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「検視官」とは・・・

「検視官」・・これもテレビドラマや映画によく登場するよね。
検視官」という職業の存在は知っているかもしれないが、その業務等については余り知られていないかもしれない。
そこで今回は検視官を取り上げてみた。


|検視官(けんしかん)とは・・

刑事訴訟法第229条によって、
 検察官が変死者又は変死の疑いのある死体(変死体)の検視を行うこと
とされている。

また、同条2項によって、検察事務官または司法警察員にこれを代行させることができるとされており、一般的には司法警察員である警察官が検視を行っている。

検視は、亡くなった方の状態や場所などの死亡時の環境を踏まえた上で、犯罪性の有無の調査や判断をする刑事手続きのことをいうのだ。

警察組織の中では、検視を担当する警察官のことを
 「検視官」(「刑事調査官」と呼称していたこともある)
といっている。
あくまでも組織上の名称でありこのような資格は存在しないのだ。

|「検視官」の設置

検視官の設置に関する警察庁の通達(平 成 31年3月29日)を参考に以下記載することにする。

①  検視官
的確な検視・死体調査を実施するため、警視庁及び道府県警察本部の刑事部にそれぞれ複数の検視官を置く。また、北海道警察の各方面本部捜査課にもそれぞれ検視官を置く。

②  補助者
検視官の業務の効率性を高めるとともに、その計画的な育成を図る観点から、検視官の下に、その業務を補助する者(以下「補助者」という。)を置く。
としてる。

※ 参考
検視官等の体制整備及び適正な死体取扱業務の推進について(通達)https://www.npa.go.jp/laws/notification/keiji/souichi/souichi01/310329-14.pdf

|任用資格

ア 階級
検視官には、警視の階級にある警察官を充てる。
ただし、必要な体制の確保その他やむを得ない事由がある場合には、検視官の一部に警部の階級にある警察官を充てることができる。

イ 捜査経験等
検視官は、警察大学校における法医専門研究科を修了した警察官で以下の捜査経験等を有するものとしている(例外あり)。
① 刑事部門における10年以上(警部の階級にある警察官にあっては8年以上)の捜査経験(検視・死体調査及び鑑識を含む。)を有する者のうち、検視・死体調査に係る法令・実務等に精通したもの。
②  警部補以上の階級における強行犯捜査、検視・死体調査又は鑑識(これらの業務を統括する警察署刑事課長等を含む。)に関する4年以上の経験を有するもの。

|検視官の任務(お仕事)

検視官の任務としては以下のとおりである。

①  刑事訴訟法(昭和23年法律第131号)第229条第2 項の規定に基づく検視及びその指導
② 警察等が取り扱う死体の死因又は身元の調査等に関する法律(平成24年法律第34号。)第4条第2項の規定に基づく死体調査及びその指導
③ 法第5条第1項の規定に基づく検査(警察等が取り扱う死体の死因又は身元の調査等に関する法律施行令(平成25年政令第49号。)第2条に掲げる検査に限る。)及びその指導
④ 刑事訴訟法第218条第1項の規定に基づき死体に対して行う検証及びその指導
⑤ 刑事訴訟法第225条第1項の規定に基づき鑑定人が行う死体の解剖及び法第6条第1項の規定に基づき医師が行う死体の解剖の実施の要否についての指導及びこれらの解剖への立会い
⑥ 「臓器の移植に関する法律第6条第2項に規定する脳死した者の身体の取扱い等について」(平成22年7月9日付け警察庁丙刑企発第69号ほか)に規定する脳死した者の身体に対する検視等に関すること。
⑦ 法第8条第1項の規定に基づく身元を明らかにするための措置及びその指導
⑧ 検視・死体調査等死体取扱業務に関する教養の計画及び実施に関すること。
⑨ 死体の取扱いについて専門的知見を有する法医学者等の部外関係者との連絡調整に関すること。
⑩ 上記に掲げるもののほか、警察署長等が行う犯罪性の判断に資する検討・助言、周辺捜査に関する指導等、検視・死体調査に関し、検視官が行うことが適当と認められること。

警察庁通達では上記のとおりであるが、その業務としては、
・ もっぱら「遺体を視る(検視)」ことを仕事とする
・ 「検視」は刑事訴訟法の規則に従ってご遺体から犯罪性があるかどうか
 を調べ判断すること
・ 必要により解剖の立ち会いを行う
・ 警察所長等への指導等

を行うのだ。

実務上は、所轄警察署刑事課の司法警察員が現場に臨場し事件性の判断を行うが、慎重な判断が求められる事案等では検視官の臨場を要請することとなる。
つまり必ずしも検視官が臨場するわけではないのだ。
なお、検視官の臨場の有無にかかわらず、検視結果はすべて検視官に報告されることとなっている。

<参考>
検視官等の体制整備及び適正な死体取扱業務の推進について(通達)
                   (平成31年3月29日付け)https://www.npa.go.jp/laws/notification/keiji/souichi/souichi01/310329-14.pdf

|検視(検死)が必要になる場合とは

検視(検死)が必要になるのは、亡くなった場所が病院以外だったときである。代表的なケースを上げると次のとおりなので参考に!

・高齢者が自宅で亡くなっていた。
・朝起きたら自宅で家族が死亡していた。
・持病を患っていなかったが、自宅で亡くなっていた。
・持病を患っていなかったが、老人ホーム等で亡くなっていた。
・自殺と思われる状態で発見された。
・交通事故等によって亡くなった。
・スポーツ中の事故で亡くなった。
・火事で亡くなった。
・海やプール等で亡くなった。
・業務中に事故または突然亡くなった(労働災害を含む)。
・地震、落雷などの自然災害事故によって亡くなった。
・他殺と思われる状態で亡くなっていた。

なお、上記以外でも検視(検死)が必要になることがあるため、病院等において治療中に医師に看取られて死亡した場合以外には、警察に相談・通報することが必要になる。
※ 持病がある場合にはかかりつけ医に相談することも可能であり、必要があればかかりつけ医から警察に通報する場合もある。

|検視と検死の違い

発音は一緒だが、ドラマなどでは「検視官」や「検死官」という文字を使っていることがある。これらはどう異なるのか?
法律上の表現は「検視」であり「検死」ではない。
検死についての明確な定義はないのだ。

検視:法律用語である。刑事訴訟法に基づいて行われる、遺体の外表面の調査のことを指す。
検死:法律用語ではない。明確な定義はないが、主に検視・検案・解剖の3行為を含める。

「法律用語であるか否か」が、両者の大きな違いなのだが、・・・、一般的には「検視も含めた死因調査の一連の流れ」、つまり「検視・検案・解剖」の3つの作業を含んだ行為を「検死」と表現しているようだ。

(筆者加工)

|検視(検死)の流れ

○ 警察への通報
自宅で家族が亡くなった場合には所轄の警察署へ連絡を入れることから始まる。

○ 警察官が臨場し検視
警察官、必要により検死官が現場に赴き「検視」を行い、犯罪性の有無について判断する。

○ 医師による検案
犯罪性がないと判断した場合には、医師による検案(東京23区等においては監察医)が行われる。「死因が明確である」という判断をした場合は、医師による死体検案書が作成されることになる。

なお、その過程において死因を特定するために必要な場合には行政解剖を行う場合がある。

参考 ↓

○ 事件性があると判断した場合
犯罪性がある場合には、死体見分とともに、犯罪捜査として刑事訴訟法に基づく「司法解剖」の手続きに移行することになる。

○ 検視(検死)は拒否できるのか?
死亡の届出として警察に連絡を入れた段階で検視を拒否することはできないというのが通説。
なお、これらの手続きがとられないと死体検案書などの書類が作成されない。

○ 検視(検死)の料金は?
検視(検死)には料金は必要ない
しかし医師によって死体検案書を作成してもらうことになるため、その費用が発生する。

死体検案書は死亡診断書と同様の効果があり、市役所等への死亡届、火葬許可や埋葬許可に必要な書類である。

また、遺体の搬送を行うための費用も発生してくる。
これについては原因者になるので、遺族が全額負担しなければところも少なくない。

(筆者撮影)

|おわりに

以上のように、現実的には、ドラマや小説の中に出てくる検死官の業務などとはちょっと違っている。

しかし、事件性や犯罪性の有無の判断などを行い、事件を見逃さないという点ではとても重要な職種であるということができる。

通達にもあるように、できるだけ検死官が現場に臨場することが望ましいが、実態としては、検視対象が多いことから、刑事課長等が一義的に現場に臨場し事件性の判断を行っていることも多い。

こういう私も、東京都に勤務している際には、年間150体余りの変死体を取扱っており忙しかったことを思い出す。

そのときに対象となったのは、独居老人が比較的多かったが、労災事故、交通事故、さらには外国人、中には事件性のあるものがあり司法解剖等の手続きに進んだこともあった。

今後とも検死官制度が適正に運用されることを期待する。



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