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【しなやかに生きる】勝ちを急ぐときほど勝ちが遠のく-赤ちょうちんの大将のこと-

京都三条。

三条大橋近くの赤く光る赤ちょうちんの大衆居酒屋。

暖簾をくぐって年季の入った店内に入ると
何とも言えないごちゃごちゃ感。

けっして小奇麗だと言えないが
なんだか不思議な居心地良さが漂っている。

小さな店の中をグルリと囲むようにカウンターがあって
その中の厨房で大将が一人、料理と接客をしている。

「いらっしゃい!」

にこやかな笑顔でぼくを迎えてくれる。

そんな三条大橋の赤ちょうちん。

僕が20代の頃、よくそのお店に連れていってくださった方がいて
その方を通じてその大将と知り合った。

「今度、京都で個展するんです」

大将に言うと

「へぇ、そうなんや。
じゃぁ、たくさんお客さん来てもらえるように
カウンターに案内状貼っとくわな」

彼とは親子くらいの年齢差で、
お店で会うことがほとんどだったが、
同じ滋賀県出身ということもあったからなのだろうか
僕は彼のことを好意的に思っていたし、
きっと彼も僕のことを気にかけていてくれたのだろう。

京都で彼と一緒に飲みいったときのことはよく憶えている。

2011年、僕がドイツに行く直前、自宅で開催した
「大黒貴之彫刻展 渡独以前」の際には
京都から近江八幡まで駆けつけてくれた。

「今日は売上を上げるぞ!とか
自慢の一品を作ったからこれはよく出るぞ!って
息巻いた日ほど売り上げ上がらへんねんなぁ・・・
でも肩の力を抜いて楽な気持ちの時ほどよく出るんやな。
不思議やな」

大将がカウンター越しの厨房から
そう、ぼくに話してくれた言葉をしばしば思い出すことがある。

「勝ち」を急ぐときほど「勝ちが遠のく」
そのような言葉を最近聞く機会があった。

集中しながらも肩の力を抜いてリラックスをしている
「ちょうど良い緊張感」を保つことが大事なのだろう。

別の言い方で
それは「しなやかな状態」とも言うのかもしれない。

制作、普段の生活、人間関係、思考など、
この「しなやかな状態」で実行できることを
目下、自分の心がけにしている。

人生の酸いも甘いも見てきた赤ちょうちんの大将。

お店のような何とも言えない心地良い笑顔とその口調。

今はもう遠いあちらの世界に逝ってしまったが、
何か気が焦っているときや勝ちを急いでいるとき、
カウンター越しから僕を見る大将の笑顔が目の前に浮かび上がる。

「大黒くん、そんな力(りき)まんと、
もっと肩の力抜きはったらどうや?」

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