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望まれない赤ちゃん

女性には、結婚したい周期と子どもがほしい周期がまるで波のように襲ってくる傾向が見られる。

もちろん、全員ではない。

恋愛に興味がない人もいるし
現状に満足している人もいるし
好きな人と結ばれたい人もいるし
他のことでいっぱいいっぱいで
そういったことどころじゃない人もいるだろう。

 
だが、女子会をしてみんなから話を聞いていると
今すぐ結婚したかったり
子どもがとにかく欲しかったり
そういった強烈な思いにとらわれる時期があるのは
私だけではなかった。  

多くの女性は一度は通る道のように
私には思えたのだ。
 
 
 
 
 
私は特別子どもが好きではないし
面倒見もよくない。

いとこの中でも年下の方だったからかもしれないが
自分より年下の子や赤ちゃんに対して
お姉さんぶるようなことはなかった。

 
かわいくないわけではない。
面倒の見方が分からなかっただけで、私の対人コミュニケーションの問題だと思う。
どういった風にあやせばいいか、面倒を見たらいいかがよく分からなかった。

 
 
小学校に入学し、高学年になると
一年生~六年生までのランダムメンバーで学校側から仲良しグループというものを作らされた。
様々な行事をそのメンバーで行わなければいけない。
一番年上なんだから、みんなをまとめて引っ張り
下級生の面倒を見なければいけないという義務感を感じた。
それと同時に、自分にその適正がないことを思い知った。
小学生の頃は内向的で、クラスメートとさえ色々上手くいかなかった部分がある。
クラスで上手くいかないほどのコミュ力で
寄せ集めのような仲良しグループをまとめられるほど
人間関係はシンプルではない。

 
 
 
中学校以上になると、学校には三学年しかない上
ある程度物わかりの良い年になったので
面倒を見る見ないの質は小学校から変わった。
こちらは強い縦社会である。
先輩に逆らわないことだけを覚えておけばいいし
自分が上級生になったら、先輩のやり方を真似たり、先輩のやり方から学んだ方法で
下級生と関われば良かった。

問題は学校生活ではなく、みんなとの意識の差である。
中学校以上になると、子どもや赤ちゃんが好きな人が一定数いる上、「子どもが好きな人は優しいor女性らしいor好印象」という流れになってきた。
私は子ども好きな人をすごいなぁと思って見ていた。
確かに子どもや赤ちゃんの見た目はかわいい。
だが、積極的に関わりたいと思うほど、本能的にかわいいと心から思うかといったら…
私はNOだった。

 
子どもを特別好きではない私は
自分がまともではない感じがして
一人ショックを受けた。

 
 
 
私が高校生の時に従姉妹に赤ちゃんが生まれた。
身近で見る初めての赤ちゃんだ。
小さくてフニャフニャして
ドラマに出てくるような赤ちゃんとまるで違かった。
ドラマ撮影の赤ちゃんは生後数ヶ月であり
生まれたてはこんなにもちんまりとしているのかと驚いた。

「抱いてみなよ。」

と言われる。
怖い。
首がすわってないから危ないと言う。
怖い。傷つけそうで怖い。
一つの尊い命を私の不注意でどうにかしてしまいそうで怖かった。
だけど、周りの人は皆、嬉々として抱きたがる。
かわいいかわいいと絶賛している。
抱きしめることを恐れているのは私だけだ。
やはり私がおかしいのだろう。

 
同じように、ペットを抱くように仕向けられることが人生でたびたびあるが
それも私は苦手だった。
皆が皆、動物や赤ちゃんに好意的で抱きしめたがっていると思われると堪らなかった。
だけど、みんなは嬉々としている。
少数派の私がおかしい、おかしい私が悪いんだと自分を責め
私は仕方なく、少しだけ抱くようにしていた。

 
 
 
おかしな話だ。
中学生から、「結婚は27~28歳くらいでして子どもを二人生んで本家を継ぎたい。」と思っていたのに
子どもが特別好きではないなんて。
親には言えなかったが、私は内心悩んでいた。

子どもってかわいい?
私、特にほしいなんて思えないんだけど…
 
 
なんて、言えるわけがなかった。
「子どもを生んだら夜泣き等で苛々して虐待しそうで怖い。」と言っても
「ともかちゃんがそんなことするわけない(笑)旦那さんやお母さんやお父さんがいるんだし、カバーするから大丈夫よ。」と笑われてしまう。

 
あぁ、やっぱり私は変なんだ。
普通は子どもがかわいくて、子どもがほしいんだ。
子育てが自信ないなんて生む前から恐れているなんて
私はおかしいんだ。

 
私は内心落ち込んでいた。
私は願った。心変わりをすることを願った。
27~28歳までに子どもを欲しくなってほしかった。

 
  
 
心境の変化があらわれたのは、私が22歳頃である。
初めて彼氏ができ、私はやがて結ばれた。
子どもを作る気がなくとも、避妊をしていても
そういうことをするということは
妊娠の可能性が0ではないということである。

 
私は彼氏を愛しいと思っていた。
性格も外見もいちいち愛しくてたまらなく好きで
ずっとそばにいたくて
そんな彼に似た子どもがほしいと
私は初めて思った。

好きな人に似た、好きな人との子どもがほしい。

  
付き合っていた頃は学生だし、経済力はない。
結婚はまだ現実的ではない。
それにも関わらず、私は彼との未来を夢見たし、彼との子どもを願った。
そしてホッとした。
自分がまるでまともなようで安心した。

 
 
この頃から私は、こう思うようになっていった。 

子どものことは好きでも嫌いでもなく、普通。
結婚はしたいが
子どもはいてもいなくてもどちらでもいい。
でももし子どもを授かるなら、彼に似た子どもがいい。

 
と。

 
  
この頃になると、従姉妹の子どもも成長し、私に甘えるようになった。
子どもらしさがない子どもだった私と異なり
従姉妹の子どもは実に愛嬌があり、子どもらしかった。
となりのトトロのメイちゃんや崖の上のポニョのポニョにそっくりで
人見知りをまるでしなかった。

 
かわいい…

 
私は初めて子どもに対して強くそう思った。
私は段々分かってきた。
子ども全般が嫌いなんじゃない。
どう接したらいいか苦手なタイプもいるだけで
愛嬌がある子で人懐っこい子は大好きだ、と。

 
 
 
 
単純なもので、初彼と別れて次の人と付き合ってからも
私はその人の子どもがほしいと思った。

「仕事始めたばかりだし、万が一子どもできちゃったらどうする?」

と私が聞いた時に

 
「嬉しいに決まってるよ。責任はとる。その時は結婚しよう。」

と即答してくれた。

 
 
現実問題としてお互いに働き出したばかりだし
実際に今身ごもっても大変なのは分かっていた。
それでも私は幸せだった。
即答してくれたことが嬉しかった。
もしも避妊をしていても子どもが授かったとして
私は彼と子どもと三人で暮らしたいと願っていた。

 
結果論だが、やがて婚約破棄になり、他の女性に彼を奪われた時
もしも子どもがいたら…と思ってしまった。
子どもがいたら私と結婚してくれたのかもしれない。
真面目に避妊をしていたのがバカらしくなった。
せめて、彼との子どもが欲しかった。
分かっている。
子どもに罪はない。
彼を失いたくないからだからと、こんな考えがよぎるのはまだしも
実際にそんなことになったら子どもに辛い思いをさせる。
それは避けたい。
だけど
私はずっと思い描いていた未来がガラガラと音を立てて崩れたのが辛かった。
 
 
27歳での結婚を夢見ていて、あと少しで27歳というところで別れを告げられるとは思わなかったのだ。

 

 


そしてまさか
別れたと同時に、「前から好きでした。」とアプローチを複数人にされるとは
思いもしなかった。

 
私は別れたてで弱っていた。
最初は気持ちの切り替えができなかったし
そんな気にはなれなかったが
ガンガン攻められて悪い気はしなかった。 

 
付き合っていた時は彼氏に悪いと、男友達との連絡や会うことは控えていたが
別れたからには控える必要はない。
もう27歳に近づいていた私に、クヨクヨと失恋している暇はないのだ。
好意を持たれているのならこちらも積極的になろうと
連絡をとり、デートをしてみたら
想像以上に波長は合った。
もともと知り合ってから男友達として仲はよかったし
全くの見ず知らずではない。
アプローチをされてから付き合うようになるまで
そんなに時間はかからなかった。

 
 
 
だが、むしろこれは行き場のない恋の始まりだった。

付き合い出した彼氏に、結婚願望はなかった。
そんな彼氏に夢中になったのはむしろ私だった。
そして夢中になった私こそが、付き合いの先に結婚と本家を継ぐことを切望した。

 
上手くいくわけはなかった。

 
付き合っている分には楽しい。
だけど一向に先には進めない。
ずっとそばにいたい。
だけど付き合えば付き合うほど
その人は結婚に不向きであると痛感したし
私自身も現実的に結婚したいとは思えなかった。

  
好きで好きで仕方ない恋なんて
アラサーになってからしたくなかった。
相手は結婚をしてくれない。
私もそばにいたいとは思えても
結婚したいとは現実的には思えない。
本家を任せられない。

 
恋は惚れた方が負けだ。
何度も手放そうとしても無理だった。
いっそフッてほしかった。
だけど相手は、私を手放すことは拒んだ。

 
 
 
そんな中、様々な男性から告白された。  

「結婚を前提に付き合ってください。」 
「子どもが好きだし、子どもは二人か三人がいいなぁ。早く結婚したい。」

 
彼等は誠実で真面目だった。
付き合っている彼氏よりも、彼等の手をとった方が結婚への近道だと思った。
愛される方が幸せだ。
追いかける恋愛に私は疲れてもいた。
彼等と付き合った方が大切にされるのではないか。
私は悩んだ。
告白されるたびに悩んだ。
10代の時は全くモテなかったのに
何故か20代になってからは告白されることが増えた。
二股をする狡さも持てず
告白されるたびに私は揺れた。
もしも誰かの手をとるなら、彼氏とはキッパリ縁を切らなければいけない。
人によっては断っても
複数回告白をしてきた。
元彼に何度も復縁を求められたのもこの時期だ。

 
誰かとの落ち着いた結婚をとるか
好きな人のそばにいる幸せをとるか。

 
 
悩んで悩んで結局
私はいつも、結婚に繋がらない彼氏との付き合い継続を選んだ。
私はバカだった。

結婚や子どもが欲しいという欲よりも
本家を継がなければいけないという使命よりも
他の人となら幸せになれるかもしれないという期待よりも

私は彼のそばにいたい欲が勝った。

 
 
 
 
それでも31歳を過ぎた頃、私はある日急激に子どもが欲しくなった。
ホルモンバランスが崩れたのか、母性が勝ったのかは分からない。
今までボンヤリと子どもが欲しいなぁと思っていたはずなのに
今すぐ子どもが欲しくてたまらない衝動に襲われた。


もともと、高齢出産はリスクが高いことは分かっていた。
25歳前後でさえ、不妊治療をしていた友達は一人や二人じゃなかったし
流産してしまう人も一人や二人じゃなかった。
なまじ障がい福祉施設で働いていたこともあり
五体満足な子を産むことが大変なことも分かっていた。

生むなら早い方がいい。
リスクが少ない。

 
そう考えると、32歳までには第一子を産みたかった。

 

  
男性と女性の差だろう。
女性にはタイムリミットがある。
だから結婚に焦る。

子どもを望むのならば
早く結婚したいと願うのは当たり前だし
アラサーになって婚活に精を出す人の動機は 
子どもがほしいからという人も多いだろう。

 
子どもがほしい。
もういい。
結婚しなくてもいいから
ただただ今
彼の子どもがほしい。

 
 
私は数日悩み、彼に話した。
ラーメン屋で夕飯を食べ、食休みした時である。

私「あの、さ……、もしもだよ?もしもだけど、私があなたに迷惑一切かけないから、子どもだけほしいって言ったら、協力してくれる?(笑)
お金もいらない。一筆書くし、その場であなたの連絡先も消すし、連絡ももうとらないから(笑)」

 
私は笑いながら冗談になるように、軽く話した。
もちろん、割と本気だった。
本気だからこそ、笑いながらではないと話せなかった。
 
私は家族関係が良好だ。
父親はいればいいというわけじゃないし、両親と私で愛情いっぱいかけて育てればいいじゃないかと思っていた。
母親は前々から、私が子どもを産んだら仕事を辞めると宣言していたし 
保育士と幼稚園教員資格を持つプロだ。
私はガンガン働く。
子どもは保育園や家族の協力を得て育てる。
近くには親戚だって住んでるし
貯金も貯めていた。
今のタイミングなら、彼を頼らなくてもどうにかなるんじゃないかと
私は本気で考えていた。

 
 
笑う私とは対照的に、彼は真顔で言った。

彼「それはできないよ。」

 
私「………。」

 
彼「籍を入れなくても、俺の子だろ?例えばともかがその子を虐待した時、見て見ぬフリはできないだろう。父親なんだから。」

 
 
正論だった。
全くの正論だった。
正しかった。
間違っているのは私だ。

その場は笑って誤魔化し、気まずくなり
私は彼と別れた後に一人になって号泣した。  

  
結婚してくれない。
子どもを作ることも許してくれない。
別れてもくれない。 

それなのに、正論だけは突きつけてくる。

 
じゃあ別れたらいい。
私から別れを告げればいいだけだ。
子どもがほしいと言う前に
私から別れ話をすればいいだけだ。
簡単でシンプルな話だ。

   
何故できない。
何故できない。
未来がない恋じゃない。
心変わりなんて夢なんか見られない。
なんでなんで心変わりをまだしないのか。

 
あなたも、私も。

 
 
 
泣いても泣いても 
彼との未来も、彼に似た子どもをこの手に抱くことも
あまりにも儚い幻で
私はどうしようもなかった。

 
好きだった。
どうしようもなく好きだった。
だからこそ
一日も早く
私は自分の心変わりを願った。
もしくは
いっそ彼の心を
他の人が連れ去ってくれればいいのにと
何度も何度も、願った。

 
 
だからその会話から数年後
彼と別れることになった時
悲しくて寂しかったけど
どこかで私はホッとした。

ようやく一人になれたと思った。
これで自由だ、と。

 
失恋した時よりも
子どもを断られた時の方が
私は激しく泣いていた。

  

 
 
27歳手前に、私はめちゃくちゃ結婚したかった。
好きな人がいたからだ。
30歳を過ぎた頃、私はめちゃくちゃ子どもがほしかった。
好きな人がいたからだ。

 
だけどもう、なんだかひどく疲れた。
恋に憧れつつも
恋に振り回されることに疲れた。

アラサーの恋はどうしたって結婚や出産が前提となりすぎる。
打算的になりすぎるのも上手くいかないし
かといって恋に溺れてしまうと行き遅れる。

 
私に告白をしてくれた方々は
私以外と上手くいった人もいるし
いまだに一人の人もいるし
もしかしたらまだ私を好きな人もいるかもしれない。

 
 
それでも私に悔いはなかった。
彼氏と別れたから、かつて告白してくれた誰かに今更連絡しようとは思わなかった。
それはそれ、これはこれだ。
私はその時その時で自分なりに考えて選択し、決断してきた。
結局は縁がなかったのだ。
例え結婚に繋がらなかったにしても
私は付き合ってくれた人達との日々は宝物だし
私に告白してくれた人達を忘れない。

 
たくさんの人がいる中
人生という長い時間の中
私を見つけ
私を一瞬でも愛してくれてありがとう。

 
 
 
私も年を重ねすぎた。
おそらくもう、子どもを産むことはないだろう。
多分結婚もできないだろう。
やるだけやって縁がなかったのだから仕方ない。

 
結局私という人間が未熟な未完成で
異性として魅力がないし
恋愛や結婚に不向きなのだ。

 
結婚をしたり、出産をした人全てが
私にはキラキラして見える。
私には手が届かない存在だ。

 
好きな人との結婚だとか
好きな人との子どもだとか
好きな仕事を続けるだとか。

 
私ごときが、なんで他の普通の人のように
普通の幸せを夢見てしまったのだろうな。

 

 
 
 
椎名林檎さんの「正しい街」をスピッツのマサムネさんがカバーして歌っている。
ここ最近は一人でそればかり聴いている。

 
“何て大それた夢を見てしまったんだろう”

 
本当に、今はそれしか言えない。

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