見出し画像

はね上げた「飛び石」の補償は?

前を走る車(先行車)がはね上げたと思われる「飛び石」が車のフロントガラスを直撃。前の車はそのまま走行していったので追いかけて行ったが・・・!
ということが話題になった。

私も過去にこの種事案に遭遇したことがあるが、どうだろう、このような場合の責任ははね上げたと思われる先行車両の運転者から弁償されるか?
今回はこの点について考えてみます。


|飛び石と転落防止

飛び石とは前の車がはね上げた石のこと。
突然飛んできてフロントガラスや車体にあたり、時にはフロントガラスが割れたり、車体が傷ついたりする。
多くは、飛んでくるのは小石は、路面に落ちていたものか、タイヤの溝に挟まっていたもの。これをたまたま車輪ではね上げてしまうことがある。
しかし直ちには法令違反を問議するのは困難だ。

一方、砕石などの荷物を積んでいたトラックの荷台から石や荷物が落ちてきて後続の車にあたった場合などは、道路交通法に規定する「積載方法違反」や「転落等防止措置義務違反」が成立する。

|誰の責任になるの?

はね上げられて飛んできた小石が車に当たり、車が傷ついたり、これに驚いて慌てって急ブレーキやハンドル操作を誤ってガードレールに衝突したり他の車両と事故ったりすることもある。

この場合の責任はだれが負うことになるのでしょうか?
民法上の「不法行為責任」(民法第709条)は「故意または過失によって、他人の権利法律上保護される利益を違法に侵害した場合、その損害を賠償する責任を負う
とされている。

例えば、ダンプカーなどからの飛び石であれば、その車両の運転手や所有者が責任を負うということになる。

|不法行為責任の成立要件

不法行為責任の成立要件である以下の4点を立証する必要があり、立証責任は被害者側にあるのだ。
そして4つの要件を全て満たさないと成立しないのだ。

① 故意または過失があること
② 権利・利益の侵害があること
③ 損害が発生していること
④ 侵害行為と損害の間に因果関係があること

また、道路管理者が適切なメンテナンスを怠っていた場合には、道路管理者に対し管理瑕疵として責任追及することも考えられる。

|4つの要件の該当性

前述の4つの要件について検討する。

この中で
②及び③の要件については、
実際に車の損傷があったのなら、損害等が生じていること、権利の侵害があったことは疎明できる。

しかし難しいのは①と④の要件である
①は故意または過失があったこと
④は小石をはね上げたことと損害の発生に因果関係があること
を被害者が立証しなければならないことだ。

①の故意または過失
故意:わざとはね上げた
過失:小石があることがわかっていて、車輪が小石を跳ね上げることが予測できたこと(予見可能性)、予見しても結果回避措置を講じなかったこと(結果回避義務不履行)

④の因果関係
先行車両が小石をはね上げたこと及びその小石飛んできて当たったことを証明しなければならない。

|立証措置は

①の故意または過失の立証が困難
なぜなら小石が路面に落ちているような状況やタイヤの溝に挟まっていたことをあらかじめ認識できる状態であったということを疎明しないと、故意はもちろん、過失の要件である「予見可能性」の立証ができない。
過失の場合にはこの予見可能性がないと、結果回避義務は生じないのだ。

④の因果関係であるが、ドライブレコーダーなどに先行車のタイヤから跳ね上げられて飛んできたことがわけるような映像目撃者の証言があればよいが・・・これも先行車がはね上げて、飛んできた、当たった、結果として損害が生じたの一連の流れが立証できるかがポイントだ。

|他車や他の物件を巻き込んだ場合

他車や他人の所有する物件など第三者を巻き込んだ場合、飛び石と先行車両の上記4つの要件が立証できないと、飛び石を受けた運転者の責任として第三者等への弁償義務が生じることになる。

なぜなら、事故の根本的な原因は小石飛んできて当たったことではあるが、その後の運転者の運転行為・措置によって第三者を巻き込んだということになるからだ。

石が飛んできたことや当たったことに驚愕して、急ハンドルや急ブレーキなどの措置をとったことが「運転者の過失」となり、そのことで民法の不法行為責任が生じることになるのだ。

もちろん最初に小石をはね上げた先行する車両の過失などの要件が立証できれば大元の原因を作った先行車両との責任度合いに応じて(いわゆる過失相殺)よって第三者に賠償することになる。

|では飛び石を受けたらどうすればいい?

〇 まずは落ち着いて停止する
飛び石を受けて突然フロントガラスに傷が入ったり破損したりすると焦ってしまいがちだが、まずは落ち着いて、ハザードランプを点灯させ周囲の状況を確認しつつ安全に停車できる場所に停止する。

〇 傷の確認
傷(損傷)の状態を確認する。大きさや傷の程度、フロントガラスのひび割れ等の状態、自力走行の可否なども判断する。

〇 警察や保険会社に連絡
警察への届け出をする。車の車両保険に加入していれば保険会社にも連絡する。

〇 フロントガラスの破損、ヒビが大きくて前方が見えにくいなど安全に走行することができない場合はロードサービスや修理業者に連絡する。

ということになる。

第三者を巻き込まない飛び石による損傷でも警察に通報する理由は、自動車が走行中に発生した事故は飛び石によるものの損壊等も含めて交通事故となるので事故申告義務があるといえる。
また車両保険等に加入している場合には交通事故証明書の発行を受けることができる。

|車両保険は適用できるか

一般的には、飛び石によるフロントガラスの破損等は、車両保険の補償内容である「飛来中や落下中の他物との衝突」に該当し修理するために車両保険が適用できる。
また、補償の範囲が限定される「車対車事故および限定危険補償特約」がセットされている場合も、支払いの対象となる場合があるようだ。

したがってこの種事故の場合には、まず契約している自動車保険の補償内容を確認することだ。

|車両保険の使用で等級が下がる

車両保険を使うことで修理代が補償されるが、翌年度からの等級が1等級下がり「事故有係数適用期間」が1年加算されることになることも念頭に置くことも必要だ。

つまり、等級ダウンにより翌年度の保険料が高くなるのだ。
加入している車両保険の「免責額」を確認して、修理代や翌年の保険料差額などと比較考慮することが必要である。
つまり、車両保険を使わずに修理代を自身で払った方(自腹)が安くなる場合もあるのだ。

|飛び石被害を回避するために

飛び石を100%回避することは困難であろう。運の良し悪しをいう人もあるが・・・。

しかし、被害にあう確率を低減することはできる。例えば

〇 車間距離を十分に保つ
飛び石被害にあう確率を下げるためには、前方の車との距離を充分に保つこと。
舗装されていない砂利道を走行する際は、車間距離を長めに確保する。

〇 トラックの後ろを走らない
タイヤの大きな車両ほど、タイヤの溝に石を挟み込んでいることが多く、また、路面の小石などを跳ね上げる可能性が高い
もしトラックの後方を走行する場合には、普通車の場合よりも長めの車間距離をとるとよい。

|まとめ

これまで説明したように、飛び石の被害はとてもしゃくにさわるのだが、先行車両にその支払いを求めることは極めて困難だ。

冒頭記載したように、先行車を停止させようと追跡する行為は、正常な判断力を欠くような運転行為になる可能性もあって危険を伴う。
ましてや停止させたとしても不法行為責任を立証するのは極めて困難であることを考えると・・・。無理はしない方がよい。

一方で「当て逃げだ」と警察に訴える例もあるが、小石を跳ね上げた認識がないと、当て逃げも成立しない。
他の法律として考えらるのは「器物損壊罪」であるが、この罪は「故意」がないと該当しない。

やはり、このよな場合も想定して車両保険に加入しておき万が一の場合には保険会社から支払われるようにしておくことがベターなのかもしれない。

いいなと思ったら応援しよう!