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自分のロゴが選手のユニフォームに!?カンヌ受賞も果たした「ロゴで応援プロジェクト」の舞台裏

マイナースポーツが抱える資金難という課題。その解決策のひとつとなったのが電通デジタルのソーシャルプロジェクト「ロゴで応援!People-Sponsored Logo」です。

今回は、本プロジェクトのプロジェクトリーダーを務めた電通デジタルの石田沙綾子、メインプロデューサーを担当した土橋由幸に話を聞きました。プロジェクトが誕生した背景にあったもの、完遂するまでの道のりはどのようなものだったのでしょうか?

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逆転の発想でパラスポーツの課題解決に挑む

-今回のプロジェクトは、電通デジタルのソーシャルプロジェクトから始まったそうですが、どういった取り組みなのでしょうか。

石田:ソーシャルプロジェクトは、電通デジタルの強みであるクリエイティビティとテクノロジーで社会課題の解決に取り組む活動です。1年に1度のペースで企画を募り、コンペで3プロジェクトほどが採用されます。
「ロゴで応援!People-Sponsored Logo」は、2022年にマイナースポーツ、特にパラスポーツを支援する取り組みとして提案し、採用されたものです。

-「ロゴで応援!People-Sponsored Logo」の詳細についてもお話しいただけますか。

石田:新たな応援の形として、個人がスポンサーとしてパラスポーツを支援できるプロジェクトです。具体的には、クラウドファンディングで一定額を支援していただいた人は、選手が着用するユニフォームに自分だけのオリジナルロゴを掲載できるという仕組みです。

Photo:西岡浩記

スポンサーロゴ制作特設サイトにて、ご支援いただいた方のお名前またはニックネームを入力していただくと、WebサイトがAIを用いて複数の組み合わせからロゴをピックアップ。その方だけのスポンサーロゴを提案します。日本代表にふさわしい日本の伝統文様をベースにデザインしました。ロゴが集まることで着物の柄のように見えるシステムになっていて、企業ロゴとは違い、ロゴ同士がお互いに調和するのもポイントです。
結果として、クラウドファンディングは目標金額の230%を達成。世界最大の広告祭である「カンヌライオンズ2023」ではショートリストを受賞、「MAD STARS 2023(2023釜山国際マーケティング広告祭)」ではクリスタル、 「2023 63rd ACC TOKYO CREATIVITY AWARDS」ではシルバーを受賞しました。

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-このプロジェクトを思いついたきっかけはなんだったのでしょう?

石田:思いついた背景には、電通デジタルに14名ものパラ選手が所属(2023年12月時点)しており、会社としてパラスポーツを長年にわたり支援していることも関係しています。その中の方にヒアリングしたところ、国際的な大会が終了したあと露出が減ったことでスポンサーが減ってしまい、規模の小さなスポーツ団体は資金不足に悩んでいることがわかりました。今回一緒に企画を推進してくださった日本パラ・パワーリフティング連盟の皆さんも同じ悩みを抱えていらっしゃいました。
何かできないかと考えて、選手の姿を思い浮かべた時にすぐにアイデアを思いつきました。スポーツ選手が着るユニフォームにはスポンサー企業のロゴが印刷されていますよね。そこが空いたのなら逆にそのスペースをうまく使えるのではと。
選手はたくさんのファンの力をもらってより良いパフォーマンスが発揮できますし、支援者の方はご自分のロゴが入ったユニフォームを着た選手を応援できるというかけがえのない体験を得ることができます。

-すばらしいアイデアだと思います。ユニフォームに着目するというのは、なかなか思いつかないことだと思うのですが、なぜこのような発想ができたのですか?

石田:実は、私個人としてはスポーツに詳しくなく、恥ずかしながら試合観戦をすることもありません。スポーツと聞いてパッと最初に思いついたのがユニフォームだったのです。

-なるほど。詳しくないからこそ、思いついたアイデアなのですね。

石田:スポーツに詳しい方からは「正直初めはこのアイデアを実現するのは難しいと思った」と言われました。詳しくないからこそアイデアが出てくるって、本当にあるんですね(笑)。個人的には、どんなことにも臆せずアイデアを出していいのだ、というモチベーションにつながりました。

難易度の高いプロジェクト。成功の鍵は「覚悟」と「突破力」

-「ロゴで応援!People-Sponsored Logo」を進める上で、大変だったことはありますか?

土橋:今回はとにかくやることが多いプロジェクトでした。解決すべき課題やプロジェクトの軸は早々に決まったものの、そこからの道のりが長くて。例えば、ロゴのデザイン、ユニフォームを製作する会社探し、クラウドファンディングの進め方や目標金額の設定など、決めることが多くありました。私はゴールから逆算して考えることをモットーにしているので、最終的なアウトプットとしてこのアイデアが世に出たときのイメージをクリアにして、そこに行き着くまでのタスクを整理しました。

実際の動画のワンシーン

クラウドファンディングについては、運営会社の READYFORと何度も打ち合わせをしながら進めました。

-クラウドファンディングの感謝企画として「“ごちゃまぜ”パラ・パワーリフティングイベント」も開催されたとお聞きしました。イベントの開催は、プロジェクトがスタートした段階で決まっていたのですか?

イベント参加者の集合写真。ユニフォームを着ている前列左から三浦浩選手、桐生寛子選手、奥山一輝選手、森崎可林選手、光瀬智洋選手

土橋:クラウドファンディングを用意する中で、日本パラ・パワーリフティング連盟の皆さんが一番やりたかったことは何なのかをお聞きして実施が決まったものです。支援金はこのイベントだけではなく一番支援が入りにくい日々の練習にも使われているのですが、支援者にどう感謝を伝えるか、ボランティアの方との連携、選手の方にどう動いていただくかなど、プロジェクトの途中で考えることが増えていく場面もありました。

-時間の制約もあったでしょうし、スケジュールを調整するのは大変だったのでは?

土橋:そうですね。ただ今回のプロジェクトでは、なるべく多くの人に、楽しく巻き込まれていただきたい、という方針がありました。パラ・パワーリフティングに関心がない人でも、プロジェクトを通して自分にも通じるものがある、と自分ごと化しながら共通点を見つけられるようにしたいなと。そのため、チームメンバーで綿密に話し合いを重ねながら進めていきました。

支援してくださった方の全ロゴ

予算とスケジュールの制限がある中で、実現したい・するべきことを紙に書き出してひとつずつ検討していたのですが、どうしても難しいこともあって。何度も修正が入りましたし、リーダーの石田さんは本当に大変だったと思います。プロジェクトの要となるユニフォームも石田さんがアートディレクターとして担当されていたので、その労力は計り知れないものだったのではないかと。

-土橋さんの意見を聞いて、石田さんはどうですか?

石田:ユニフォーム製作については、そのほかのことも含めてやるべきことが多すぎてパニック状態でした(笑)。デジタルに強いチームのおかげで早々にAIの使い方とWebシステムについては決定ができたのですが、最終的なロゴの数がわからない中、布への印刷が可能なロゴとフォントのサイズ、ユニフォームの端まで繊細に印刷してくれる印刷会社探しなど、小さな決定が全体に影響してくるという、簡単にバランスの崩れるモビールのような状態が続いていました。しかし、土橋さんをはじめプロデューサーチームが、道筋を立ててスケジュールを決めてくれたのが大きな助けになりました。

-ユニフォーム製作は初めてのことだったと思いますが、どのように進められたのですか?

石田:プロの知人にさまざまなことを教えてもらいました。アパレル関係の知人には参考になるファッションブランドやパターンの知識、印刷会社も教えてもらったり、ロゴのモチーフとなっている伝統文様については、着物の仕事をしている私の母に相談したり。クリエイティブディレクターの同僚や先輩に何度もデザインの確認をしてもらうことで、徐々に自信につながっていきました。

多くの人の協力を得て完成したユニフォームのイメージ画像

-土橋さんがおっしゃっていたように、多くの人を巻き込んで、協力を得ながら進められていたのですね。

石田:はい。そもそもパラスポーツに関する企画を練っていた当初は、対象スポーツも決まっていませんでした。社内のパラ選手、電通ダイバーシティ・ラボ(DE&I領域の調査・分析及びソリューション開発を専門とするチーム)やパラスポーツ事業部といったさまざまな方とつながることで、最終的にパラ・パワーリフティング連盟の事務局長である、とんでもないパッションをお持ちの吉田さんにたどり着いたのです。クラウドファンディングについては、取り組みがスタートする前に経験者の元同僚にその大変さを聞けたことで、覚悟をもって挑めました。

-関わる人が多く難易度の高いプロジェクトは途中で瓦解してしまうこともあります。そうならなかったのは、なぜだと思いますか。

土橋:成功の鍵は「覚悟」と「突破力」だったのではないかと思います。リーダーの覚悟が周りの人に影響を与え、それが原動力となり、協力者が増えていくのを実感しました。プロジェクトが難航して止まりそうになった時は、メンバーで何が足りないのか、どう対処するのかを考え、やりきる力を信じて全員で突破していきました。

石田:人を巻き込んでしまったからには、成功することでしか恩を返せません。自分のためというより、サポートしてくれるみんなのため、という責任感が原動力となっていました。

妥協することなく走り抜け、みんなのパワーをユニフォームに込めた

-アウトプットのクオリティをあげるために大事にしていたことがあればお話しいただきたいです。

石田:このプロジェクトはデザインが難しすぎて、「これは無理だ」と絶望しかけたことがあります。しかしそこから這い上がり、プライドを捨て、周囲の方に時間をいただき、厳しいアドバイスをたくさんもらうことで、やややー!っと一番いい形でデザインやプロジェクト全体をまとめることができました。進行のプロの土橋さんを含めて、その道のプロに頼り、私はその真ん中で真剣に対応する人というポジションでした。その結果、私らしい表現が残らず、偶然を味方にした想像以上の素晴らしいアウトプットになり、私自身が一番驚くこととなりました。

土橋:巻き込んだ方には、良い意味で妥協せずお願いをするようにしていました。多くの人に意見を聞いて、みんなのパワーを集める。そのパワーをカタチにしたのが今回のオリジナルユニフォームであり、それを選手に届けることをイメージして全体進行を行いました。今回協力いただいた日本パラ・パワーリフティング連盟の皆さんも、チームの本気を受け止め、その思いに応えてくださったと思います。

-土橋さんは動画制作にも非常に力を入れられていたそうですね。動画制作を通して、何か感じたことはありましたか?

土橋:練習風景を撮影した時に、パラ・パワーリフティングの強化委員長から、バーベルを持ち上げるだけでなく「持ち上げた時の美しさ」も重要な評価基準になると教えていただきました。それを聞いた後に選手たちの姿を見ると、別のスポーツを見ているような感覚になって。別の視点が加わることで見え方が大きく変わるのだと実感しましたし、これほど魅力的なスポーツを、より多くの人に知ってもらいたいと思いました。
また選手の方々と直接お話しする機会があり、一人一人の想いをお伺いして、その温度をリアルに感じることで演出上の再現にも役立てられたのも良かったです。リアルとデジタルを融合できたからこそ、動画のクオリティも高められたのだと思います。

23回全日本パラ・パワーリフティング国際招待選手権大会 Photo:西岡浩記

-時間の制約もある中で高いクオリティの動画を制作できたというのは、改めて考えてもすごいことだと思います。

土橋:こういったプロジェクトは、ひとつの施策でゴールに辿り着くものではありません。クオリティの精度を高めるポイントは、ミルフィーユのように施策を積み重ねていくことです。だからこそ、全てのクオリティを追求し、妥協せず諦めない持続力が求められるのだと考えています。

人は変化する。偶然性をデザインするCXの面白さ

-プロジェクトを通して得られた周囲からの反応で、印象に残っているものはありますか?

土橋:撮影時に選手が初めて箱からユニフォームを出すシーンを撮影したときのことです。選手はカメラ前で緊張していましたが、ユニフォームを見た瞬間、パッと笑顔になって「素敵だ」「これを着たらみんなから近くで応援してもらえているようで頑張れそう」という言葉が自然にこぼれていました。その表情と言葉を受けて、私たちも思わずグッときて胸が熱くなりました。

石田:東京新聞の記事に「朝起きて、ロゴにある全員の名前をチェックして気持ちをもらい、128キロを無事に挙げることができた」という三浦浩選手の言葉を見た時です。この言葉を読んだ時、本当にロゴが選手のパワーになったのだと実感しました。

クラウドファンディングの報告にはたくさんの選手が出演してくださいました

土橋:結果として、電通デジタル創設以来初となるカンヌライオンズのショートリスト入りという歴史を作れたことも嬉しかったです。選手やスタッフの全面協力を得て最大限にやり抜いたその先に素晴らしい結果がついてきたのは最高に幸せなことです。

石田:カンヌライオンズの結果は多くの方が喜んでくれました。社内のマネージャー陣が固唾をのんで見守ってくれましたし、世界と戦う厳しさを知っているパラ・パワーリフティングの皆さんが、世界中のクリエイターが集まる広告祭で受賞したことをとても喜んでくださいました。

-最後に読者へのメッセージをお願いします。

土橋:キーワードはふたつ。「覚悟」と「突破力」です。「アイデアは思いつく、やりきった者が一番えらい」という言葉を聞いたことがありますが、まさにこのことだと思いました。チームを引っ張る絶対的なリーダーの石田さんと密にタッグを組めたことに誇りを持っていますし、成功体験として自信につながりました。
正直なところ、ソーシャルプロジェクトは一筋縄ではいきません。やりきるのはハードルが高いですが、己の成長に必要なアイデアや、考え動く「考動力」を育てることができます。プロジェクトを通して、一歩超えた先に別の世界を見られたような気がします。今回、すばらしい結果が出たので、電通デジタルの会社及びメンバーとしてのレピュテーション向上につなげることができました。電通デジタルのクリエイティビティの無限の可能性を示し、世界のトップクリエイターと対峙するスタートラインに立てたのではないでしょうか。

石田:私も土橋さんもですが、人が好きであることがベースにあったからこそ、いろいろな人と協力しあい成し遂げられたプロジェクトでした。イベントで選手の皆さんと一緒にベンチプレスをやってみて、デジタルでは得られない経験のインパクトを実感できましたし「スポーツ=自分とは縁のないもの」という固定観念を外されました。パラ・パワーリフティングの試合は、会場に大音量の音楽がかかっている中、選手が照明で照らされながら進みます。その舞台のような演出に驚き、魅了された結果、今では私もベンチプレスをしています(笑)。
スポーツはあまり好きではなかったので、自分がやることになるとは想像もしていませんでした。偶然の接点が人を変えることを自ら体験したので、その偶然性をどうデザインするかを、これからの仕事に生かしていきたいですね。

* * *

写真や動画を見ると、鍛え上げられた上半身に色鮮やかなユニフォームが映えてとても華やかです。ロゴからパワーがもらえるという選手の言葉に、プロジェクトの真価がうかがえました。そして、プロジェクトを通して自身が変わったという石田さんの発言から、実際の体験や人との触れ合いが与える影響の強さを感じました。電通デジタル初の快挙を成し遂げた二人のこれからの活躍に注目です。

プロフィール

電通デジタル:石田 沙綾子(いしだ・さやこ)

ブランドエクスペリエンスクリエイティブ部門 エクスペリエンスデザイン第1事業部アートディレクター
電通入社後広告アートディレクションに従事したのち休職し、ロンドンに留学。語学とデザインとアートを学ぶ。帰国後はクリエイティブの力をビジネスに応用する「ビジネスデザイン・ラボ」に異動。ワークショップデザインやブランドデザインに領域を拡張。
その後「電通ビジネスデザインスクエア」のメンバーとして、ビジネスにクリエイティブの視点を入れながらクライアントとの共創をベースに社内風土改革などに従事。
2020年から電通デジタルに出向し、デジタルを掛け合わせながらクライアントのさまざまな問題解決のサポートを行っている。


電通デジタル:土橋 由幸(どばし・よしゆき)

エクスペリエンスプロデュース部門 クリエイティブアカウントプロデュース事業部
(兼)ブランドエクスペリエンスクリエイティブ部門 ブランデッドダイレクト第3事業部
電通グループのCM制作プロダクションにてTVCMを中心としたトップ・ミドルファネルの動画制作を従事。プロデューサー業務を7年経験のち、2017年〜電通デジタルの初期メンバーとしてデジタル起点でのクリエイティブ拡張を促進。現在、マスとデジタルをMIXした統合プロデュースを目指し、プロデューサーの新たな価値向上に向けて日々勉強中。近年は会社の未来に向けての新プロジェクトの進行や新卒中途メンバーへの育成にも力を入れている。「プロ」と「プロ」を繋ぐプロとして最終ゴールを見据え、常に新しいことにチャレンジしていくことがモットー。

※所属・役職は取材当時のものです。

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