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エガオが笑う時

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エガオが笑う時 第3話  デート(1)

エガオが笑う時 第3話  デート(1)

「今、帰ったぞ」
 私は、喉仏を締め付けられた時のようなくぐもった低い声で言う。
「あら貴方お帰りなさい」
 対照的に隣から聞こえてきた声は高く、とても可愛らしい。
「今日もお仕事ご苦労様です」
 円卓の上に乗った水色のドレスを着た可愛らしいセルロイドの人形が腰部分に添えられた小さな手に操作されて身体ごとお辞儀する。
「ああっ出迎えありがとう」
 私も手に持ったクマのぬいぐるみの右手を人差し指で操

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エガオが笑う時 第2話 感謝とお礼(7)

エガオが笑う時 第2話 感謝とお礼(7)

 あの男は、やはり騎士崩れであったらしく捕まえにきた警察達が「また騎士崩れの犯行か・・」と頭を痛めて男を連行していった。私の蹴りを喰らって顔が潰れた男は声にならない恨むごとのようなものを呟きながら手錠を嵌められて連れて行かれた。
 マダムは、私に散々「女の子とは!」についての小言を言い続け、四人組は「私達もあんな下着買おうか?」となどと言いながら帰っていった。
 そしてカゲロウは、キッチン馬車で忙

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エガオが笑う時 第2話 感謝とお礼(6)

エガオが笑う時 第2話 感謝とお礼(6)

 首筋がちりっと焼けつく。
 私は、後ろに振り返ると少し離れたところに痩せこけた男が立ってこちらを見ていた。
 見た目は三十過ぎに見えるが痩せこけてそう見れるだけで二十代くらいなのかもしれない。頬はこけ、目は窪んでいるのに服の隙間から見える筋肉はとても発達しており、通りすがりと言うに可笑しなところしかない。
 男は、私のと目が合うとにっこりと微笑んで近寄ってくる。
 マナの目にも怯えが走り、マダム

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エガオが笑う時 第2話 感謝とお礼(5)

エガオが笑う時 第2話 感謝とお礼(5)

私は、マナの座っている赤い傘をさした円卓に向かう。
 マナは、カチコチという表現に相応しい肩を縮こませて固まっていた。
 私は、彼女の前に冷えたオレンジジュースを置く。
 マナは、驚いて顔を上げる。
「あの・・・・えっと・・」
「店長からのサービスよ」
 彼女が頼んでませんという前に私が被せるように言うとマナはさらに恐縮したように身体を固める。
「大丈夫よ。ぶっきらぼうに見えるけどいい人だから」

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エガオが笑う時 第2話 感謝とお礼(4)

エガオが笑う時 第2話 感謝とお礼(4)

「わあー!」
 青い傘のさした円卓に座った学生4人組が私を見た瞬間に感嘆の声を上げる。
 私は、恥ずかしさのあまり銀のトレイを持ったまま固まり、顔を背けてしまう。
 私が羞恥に襲われる原因、それは蜂蜜を洗い落とし、白いエプロンを括り付けた鎧の下に着た薄桃色の鎧下垂れのせいであった。
 お風呂上がり、待ち構えていたマダムによってばっちりと化粧され、髪をこれでもかと結い上げられた私の前に「プレゼントよ

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エガオが笑う時 第2話 感謝とお礼(3)

エガオが笑う時 第2話 感謝とお礼(3)

 生きた心地がしない。
 戦場以外でそんな事を思うなんて想像もしなかった。
 私とスーちゃん、そしてカゲロウは、横に一列に並ばされ、直立不動に立っていた。
 私は、肩を落とし、お腹の辺りで手を組み、顔を俯かせていたたまれない気持ちで、スーちゃんは、気まずそうに顔を背け、カゲロウは、鳥の巣のような髪のせいで目元は見えないが無精髭の生えた口元は引き攣っていた。
「で・・・っ」
 黄色い傘をさした円卓に

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エガオが笑う時 第2話 感謝とお礼(2)

エガオが笑う時 第2話 感謝とお礼(2)

 日差しの中での朝食を終え、私とスーちゃんは森の奥に進むと空気を叩きつけるような騒がしい音が響いてきた。
 これは・・・羽音。
 スーちゃんは、歩みを遅くする。
 音が近づくに連れて見えてきたのは大きな木が並ぶ森の中でも一際大きな、プラムの木であった。
 美味しそうで赤々としたプラム、見てるだけで口の中に甘酸っぱい味が広がる。
 しかし、目的の食材はそれではない。
 プラムの木の中央にそれはぶら下

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