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寿司支出費ナンバーワンの県民による、寿司屋での仕事の話。あと、ウニ余談。

我が県には海がない。

だから海に憧れがとにかく強い。
海を見たら子どもも大人もいちいちテンションが上がる。

 
多分そういった背景があるからなのだろうが
我が県には回転寿司屋や寿司屋が多い。
なんだってこんなに寿司屋があるんだと
県民である私でさえ不思議に思うくらい
寿司屋がとにかくたくさんある。

 
 
私の家から車20分以内で回転寿司屋は8軒。
回転しない寿司屋を合わせたら10軒以上あるだろう。

 
私の元職場から車20分以内で回転寿司屋は5軒。
回転しない寿司屋を合わせたらやはり10軒くらいになるかもしれない。

 
回転寿司屋から数百m離れた場所にまた回転寿司屋があるのである。

それだけ寿司屋が乱立していても
ほとんどのお店が満車で行列で
もう何10年も潰れていないのだから凄まじい。

 
大人になってから知ったが
我が県は何年も何年も寿司支出費ナンバーワンらしい。
栃木県といったら餃子やイチゴがウリだが
県民が愛しているのは外食寿司なのである。


 
確かに私は幼い頃からほぼ毎月、家族で寿司屋に外食に行っていた。
友達や彼氏とも寿司屋に行っていた。 
それだけでなく、障害者福祉施設で仕事として、外食支援で回転寿司にも行っていた。

 
利用者はお寿司が好きだった。

  
 
毎年、私の職場では、恒例行事の一つに外食があった。
毎年5月の行事である。
利用者は、お店3~4種類から好きなお店を選べる。

 
利用者人気が高いハンバーグ屋、寿司屋をレギュラーとし
もう1~2つのお店は、利用者の意見を考慮した。
うどん屋やファミレス、喫茶店がピックアップされた。

 
その5月の行事以外にも外食イベントは年間に何回もあったが(例えば映画イベントの日は、映画+外食の内容だから)
正直私は寿司屋の外食支援はあまり好きではなかった。
好きではなかった……というより
外食支援でバイキングと寿司屋は大変さがレベル違いなのである。

 
まだ働きたての頃、私は行事企画担当職員ではなかったので
企画者に言われるがままに
利用者を支援し、役割をこなした。

外食支援先が寿司屋

と知った時
気分は「オーマイガー!」だし
寿司屋を逃れた職員はガッツポーズである。

 
 
お寿司屋さんには利用者と職員合わせて15名くらいで行く。

そうなると、テーブル席が二つでは足りない。

車椅子の利用者の方用の席が寿司屋にはない為
車椅子の利用者の方は手前椅子への移乗支援を行う。
ただ、そうすると、奥席の利用者がトイレに行きたがるたびに
再び車椅子の利用者の方を車椅子に移動し
トイレの利用者が奥席に座ったら
再び車椅子の利用者を椅子席に移乗支援が派生する。

 
もちろん、利用者には席に着く前にトイレは促してあるし
トイレには行っている。
それでも椅子に座った瞬間に「トイレ…」というのはよくある話だ。
 
 
 
移乗支援自体は職員は慣れているからいいのだが
寿司屋テーブル席の固定椅子の場合
移乗がやりにくいのだ。
狭いし、動きにくいのだ。

 

お寿司屋さんの外食支援時
職員は2~3名
利用者は10名
くらいの比率なのだが

車椅子から椅子に移乗する際、一人の利用者に対して、職員は欲を言えば二名必要であり
車椅子利用者数は職員数より多い。

 
 
他の外食店と比べ、寿司屋のテーブル席というのは
手前席以外の方が動きにくい。

これが非常にネックなのだ。

本来は、小まめに動けるように職員は手前側の席を取りたい。
多動の利用者を奥席側にして
店内をうろちょろする時間を減らしたい。

 
だが、車椅子の利用者の方は麻痺があるので
奥席に行くのはなかなかに困難を極める。
お寿司屋さんはテーブルと椅子が固定されていて狭いのである。
明らかにバリアフリーじゃない。

 
本来はカウンター席の方が動きが取りやすいが
回転寿司屋はカウンター席の椅子が固定のため
車椅子利用者にはやはり不向きだ。
椅子の形状としても、背もたれがない椅子は
車椅子ではない利用者が座るにしては不安定である。


少人数や家族単位での寿司屋外食はそんなに大変ではないのだろうが
施設単位で約15人の動きというのが、ひたすらにネックだった。

 
外食イベントは土曜日だし
早めに寿司屋に入っても、一般客で混む。

 
【なかなかお寿司屋さんに自力で行けない利用者に、今日は喜んでもらいたい】

 
それは職員一同の揺るぎない気持ちだ。
外食イベント先に寿司屋を選択肢に入れるのは
利用者の寿司欲や寿司愛が強いからだ。

 
ただ、なかなか理想と現実の差は大きい。

 
 
 
 
座席に座ってからも気を張る状態は続く。

最近のお寿司屋さんはタッチパネルで注文が主流だが
タッチパネルを操作できる利用者は
1/3以下である。

 
話せる利用者ならいいが
みんながみんな、話せる利用者ではない。
耳が聞こえない利用者とは、手話や筆談で食べたいメニューを聞くが
耳が聞こえず、かつ知的障害もある利用者だと、すんなり食べたい物を伝えられなかったりする。

写真を指させる利用者ならいいが
写真は奥席に貼ってあるので
レーン側にいないとメニュー表が見えない。

 
店員さんに写真メニュー表をもらえないか職員が交渉している間に
ワサビが嫌いな利用者がワサビありのお寿司を勝手に食べ出して泣いたり、吐き出す。

 
とにかく回転寿司レーンから寿司を取るのが楽しくて
食べもしないのにお皿を取ったり(また戻そうとしたり、それを繰り返したり)
ネタをペタペタ触り
お寿司を雑に扱う(=職員が食べるか支払うことになる)。

 
特定の寿司や食べ物ばかりを食べる利用者を許すと
後に保護者から、バランスよく食べさせるように苦情が入る。
かといって、事前に食べるお寿司を保護者から確認しても
利用者が当日それを食べなかったりする。
食べなかったら食べなかったで支援について責められることもあるので
食べなかった場合の対処も先回りして保護者に聞いておかないと
更に苦情に発展する。
苦情を言う人に限って、日中電話はつながらない。
私は事業責任者であった為、緊急時は保護者に電話連絡をする役割があった。

 
利用者によっては、食べてもよいお皿の枚数や上限金額が保護者により決められているが
職員がちょっと目を離した隙に高いお皿を回転レーンから取ってしまったり、食べ過ぎてしまい
保護者から職員か利用者が窘められる。

食べ過ぎた場合、リバースもあるので
外食支援時はそちらも要注意である。
また、食べ物アレルギーがあったり、服薬の都合で食べられない物がある利用者の場合、自力で避けられない方も多いので、そちらも厳重注意である。

 
 
そんなわけで
寿司屋は
①一人5~15皿、食べたい物を聞く。ただし、ほとんどの人がすんなり言えない。
②それを職員一人で五名程担当し、注文する。
③車椅子利用者の移乗が派生する。
④トイレがバリアフリーじゃなかったりするので、洋式トイレで車椅子利用者のトイレ支援を行う。
⑤利用者が勝手に回転レーンから寿司をやみくもに取ったり、ネタを触らないように気をつける。
⑥サビ抜きかどうかも利用者、保護者、お店側に確認する。
⑦外食の後は施設で別イベントがあるので、制限時間内に食事支援を終わらせる。
⑧その合間に職員も食べる。
⑨食後(食前)、利用者に服薬支援も行う。

 
 
………というなかなかに濃厚な食事時間であった。

なお、会計も個別であり
会計も利用者一人ではできないので
利用者が店内の様子や流れを見て会計をして
レシートをサイフに入れなきゃいけない(食事の証拠として)。

個別会計は、忙しい時間帯や店員によっては露骨に嫌がられたり
お断りされる。

 
更に、記録に残すため、話せない利用者の場合は
誰が何を食べたかもメモしなきゃいけない。
後に具合悪くなったりした時に、把握してないと大変だからね★
(※他の飲食店は何を食べたかがレシートに記載されるが、寿司屋はお皿の枚数やお皿の種類、その他の食べ物しか記載されない。)

 
更に更に、職員は合間に写真撮影も行う。

美味しそうに食べている写真撮影だ。
行事の写真は施設内に掲示されたり、施設から発行するプリント等に載る。

口の中に食べ物を含んでいるのが露骨に見える写真はNGで
更に利用者によっては写真撮影NG(保護者の指示)で
だけどそんな利用者に限って写真大好きだったり
参加利用者の写真撮影をバランスよくやらないと
上から特定の利用者ばかり贔屓して写真撮影をしたと怒られる。 
 

…………はい、お分かりだろうか?

 
なかなかに、ハードなんです、寿司屋外食イベント支援。

ハンバーグ屋やファミレスなら
メインメニューさえ決まればドリンクバーの選択支援くらいだし
後は一口大に切るとかそんなんくらいだし
何より職員は立ったり座ったりがしやすい。
車椅子利用者も車椅子のまま食事しやすいし
動線確保がしやすく、支援しやすいのだ。

 
 
そんなわけで、利用者から外食寿司は人気があったが
パートさんらは支援を嫌がり(失敗をしやすいし、失敗したら上や保護者から叩かれてしまうから)
自動的に私など正職員が支援に入りやすかった。

 
ただし、ベテランだろうと正職員だろうと
問題なく、寿司屋外食支援が終わることは稀であり
職員が次々に辞め
人手不足が本格的になった頃から
外食先から寿司屋は外された。

どうしても寿司屋は、人手がとられるのである。

 
かといって
他の飲食店支援は職員人手が足りているかといったらそんなことはないし
利用者がどの店を選ぶかによって
職員配置は左右されまくったしで
利用者選択制外食イベントはなかなかに継続が困難になった。

 
 
私が社会人6年目頃に、外食イベントで寿司屋は選択肢から外されたが
社会人8年目の頃には、外食先のお店数やジャンルを厳選しないと
職員体制がいよいよ厳しくなった。

 
【利用者が喜ぶ顔が見たい】

 
とはいえ
行事は縮小し、内容を検討するしかなかった。

 
 
今年、福祉職を辞めてしまったので
プライベートで回転寿司屋に行くたびに利用者の外食支援を思い出し
しみじみと懐かしく感じる。

 
 
 
 
 
 

ここからは完全な余談である。

 
 
私が小学生の頃に従兄弟から

「ウニは当たり外れが大きい。美味しいのは美味しいが、まずいのはまずい。ウニデビューするお店を失敗したら、人生損する。慎重に選べ。」

と言われた。

 
私はその言葉を忘れず
海なし県の回転寿司より海あり県のお店の方が鮮度が良さそうな気がして
我が県ではウニに手を出さなかった。

 
プリンに醤油をかけたらウニ味と噂を聞いたが
試してみたらプリンに醤油をかけた味としか感じなかった。
同じく、キュウリにハチミツをかけたらメロン味と噂を聞いたが
やはりただのキュウリにハチミツとしか感じなかった。

 
私は従兄弟の忠告を守り、ウニデビューに慎重になった。
なりすぎた。

毎月のように回転寿司屋に行くため
他県でわざわざ寿司を食べようとはならなかった。
海ありの他県で食べるなら海鮮丼か刺身になった。
なかなか、海鮮丼にはウニが乗っていない。

 
私は少食で、回転寿司屋は4皿しか食べられない。
だから海鮮丼も一人では食べきれない。
大概が誰かとシェアになり
ウニをあえて食べようとはならないまま

生まれてから、30年以上の時が過ぎた。

 
ウニが食わず嫌いなのではない。
私は未だに人生で一度もウニを口にしていないだけなのだ。

 
 
理想としては、誰かと海ありの県に行った時に
誰かがウニを一口分だけ分けてくれることなのだが
コロナウィルス感染拡大により
少なくとも今年は叶うことが難しそうだ。
来年も難しいかもしれない。

 
40歳前には、美味しいウニデビューをしたい。

これが私の秘かな夢である。

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