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シエラレオネの祈り(後編)

<前書き>
今回の記事は「戦争」について触れています。この手の話が苦手な方は、後ろを振り返らずに、そっと記事を閉じていただければと思います。またあくまで私が読んだ本を参考にしており、全てが事実かどうかは分かりませんので悪しからず。今回は2部作のうちの後編です。

↓ 前回の話はこちらです。

 そういえば昔よく近所の子どもと掴み合いの喧嘩をしたことを思い出した。喧嘩の原因はよく覚えていない。たぶん、些細な主張のすれ違いがきっかけだったように思う。その頃、私は自分の考え方がまかり通ると思っていて、それをうまく受け入れられなかったために、相手に戦いを挑んだ。相手の方が力が強かったし、非力な私は最終的に「泣く」ということを通じてなんとか最後の悪あがきをした。

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 昔見た映画の中で今でも私の頭の中にくっきり残っているのが、『スラムドッグ$ミリオネア』という映画。舞台はインドのスラム街である。映画の筋書きとしてももちろん面白いけど、その中でもある日主人公の少年の村が突然襲われるというシーンが頭から離れなくて。暴徒化した人々は、誰彼構わず襲い続けた。恐ろしさのあまり、私は瞬きもできず。一体何が起きたんだ、と映画を全て見終わった後も自分の中でその場面が腑に落ちなかった。

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 それから数年経って、世界情勢を学ぶうちに「ああ、あれは宗教が違うことによる争いだったんだな」と理解することになる。イスラム教とヒンドゥー教という、お互いが信じるものが決定的に違かったせいで人々は争う羽目になったんだ。インドだって元々イギリスの支配下にあった時は、もっと大きな領土を有していた。それが二つの宗教の違いのせいで、インド、パキスタン、バングラデシュの3つに分かれてしまった。

 そして悲劇は、残念ながら過去を振り返ったところで繰り返されてしまうものらしい。

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 前編に引き続き、私が読んだ『本当の戦争の話をしよう: 世界の「対立」を仕切る』という本に沿って話をしていこうと思う。

 国同士が争う理由は、国全体における意見のすれ違いや立場の違いみたいなところが最終的な決め手になる。そしてこれはもちろん同じ1つの国に属する人たちからしても、似たようなことが当てはまる。改めてこれまでの争いの火種を見てみると、1つには強者の弱者に対する一方的な「考えの押し付け」といったところが尾を引いている気がする。

支配国の少数民族優遇政策

 例えばルワンダの例を見てみると、当初支配国であったベルギーが分割統治を行おうとしたところに端を発する。ベルギーが分割統治するにあたって選んだのは、ツチ族という少数民族だ。それに対して割を食う形になったのがルワンダの多数を占めるフツ族。

【分割統治】
支配する側が1つの民族を優遇し、支配されている側同士を争わせ、統治者に矛先が向かうのを避ける支配体制のこと。

 こうしてみると自分たちの都合で国を支配したくせに、嫌われたくないと思って行動する大国側の人たちは、本当にずる賢いと思ってしまう。

 もともと部族は違えども、ツチ族とフツ族は仲良くやっていた。ところが、立場が変わって圧倒的に優遇の度合いが変わることによって、そうも言ってられなくなる。世界大戦後、ベルギーから独立したルワンダにおいて、これまで不満を貯めたフツ族がこれまでの鬱憤を晴らすかのようにツチ族と内戦を起こす結果となるのだ。

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 同じような話は他にもあって、スリランカでもイギリスが統治をしていた時代、分割統治を行って少数派のタミール人(ヒンドゥー教徒)を優遇した。その結果イギリスから独立後に、多数派であるシンハラ人(仏教徒)がタミール人に対して内戦を仕掛ける。この構図だけ見ると、ルワンダと全く同じ運命を歩んでいる。

 その内戦の引き金を引いた元々の支配国は、流石に「自分たちが起こした悲劇」という自覚があるらしく、国連を介して両者間で内戦が一刻も早く終わるよう支援を申し出たらしい。

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 ついこの間まで隣に座って仲良くしていた人たちが突然自分たちに牙を向けてくるって思うと、本当に本当に胸が苦しくなる。みんな仲良く暮らすに越したことはないはずなのに、どうしてこんなに上手くいかないんだろう。

人々を脅かす存在

 今回本を著した伊勢崎さん自身も国連の一員として、シエラレオネという西アフリカにある国へ派遣された。シエラレオネ自体も元はイギリスに長らく支配されていた。他の国と同じく独立後は、見事に自立できる柱を失い治安が悪化。新たな大統領は国を立て直すために独裁政治を行うも、それが逆に人々の反感を買って大規模な内戦になる。

 この筋書きを見たときに、全くミャンマーと同じだと思った。圧政によって国を正しく導こうと思うも、それがどこかで歪んでいく。追い詰められた人たちは周囲と結託して、自分たちを苦しめる悪の存在に立ち向かっていく。革命自体は短期間で終われば、後世において肯定されるかもしれない。でも、ずるずる長引くとそれは単なる大量殺人となる。本来解放すべき民衆を、革命が殺し始める。(※一部表現を、本から抜粋)

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 私を含めた日本で生まれた人たちは、平和な時代を生きていると思う。

 本当に命の危険を感じるような事態に巻き込まれることって正直、そんなにない。毎日自分が住む近くを銃弾が飛び交うようなそんな恐ろしい世界、想像もしたくない。それでも今実際にそういった苦しい世界に身を置いている人たちが実際にいることを思うと、胸がキュッとなる。

 私は争いが全くないこの国に生まれたことを誇りに思うし、幸せで平和だとも思う。でもこの考え方は、他の人にとったら違う見え方になっているかもしれない。それぞれの価値観や習慣によって「幸せ」と「平和」の定義は大きく異なるから。ある人にしてみれば、自分の信念を貫き通すことが「幸せ」なのかもしれない。

 今の私は、遠くで苦しんでいる人たちに対して何もすることができない。その事実に対して、申し訳なくも思う。今も恐怖の日々を過ごす人たちがこの世のどこかにいる。私にできることは、彼らが近い将来安心して眠れる日が来ることを、ただ祈ることしかできない。綺麗事かもしれないしずるいと言われるかもしれないけど。

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 そう、私はただじっと、祈ることしかできないのだ。



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