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『男はつらいよ』の生き方に寄せて

頭の上には印象的な帽子、帽子の下は四角い顔、そして帽子と同じ色をした背広、手には四角い形をした昔ながらの硬そうなカバン…こうした特徴を挙げていくと、頭の中に広がるイメージ。そう、フーテンの寅さんです。

今日は火曜日ということで、コロナ禍で見るようになった『男はつらいよ』シリーズについて語っていきます。数ある映画作品の中でも、特に思い入れが深いです。第1作が制作されたのが1969年なので、なんと今から約50年前!だいぶ昔のことのようですが、その良さは色あせないと思っています。今のこのご時世だからこそ、是非とも見て欲しい。

今年の4月からBSテレ東にて4Kリマスター版という形で、毎週土曜日夜6時30分から放送されており、この記事を書く頃はちょうど20作まで放送されました。

昨年には50作目が上映されました。そういえば、物心ついたときには家で再放送されていた『男はつらいよ』がテレビに映し出されていました。わたしの父親がどうやら好きだったようで、その影響でなんとなくわたしもフーテンの寅さんが好きになっていました。とは言いつつも、映画のあらすじは全く覚えておりません。小学5年生くらいの頃に親に映画の舞台である柴又へ連れてきてもらい、そこで寅さんの絵が書かれた文房具を1セット、買ってもらった記憶があります。

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ここで『男はつらいよ』シリーズを知らない人に、さらっと簡単ながらあらすじを説明します。

『男はつらいよ』は、渥美清さんが演じる車寅次郎というテキ屋稼業で生計を立てる男が主人公となります。テキ屋とは街商人のことで、お祭りに行くとよく屋台をやっている人なんかがテキ屋に当たります。特にこれといった形はなく、売れるものならなんでも売る。寅さんの場合は、年がら年中地方をまわり、その日暮らしの銭を稼いでいるような感じです。(ヤクザの人、というイメージがある方もいると思いますが必ずしもそんなことはありません)

寅さんはことあるごとに生まれ故郷である柴又に帰ってきては、なんらかのトラブルを引き起こします。そして作中には必ず「マドンナ」役に惚れて、結局その思いが報われず・・・というスタイルが王道です。

50年前に作られた映画ということで、内容も古臭いのでは?と敬遠される方もいらっしゃるかとも思いますが、決してそんなこともありません。一見ワンパターンと思われがちな映画の構成も、実際に見てみると驚くほどそのストーリーは多彩で引き込まれます。まずは騙されたと思って、1作目を見て欲しい。なんといっても、寅さんと妹のさくらが、久しぶりに再開するシーンはわたしの中で一番お勧めです。

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その他にも寅さんの叔父・叔母にあたるおいちゃん・おばちゃんや、さくらの夫である博、隣の工場で印刷会社の社長を務めるタコ社長など愉快な登場人物が脇を固めます。

1作目では、妹のさくらに縁談が持ち込まれるも、同席した寅さんが何もかもぶち壊しにしてしまう…というなんともいたたまれない展開になります。寅さんとしては、どうにか体裁をうまく保とうとしているのですが元来の気質も手伝って、毎回なかなかうまくいかないのがもどかしいところです。

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自由気ままに、そのひぐらしで生計を立てる。生活する事に困窮してくれば、お金を稼ぐために重い腰を上げて働きに出かける。その自由気ままな生活は、なんともうらやましい限りですが、現代に生きる私たちからしたら真似したくても真似しづらい環境にあるような気がします。もちろんいっときノマドワーカーという働き方も流行して、それがどちらかというと現代版の「フーテンの寅さん」のような生き方に近いと思いますが、なかなかそれだけで生きていくのも難しい時代のような気がします。何よりも、日本にいると周りの目が気になってしまう。

側から見たら、寅さんはだいぶ世間多数の人と比べると、大人としてどうなのということもいっぱいあります。中でも印象に残っているのが、第15作目の『寅次郎相合傘』です。わたしの中でマドンナ役の中で印象的な人といえば、リリー役を演じた浅丘ルリ子さん、そして歌子役を演じた吉永小百合さん。第15作では、リリーが2度目の登場となるのですが、その回においてメロンを食べられなかった事に怒り出す寅さん。まるで子供が駄々をこねているようですが、ちょっと微笑ましいです。大人でいなければならないと思うあまり、普通はどこか自制心が普通働くかもしれませんがそんなこともお構いなし。気付けば周りの人に迷惑をかけてしまうところもありますが、そんな人柄も含めて、寅さんの人柄は周りの人からとても愛されます。

それは確かに破天荒な生き方をしていながらも、寅さんの行動というのは人間らしい愛に溢れているからのような気がします。寅さんを見ていると、非常に影響されやすい人柄ながらも周りの人を精一杯理解しようとして思いやろうとしている姿が窺えるのです。思えば、わたしが物心ついたときに御近所さんとの付き合い方も希薄になっていました。もしかしたら、寅さんは今の現代の人との関わり方を見ていたら嘆き悲しむかもしれません。「これは世も末だねえ」、と。

ちなみに20作目まで見た中で、わたしのお気に入りは第1作目に加えて第6作目の『男はつらいよ 純情篇』。

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最後、さくらが駅のホームで寅さんを見送るシーンなのですが、そこで語る寅さんの故郷に対する思いに思わず胸を打たれました。寅さん演じる渥美清さんは本作に限らず、本当に言葉に自分の思いを込めて語る力がすごいと思います。映画の中では他の作品でも、滔々と語るシーンがあるのですがそれがなんとも聞いているとその情景が浮かんでくるようで、いろいろ考えさせられます。

そしてその他にも、シリーズの中では本当の豊かさとは何か、正しい生活のあり方は何か、といったなかなか考えるには難しい話も寅さんと彼を取り巻く愉快な登場人物の中で談義が交わされます。

また、作品にはその時代の世論や問題もそのまま映し出されています。労働者の過労問題、男女の間にある格差の問題、資本主義のあり方など。

見終わるたびに、少し考えさせられます。『男はつらいよ』シリーズのほぼ全作品を監督された山田洋次さんの丁寧な作品の展開の仕方に脱力します。今のこの時代だからこそ、いろんなメッセージ性が数多く含まれている作品だと思います。ぜひお時間あるときに見てみて欲しい作品の筆頭です。

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