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壁に「カレースパイス」を塗ったリノベーションの思い出、夏 #09

【 前回までのあらすじ 】
毎日カレーを食べ続ける夫とその嫁は『カレー研究用キッチン付きオフィス』 を新設すべく、半年かけて山あり谷ありの物件探し( 7話目 )を乗り越えた。
だが今度は、高額リノベ費用に茫然自失。その時、〆切の妖精が「内装デザイナー兼大工(ちゅーた君)」を連れて華麗に舞い降りたのだった(8話目)。これで希望額の中で工事費が収められるかも…!!

内装工事には、施工主の夫とわたしもリノベーションに参加することにした。
『工事費用を極力抑えるため』という建前だったが、内心は大掛かりなDIYができることがめちゃくちゃ嬉しかった。

わたしの実家は工務店を営んでおり、幼い頃から建築現場に遊びに行っては建設中の建物を眺めては足場に登って遊んでいた。(危険なので、本当はダメ、絶対)

兄がいるから工務店は継がなかったし、数学が苦手なので大工にもならなかったけれど、建物を作る方々を心から尊敬しており、いつかは真似事でも、自分の手で住処を作ってみたかったのだ。

とは言え、内装工事がこんなに大変で、しかも「スパイスを壁に塗る」ことになろうとは夢にも思わなかった…。


1、 リノベーションの下地作り

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関西のクラウド大工チームに協力してもらって、真夏の工事が始まった。

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壁は塗料を直塗りすべく、壁紙とその下の石膏ボード部分を削り落とす。
これが一気にベリベリ〜っと剥がせるわけではなく、スクレイパーを使って少しずつこそげ落とさなければならない。

地味な作業だけど腕を上げ続ける作業なので、数分で腕が棒のようになってしまう。
大きな壁を前に、まだまだ先は長いことを目視で確認しながら剥がし続ける。しんどい。


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床はコンクリートを剥き出しにしたいので、床材を剥がすことに。
壁よりもしっかりと張り付いている床材を1層剥がしたら、なんともう1層が下に隠れていることが判明。

今までの借主達が雇った内装業職人達の雑な施工に辟易としながら、スクレイパーを金槌で打ちながら剥がしていく。

腕も腰からも、悲鳴が聞こえ続ける地獄のような作業…。


何これ、しんどすぎる。


しかも時期は、ちょうど去年の今頃。
去年も猛暑で気温35度の中、エアコンもつけられない状況下で、こまめに休憩をして水分補給やアイスを食べてクールダウンしながら、また黙々と作業。

粉塵を吸わないようにマスクをしながらの作業は窒息寸前。マスクも汗で透けるくらいズブ濡れになりながら壁材や床材を剥がしまくる夏。

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建物作りに関わる皆様方は、何度もいうけど本当に尊すぎる…!!!!!


2、 差し入れランチは「熱中症予防のカレー」

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施工主として、飲み物やアイス、スイカなどの差し入れだけじゃ物足りない…。
ここは「カレー研究用オフィス」になるので、まかないカレー を振舞って鋭気を養ってもらいましょう!

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ライスは、熱中症予防の特別仕様。

多量の発汗で、塩分やナトリウム、カリウムなどのミネラルが欠乏するので、白米 発芽玄米  ミネラルを豊富に含んだ「ぬちまーす」という塩とマグネシウムや鉄分豊富な「黒米」を入れて炊く。
すると、ふっくらかつほんの〜り塩味でめちゃ美味しいライスが炊き上がるので、これにカレーと副菜を乗っける。

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『夏野菜ブチ込みカレー』

巨大な茄子、胡瓜、丸オクラなどドバドバいれたカレー。
付け合わせは、じゃがいものサブジ&胡瓜の浅漬け。

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別の日は、2種盛り『マッサマンカレー + チキンカレー』

発酵タマネギ塩水漬け、高菜を添えて、 おかわり用に「豚モツのカレー」も用意。

ああ、幼い頃に差し入れを持って行った建築現場を思い出す。
この中でノスタルジックな気分になっているのは、わたしだけだろうな。


3、 壁にスパイスを塗るアイディア

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下地作りが整い、壁を塗るタイミングで夫が「ねぇねぇ、壁にスパイス塗りたくない?」と言い出した。

私は冗談だと思い、ちゅーた君と一緒に「おもしろーい」とキャッキャしたが、夫のこの言葉は本気だった。

本気なら…しかたない。
愛する夫の奇天烈なアイディアは基本的に全面肯定して生きているので、やるしかないのだ。

壁紙を剥がしたら壁が半分に分かれていたので、それを利用して、半分から下をスパイスを混ぜた黄色に塗ることにした。

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もう現状復帰とか、大家さん・不動産屋の「ガチのカレー屋さんじゃないから安心」という思考を覆してしまうことへの罪悪感にフタをし南京錠をかけて、どのスパイスを混ぜるかのリサーチを始めた。

スパイスを塗料に練り込むという話は聞いたことがない。大工チームもやったことがない模様。
心配なのは、塗料が乾燥してヒビ割れを起こしたり、壁に付着せずにダレてきたりするかもしれないこと。

前例がないなら、やってみるしかない。

幸運なことに、わたしは美術科のある高校と美大を卒業しており、7年間油絵学科に属していたので、絵の具に粉を混ぜて塗るという行為には覚えがあった。

油絵の具は乾かす時間が必要なので、基本的には何日間もかけて仕上げるが、美大の油絵学科の受験では、とにかく早く、重厚感も入れて描かなければならない。
受験対策で半日で1枚描きあげる演習を繰り返す時の、早く乾かすテクニックの1つである「絵の具に石膏や粉を混ぜる方法」に似ているのだ。

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4、 「スパイス×塗料」 の相性実験

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カレー作りに欠かせない、黄色いスパイスといえば「ターメリック」

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日本では『ウコンの力』でも有名だが、抗菌作用に優れた美人生徒会長のようなスパイスである。
主要生産国インドの国内で80%が消化されるほど、インドではほとんどの料理にターメリックが使われている。てことは、壁のベースにピッタリだよね。


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デキる男ちゅーた君が、実験用『擬似コンクリ板』を自発的に作ってきてくれたので、この板で実験開始。

まずは、試しに白塗料にターメリックパウダーを混ぜてみる。
この時はテストだったのでスーパーで買える手軽な小瓶で少しずつ混ぜて分離しないかを確認。

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淡いクリーム色に変化した。想像よりも色味は強くない。

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ターメリックの含有量によって若干色は変わるが、白が強すぎてクリーム色からは抜け出せない。

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少し壁に塗ってみたが、薄っ…。
重ね塗りしても、逆にファンシーな空間になってしまうクリーム色加減。
「白塗料×ターメリック」の掛け合わせはボツになった。


今度は、黄色塗料にターメリックを混ぜてみる。

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そもそも黄色いので、混ぜた状態での見た目は塗料そのままの色から変化はなかった。


今度は『擬似コンクリ板』に各塗料を塗ってみたが、下地がグレーの部分は、下層色に影響されて発色が良くない。
壁の下地がほんのりクリーム色なので、白色を塗ってその上にスパイス黄色を塗ってみたら、あら、意外といい色。
だが、やっぱり地の色をうっすらと感じる。

ペンキはもっと強く色がでるのかと思いきや、下地の色に影響されるのは、油絵の感覚と一緒で面白い。


次は、壁に少量塗ってみる。

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え?なんか、雰囲気よくない?

『 The Selby 』で紹介されるオシャレな家に飾ってある抽象画っぽくない?


偶然の産物にキャッキャしながらも、実験は続く。
塗料に乾燥しているパウダースパイスを入れているので、付着したように見えてもスパイスが塗料の水分を吸着してきちんと壁に定着しない可能性があるので、このまま塗って大丈夫か確認すべく2日乾かしてみた。

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すると、コンクリ板に定着はしているものの、色が変わっている…!!
水彩絵の具のように、水分を含んでいる状態の色が乾燥して淡くなるように、彩度が下がっていた。

これを何回か繰り返して、実験は終了。


5、 混入スパイスを決める

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定着有無と色調の変化がわかったので、今度は色を決めることに。

ギンギンに明るい黄色だと落ち着かない空間になってしまうので、目に入ってもまぶしくない黄色を目指すことにした。

黄色塗料に混ぜて、落ち着いた色になりそうなパウダースパイスを探す。

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鮮やかな黄色い塗料に混ぜて色が変化しそうな6種類をピックアップしたが全部買い揃えて実験するのはやりすぎな気がしたので、ここは決め打ちでいこう。
色味はもちろん、西欧では魔除や空気の浄化として使われていたり、ゴキブリなどの殺虫剤としても使える「クローブパウダー」を使うことにした。
本当はオレンジに刺したりするけど、壁に塗ったらさらに広い範囲で防虫効果がありそう!

クローブと言えば、吸い口が甘く、火を付けるとパチパチと火花が散るのが特徴的なタバコ「ガラム」の香料にも使われている。

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6、 とうとう壁にスパイスを塗る日がやってきた

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壁塗り当日。
塗料とスパイスの比率は、量が多すぎてやってみないとわからないので、ぶっつけ本番で調整。

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ターメリックは3kg、クローブは1kgを購入。
意外とキロ単位で購入するとそこまで高額じゃないが、カレー研究するとは言え、すぐには使い切れない量。

スパイスの販売会社もまさか壁に塗るなんて思ってないだろうな。

わたしだって思っていなかった。
毎日カレーを食べ続ける人を夫にすると、こうゆう人生になるんだな。愉快極まりない。


7、 スパイス塗料のレシピ

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事前の実験をしていないクローブの溶け方の確認のため、少量を塗料に混ぜて実験したところ、すぐにダマになってしまった。

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塗料にクローブを一気に投入すると、粉の塊に塗料が付着し膜をはってしまい液状化するのが難しくなるので、先にターメリックと黄色塗料を一体化させてから、攪拌しつつクローブを少しずつ投入することに。


ターメリックもパウダーなので急に塗料と混ぜると水分が足りずに固まってしまう恐れがあるので、混ぜやすさと塗りやすさを考慮し、まずは基礎となるターメリックパウダーを少量の水で溶きながらミキサーで攪拌する。

全体的に混ざってきたところに黄色塗料をIN。
これが塗料のベースになる。

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見た目は、ちょっと色の濃いホットケーキミックス。
ここにダマにならないよう、少しずつクローブパウダーを入れつつ攪拌し続ける。

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もったりするまで攪拌し続けるが、ホットケーキの素にココアを入れて混ぜているお菓子作りにしか見えなくなってきた。


ローラーで一気に塗布できるくらいの固さになるように水分と塗料で調整。
生クリームで言えば、7分立てくらい。ホールケーキのスポンジを生クリームでコーティングする時の固さ。

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ローラーについた粒は、おそらくクローブパウダーの粒。
塊を作らず完全に液状化させるのはなかなか難しいんだな。


8、 とうとう壁に塗ります。スパイスを。

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私は大学時代ぶりだけど、大きな壁に塗料を塗ることをしたことのない夫はテンションMAXで「カレー」と描いてニヤニヤしている。

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壁にスパイスを塗れる喜びが溢れ出ちゃてるんだね。

かわいい、かわいいよ、夫。


ローラーで塗って乾かして、を3度繰り返したが、なんだか不均等なパウダースパイスの粒子が目立つ…。それならと、刷毛を使ったマチエールを作って味にしちゃうことに。

昔取った杵柄で、私が仕上げのマチエール作り。
まんべんなく、凹凸やハゲができないように刷毛を左右に動かし続ける。気が遠くなって途中で放り出したくなるかと思いきや、この作業が大好きすぎてすぐにゾーンに入ってしまうので、気持ち良くてしかたない。

ずっと塗っていたかったが、乾かして完成!

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やってやった…。

冗談だと思っていたけど、スパイスの壁を作ったぞーーー!なんだかすごい達成感。

塗料が余ったので、トイレのドアと窓枠も塗ることに。
もう疲れ果てていたので、トイレは下地を整えずにグレーのツヤ感がある塗料の上に塗ってみたところ、全然ノラない。。

めちゃくちゃ塗りにくくて、粒も残ってるもんだからマスキングテープで養生したのに、際の処理が美しくできなかった。
次回への教訓はこれだな。

スパイス塗料を塗る時は、下地作りと際処理に気をつけろ!


猛暑の中、汗だくになりつつも作りあげた成果物が目の前にドーンと現れた時「生きているわ〜〜〜〜〜」と感じた。本当に尊い。

長らくWEBや広告業界で働き続けて、WEB上の何某かをいろいろ作っていたけど、自分の手はパソコンのキーボードを打っていただけ。
ふわふわとしたWEB上の成果物の物足りなさ感じていたところに、久々に質量を伴った物体を自分の手で変化させる作業は、やっぱり楽しかった。


9、 スパイスを壁に塗ることの疑問と(現時点での)回答

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スパイスを壁に塗る、と聞いた時の友人たちから受けた質問があったので、回答と共にご紹介。

Q:ターメリックの黄色は光にあたると色が消えるけど、壁はどうなの?

A:ターメリックに含まれる「クルクミン」は、光で構造が変化して退色する物体。カレーが服についたら、日光に当てれば色が消えるというのは有名な話。

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図の引用:「カレーのシミは紫外線で消える」ウソ?ホント?洗濯のプロに訊いてみた結果…

オフィスは北向きの窓で直射日光が当たらない壁なので大丈夫でしょ、と思いきや蛍光灯の光でも退色するというタレコミが…。
1年間経過観察したけれど、退色せず、塗った時のままの色味をキープしている。

そもそも黄色い塗料に混ぜているから、そりゃ退色しないか。
透明な塗料(シーラーとか)に混ぜて塗っていたら、今ごろ退色して薄汚れた壁風味になっていたかも。
これこそ、経年劣化を楽しむ壁だったのか。


Q:壁にスパイスを塗り込んだら、部屋全体がスパイスの香りになるの?

個人差はあるが、わたしの場合は大量のスパイスに囲まれると嗅覚がバカになり、何も感じなくなる。嗅覚が人より鋭いので、すぐに嗅ぎ分けられる許容量がパンクしてしまうのだ。

毎朝オフィスに出勤しても、もはや何も感じない。
だが、オフィスに遊びに来た人たちは、オフィスのドアを開けた瞬間に「カレーの匂いがする〜♡」とくんくんするので、スパイスの香りは死んでいないのだろう。

専用階段を上がったところのトイレは狭いし密室空間で日光も当たらないので、部屋よりも香りが持続しているようで、階段を上がるだけでスパイスの香りがする、とよく言われる。

不思議なのは、カレーを作っていないのに同じ反応をされること。
しょっちゅうカレーを作っているので、その匂いが染み付いている可能性も否定できないが、やはり壁のスパイス効果なのか……。


あ。 これが不動産屋の目が濁る原因か。
7話目参照)


10、 さいごに。

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このオフィスの内装塗り作業はたくさんの協力者の尽力のもとに完成しました。

しん

「報酬はカレー」というペンキ塗り大会に参加していただいた皆様、ありがとうございました!
海賊のような大工チームも猛暑の中倒れずに作業してくれてありがとう!!

そして、内装デザイナー兼大工のスーパーBOY、ちゅーた君、スパイスを壁に塗るっていう、まさかの案件に協力してくれてありがとう!!!!
たくさんの人の善意でカレー部屋はできております。


次回は、解体作業中のスーパーBOYの一言でわたしの人生がさらに楽になった話です。お楽しみに。

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