アウトサイダー生活

 ゴールデンウィーク明けはどうにも休みボケに襲われる。

 新しい居住地に身を置いてしばらく後、友人が突然「どうかお嫁にもらってくれないか」と半ば時代錯誤ともとれるメッセージを送ってきた。

 どうやらお嫁さんの正体は、友人宅で5年ほど使っている「座るとダメになるソファ」のことらしい。最近断捨離を敢行して部屋を広くする計画(通称「レリゴー作戦」)が持ち上がり、その過程で泣く泣く手放すことが家族会議で決定した模様。以前友人宅へお邪魔したときに、実はちょっと気になっていた。友人曰く、可愛い子には旅をさせよという心境らしい。

 提案を受けた時は半信半疑で、おおぜひ欲しいですね!とどこか冗談混じりのような感じで言っていたのだが、つい先日本当にソファを持ってきてくれた。私が思い描いていたよりもずっと得体のしれない存在感を放っている。なんてこと!

 おまけに私自身はグレーだと思っていたのだが、いざ目にしてみると完全に焦茶色だった。この時こそ人の記憶は当てにならん、と思ったことはない。

 友人は遠路はるばる、2時間くらいかけてソファを小型トラックに乗せて大事に大事に運んできた。よく田んぼで見るような、レトロ感あふれるトラックである。当日は悲しいかな、雨であった。どうにも肝心な時ほど、雨に降られる。私はもしかしたら天の上にいらっしゃる雨の神様に嫌われているのかもしれない。

*

 どうにかこうにか友人と二人で、分解されて何が何だかわからなくなったソファーのパーツを上に持っていく。バランスをとりながら私の部屋に入れ、二人して組み立てを始める。無惨にバラバラになったソファーを、再びネジを使って命を吹き込み、一つにする作業だ。

 いざ始めん、と手をかけようとしたところで友人の動きが止まる。私も動きをとめて友人の目が捉えた先を見る。友の視線の先は、なんと外だった。ザァザァと吹き荒ぶ窓の外。

「お、これもしや部屋に置くよりかは外においた方がよいのではなかろうか」

 一体何を言っているのか。友人がここまで後生大切に持ってきたソファーを外に置く?なんと不埒なことを、と思ったがここでふと私の脳も俄に動き出す。幸いにして、なぜか私が住んでいる場所は無駄にベランダが広い。なぜかとても広い。対して部屋はそこそこの広さで、家の中にソファがフロアのほとんどを占めてしまう。もしかしたらこのソファーも外の方がピッタリ収まるのではなかろうか。

 ということで二人してせっせせっせと外へと運ぶ。その間も、猛烈な雨が入り込んでくる。その中でいい歳をした大の大人二人組が、必死になってソファを組み立てる。すると天の導きなのか、私たちが組み立てた途端に雨の勢いは弱くなり、ソファーが再び元の形になるまでに雨はすっかり止んでいた。

 元の精悍な顔つきに戻ったソファを、落ち着き良さそうなところに置いてみる。驚くほど周りの雰囲気にぴったんこカンカンだった。よしこれでいこうと二人で頷きあい、最終的にベランダに置くことを決めた(もうその時点でもはや再度家の中に戻すことを試みても、不可能に等しかった。なぜなら組み立て終わったソファーの重さと言ったら、私たちの想像のはるか上をいっていたからね。)

*

 新たに我が家にやってきた巨大なソファ。ここ最近は天気の良い日はベランダの外に出て、ソファに寝転んで本を読んでいる。朝外に出るのが習慣になっているが、もうすっかりじわりじわりと日差しが暑い季節になってきた。

 案外悪くないかも知れない、アウトサイダー生活。田舎なので、どこからかホーホケキョとウグイスの囀りが聞こえる。きっと、どこかで誰かが今日も求愛活動をしているのだろう。結構なことである。

 風がそよりと吹く。あまりの気持ちよさに、ついついうたた寝してしまいそうだ。今日もゆっくりと日が昇っていく。

画像1

 写真で見ても、とんでもない存在感である。

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