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明日をひらく言葉/やなせたかし


「生きているからかなしいんだ」

小さい頃、“てのひらを太陽に”のこの歌詞にドキッとした。
童謡でこんな風にズバッと“悲しい”と表現している歌は珍しい。
まして曲調は歌いやすく明るいのに。

 
アンパンマンの歌にしても同様だ。
「何のために生まれて 何をして喜ぶ
分からないまま終わる そんなのはいやだ」
曲調は明るいのに、やはりストレートなメッセージが含まれている。

 
私がやなせたかしに興味を持ったのは小学生の頃で
大学生の頃には「アンパンマンのようになりたい」と思うようになった。

 
人を助けるためには自分を犠牲にしても構わない人(マザーテレサの精神に近い)。
みんなと仲良くできる、穏やかな、庶民的なヒーロー。
アンパンマンは私の憧れだったし、やなせたかしは尊敬の対象だった。

 
アンパンマンの世界には一人として同じキャラはいない。
そして大体みんな、何かの食べ物のスペシャリストだ。
食べ物キャラじゃなくても、みんな一つは何か秀でたものがある。
アンパンマンとばいきんまんは敵だけど、悪いことをした時にアンパンマンは怒るだけで、仲が悪く、憎しみ合っているわけではない。

 
この本でもやなせさんはこんな風に書いている。
アンパンマンの敵、だからバイキン→ばいきんまん。
でも、アンパンマンもパンだから菌でできている。
共存するしかないんですよ、と。

 
アンパンマンの世界は私の理想だ。
みんな違って、みんないい。
みんな仲良しな、そんな世界。

 
やなせさんは恵まれた人生では決してない。

 
未熟児で生まれ、特別周りからかわいがられたり、得意なことがあったわけではない。
若くして両親と離れて親戚と暮らしていたし、父親、母親、弟は早くに亡くなり
奥さんも癌で亡くしている。
漫画家デビューしてからもなかなかそれだけで食べていけず、雑誌の編集者や詩人、放送作家など色々な仕事を片っ端からやり
アンパンマンのヒットは69歳。
決して順風満帆ではなかった。

 
でもだからこそ、やなせさんの作品は優しさや生きることの尊さ、残酷さが溢れていて気になってしまう。
やなせさんの「やさしいライオン」もメッセージ性が強い。
ラストは一番最初の「アンパンマン(アンパンおじさん)」に似ていて、人生の皮肉さを感じる。

 
・正義は時代と共に逆転する。

・飢えはいつだってつらい(だから自分にとってのヒーローは悪者を退治する人ではなく、困っている人を助ける人)

・喜ぶ顔が見られたら嬉しい。人生は喜ばせ合うことだ。

 
やなせさんはそんなことを強調して書いている。
そしてそれは真理だと思う。
 
 
東日本大震災の震災後、笑顔がなくなった子どもたちがアンパンマンの歌を歌い、ポスターを見たら笑ったという。
本文を読んだらそこが一番泣けてきた。

 
生きるということ。
それをやなせさんは死してもなお、私たちに問いかけ続けている。


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