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冬の始まりには魚を焼く

 魚の匂いがする。
 一人暮らしのちいさな部屋の中で焼き魚をすると、すべてのものが魚の匂いに染まる。
 先日行った彼氏の家を思い出す。ナチュラルに整頓されていて居心地の良さそうな、生真面目な性格があらわれているようなリビングと寝室。観葉植物とテレビをかけるボード。全体的にベージュトーンで統一された部屋。
 そして今のわたしの魚部屋。

 隅には白い鳥がいて、グレーのラグに白い家具。静かで、わたしひとりぶんの空間。

 魚を箸でほぐすとき、綺麗に食べられるか心配しなくていいのが1人のいいところだ。好きに食べて好きに残す。悪い癖だと思いつつ一向に改善できない。
 ひとり分を作るのは難しく、売っているひとりぶんはかなり多い。好きに残せるとストレスがない。外で食べたりすると相手の視線を気にして無理やり詰め込んで気持ち悪くなることも多々ある。何やってるんだろうと思う。人と食事に行くのが苦手になりかけたりもする。
 でも食べることは好きだ。美味しいものは幸せ色をしている。

 もうすぐクリスマスだ。クリスマスといえばケーキとプレゼントで、どちらもあてはない。なんとなく過ごして、なんとなく終わる日常に緑と赤がほんのり浮かぶだけだ。
 今サンタさんがきてくれるなら何を頼むだろうと考えて、何も頼まないと結論づけた。

 今日も夜は冷たい。
 明日の朝も冷たい。
 冬の始まりには魚を焼く。そういう文化はないけれどたったいま似合うと思った。
 息が白くなれば、会いたくなるのかなとも思ったりした。


23.1129

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