冷たい男 第8話 冷たい少年(終)
墓の線香口から清涼感のある煙がゆっくりと昇っていく。
小学生になった担任の娘と父親が供えた線香だ。
2人は、手を合わせて目を瞑り、墓に眠る、母に、妻と語らっている。
2人の後ろから冷たい男は、恩師の眠る墓を眩しそうに見る。
「先生・・」
そう口にした瞬間、心の奥底が揺らめき、目の奥から感情が溢れ出しそうになる。しかし、冷たい男は、ぐっと堪えて墓に向かって話しかける。
「先生の言ったような悔いのない人生を送れているかは分かりません。でも、自分の道は歩けてると思います」
墓に向かって話すその横で少女が同意し、頷く。
「先生に見守ってくれとは言いません。先生が見守るのは娘ちゃんと旦那さんだけにして下さい。ただ、ほんの時々、時々でいいので見てください。俺がちゃんと歩めているかを・・・」
墓から立ち昇る煙が風もないのに大きく揺らめいた。
まるで冷たい男の言葉に答えるように。
冷たい男と少女は、思わず顔を見合わせる。
そして笑った。
「なんやお前ら来とったんか?」
背後から掛けられた関西弁に冷たい男は、吹き出し、少女は露骨に嫌そうな顔をする。
2人は、同時に振り返るとツーブロックにピンク色に髪を染めたハンターがそこに立っていた。
冷たい男は、にっと笑う。
「やあ、副会長」
冷たい男が言うとハンターは、恥ずかしそうに頬を掻く。
「その呼び方はもう止めてや。卒業してもう何年経った思ってんねん」
「何、黒歴史みたいに言ってんのよ?」
少女がじとっと目を細める。
「今の方が十分に黒歴史だからね」
「自分の道を歩み出したねん!」
ハンターは、大声で叫ぶ。
その声に女の子は、目を開けて立ち上がると嬉しそうにハンターに抱きついた。
「お兄ちゃん!」
ハンターは、抱きついてきた女の子の頭を優しく撫でる。
「久しぶりやな。また、大きくなったな」
ハンターは、嬉しそうに笑う。
「久しぶりだね」
女の子の父親がハンターを見て少し頬を引き攣りながらも挨拶してくる。変わり果てた義理の弟に今だについていけていない様子だ。
「義兄さんもお元気そうで」
見かけからは想像も出来ないきちんとした言葉で挨拶する。
「今日は、きてくれてありがとう」
父親は、深々と挨拶する。
「いえ、こちらこそ姉の為にありがとうございます」
ハンターも深く頭を下げる。
そして姉の眠る墓に向かい、合掌をし、目を閉じる。
穏やかな風が吹き、線香の煙が揺れる。
冷たい男、少女、女の子、そして父親もハンター合わせて再び合掌し、手を閉じる。
ありがとう・・・。
それぞれの耳に誰かが優しく声かけた。
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