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文化の漂流者の視点での研ぎ澄まされた文学「ボート」

<文学(199歩目)>
ベトナム出身のナム・リーさん、というよりベトナムとか民族的、文化的なバックボーンよりも英文学として高みに達している。

ボート
ナム・リー (著), Nam Le (原名), 小川 高義 (翻訳)
新潮社

「199歩目」は、ナム・リーさんの祖国喪失者の視点の短篇集で、どれも読ませてくれる。

ジュンパ・ラヒリさんに似た経歴で、ラヒリさんの文体はとても引き締まっている。そして、ナム・リーさんの文体は読後に読者にいろいろと考えさせられる文体です。

どの作品も、「考えさせられる」ことでは共通なのですが、おそらく取材がすごいと思う。

異なる国を舞台によく描かれていると感じた。

日本の広島を舞台にした作品は、戦争中、そして原子爆弾投下の前の広島を調べていないと書けない作品。同様に、イランのテヘランを深堀しないと書けない作品とか、作品の構築に目を見張るものがある。

そして、読後に考えさせられる部分、この視点がすべての作品にあらわれている。もっと読みたくなった。

「ヒロシマ」
ちょっと驚いた。実は亡くなられた津原 泰水さんの「11 eleven 河出書房新社」を読み終えた時の感覚に似ていた。
作中の「五色の舟」という作品がナム・リーさんの「ヒロシマ」と読後が似ていた。
当時の広島は、私たちにとってもうかがい知れない世界かもしれない。
徹底的に調べた上で、伝えたいことを切り出した作品で、描かれていること以上に背景や、その後を考えさせられた。

「愛と名誉と憐れみと誇りと同情と犠牲」
ボートピープルとしてベトナムを出る選択をした両親。その両親の経験をもとに作品を作ろうとする主人公に対して、息子を訪れた父から、いろいろな経験から息子とつたない接触をする。
父と息子は拒絶でもなく、正しい関係をもつのだが、そこで父は単なる単純な物語ではないことを息子に伝える。
長い題名の意味はここに出ているが、この単純ではないところがどんどん出てきて、読後に今まで以上に考えさせられた。
想定される作品以上に、いろいろなことが伝わる作品。
このスタンスが、どの作品にも流れている。

7篇が、それぞれの無国籍な料理のように出されるが、読後にとても考えさせられるように提供されている。
すごい才能だと感じました。

素晴らしい。

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