を及ぼしてきた。自覚せざるを得ないほどに。
食事の味がしない、食欲がない、眠れない、毎日頭痛がする、1日何度も涙が出る、全てに対して虚無感しか抱かない、生理がこない・・・など。
私の中で、特に「ご飯が美味しく感じない」のは一大事だった。食べることが大好きな私。風邪を引いて寝込んでも、次の日には食欲が回復するほど頑丈にできているのに、これはおかしいと感じた。
涙が出るのも変だ。ちょっとした感情の高ぶりで泣いてしまう。悲しいのか辛いのか怒っているのか、理由もなく突然に涙が溢れ出す。
昼夜問わず、朝から泣くこともあるし、少し落ち着いたと思ったらまたぽろぽろと出てくる。自分の感情をうまくコントロールできなくなっていた。
泣き声を聞かれるのが嫌でシャワーの中で泣いたり、声を押し殺したり。わんわん泣くことができたら、逆にスッキリしたのかもしれない。
喋るのも人と会うのも嫌だった。声を発することがとてもしんどくて、自分が生きているのか何なのかもふと分からなくなる事があった。
そんな中、階段から落っこちて歩けなくなった。
1週間以上ぶりに外出しようと思った矢先。自分の中で何かが壊れた。
もう無理、辛い、助けて。
もちろん、誰も助けてはくれないし、頼れる人はいない。そう気づいた瞬間、いつも以上に涙が出て、止まらなかった。
20分くらいかな。暗い踊り場で座り込んでいた。誰もこない。動かなくなった足を引きずりながら、なんとか両手も使って家に戻ってきた。
情けなくなった。
何にもできない自分。階段から落ちるなんてほんとばかな自分。全てが嫌になった。
このままじゃダメな事は分かっているし、自分で自分をお世話してあげないといけない。自分はうつなのかもしれないとようやく思って、GPに相談することにした。
・英国での心のケア制度
GPに電話していきなり症状を話すのは苦行でしかない。幸いにもコロナの流行で、オンラインでのカウンセリングサービスが設置されたことから、まずはテキストで相談した。
メンタルの問題を抱えているとフォームで答えると、十数問の質問票が送られてきた。うつの症状を調べるもので、過去2週間で自分の状態は変わったかなどを1つずつ答えていく。
それが終わると、後日担当の先生から電話がかかってきた。そこではもう一度、先の質問の内容と似たような事が聞かれ、より詳しくお話しした。質問に書かれていないことでもいましか言うチャンスはないと思って、事前に文字に書き起こしていたものを読み上げた。
英語だったからか、思っていたよりすんなり伝える事ができた。
先生は丁寧にゆっくり聞いてくれる。結局、先生からは、抗うつ剤を処方されて、様子を見て2週間後にもう一度お話ししましょうと言われた。
正直なところ、抗うつ剤を飲むことには抵抗があった。そもそも薬を飲まない主義なのと、性格上、精神的なものは副作用があるかもと偏見の塊で見なしていたから。
実際、先生にも最初は副作用が出ると思うと言われて余計びびったし。
先生にアドバイスされたことはもう1つ。NHSが管轄するメンタルヘルスサービスにかかること。こちらもセラピーの先生がカウンセリングしてくれるもので、より専門の先生がケアしてくれる。
このサービスを受ける際には、さらなる膨大な質問票に答える必要があって、それに基づいてカウンセラーから後日、電話がかかってくる。
私はまず初めのカウンセリングが1時間以上だった。めちゃくちゃ質問されて、事細かく説明する必要があった。途中、しんどくなって待って欲しいと伝えたら、待ってくれるし、私のペースに合わせてくれた。
個人的に、okの言い方がとっても優しくて包み込んでくれる感じがして、心地良かった。
定期的にカウンセリングを受けてはや1カ月。だいぶ落ち着いてきて、涙が出る回数も減った。まだ外出するのは億劫だし、何かをするのにもやる気はあまり起こりにくい。けど、一番ひどい時と比べるとかなり安定している。
ここまで、メンタルケア制度が整っているとは思っていなかった。
サービスはいずれも無料だし、自分では日本人のだれかに話すより、あまり抵抗なく伝える事ができた。
・若者の鬱発症が急増
パンデミック中に、若者の鬱発症者が急増しているというニュースを見た。
8月の話だったけど。
政府統計局の発表によると、6月は5人に1人が症状を訴え、1年前からほぼ倍増。特に若者の生活は、新型コロナ危機で教育や雇用、日々のルーティンなどの面で劇的に変化しており、多くが社会からの孤立や不安、自身の将来に対する恐怖に苦しんでいるという。
私に当てはまっている・・・といまになって感じる。このニュースを読んだときはあまり目に止めなかったのだけど。
・なぜ英国は手厚い?
英国が、というより欧州は全体的にメンタルヘルスへのケア制度が整っていると思う。体感でしかないけれど、企業もうつ病診断を提出すればさまざまなケアが受けられるようになっているし、きちんと病欠扱いになるとも聞く。
自分はうつだ、と自信を持って?いう人も多いという。メンタルヘルスに対してあまり抵抗がないようだ。
大学院に通っている時も、心のケアをしてくれるホットラインがあったり、孤独や辛さを一人で抱え込まないように支援するコミュニティーがあったりと、かなり手厚い印象を受けた。
トイレに張り紙とかあるの、いつでも話を聞きますよ。て。大学公認の団体が運営しているの。
当時は、ふーん程度だったけれど、ここまでたくさんのサービスがあると、自分の悩みやうつかもしれないけど認めたくないこの葛藤が少し和らぐ気がする。
なぜ手厚いのかの答えにはなっていないけれど、いたるところでこういうのを出くわすと、ちょっぴり安心する。
そんな英国の良いところを思わず発見した。
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