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元自衛隊のコンサルタント!海上自衛隊でヘリコプターのパイロットを目指した女性が、規律ある集団生活で培った課題解決力とコミュニケーション能力でコンサルタントに転身するまで

インタビュイーPROFILE

氏名:堀永翔子
肩書:チーフ
職種:コンサルタント
経歴:防衛大学校を卒業後、海上自衛隊幹部候補生学校に入校。1年間、初級幹部自衛官としての素養教育を受け、退職。
視野を広げたいという思いからコンサルタントを目指し、キューブアンドカンパニーに入社。
入社後は戦略部署にて市場調査や企業価値分析等を実施、現在は大手企業のシステム統合プロジェクトにPMOとして参画。

Q1.これまでのキャリアについて教えてください
高校を卒業後、防衛大学校で4年間学びました。通常、防衛大学校卒業後は陸海空いずれかの幹部候補生学校に進みます。私は海上自衛隊の幹部候補生学校を選択し、自衛隊に特化した教育と訓練を行ってきました。

Q2.自衛隊になったきっかけはありますか
私は茨城県出身で、中学3年生の3月11日、東日本大震災を経験しました。私の住む地区でも地震で家の中はぐちゃぐちゃになり、1 週間以上も断水と停電になりました。自衛隊が学校の校庭に給水車を停め給水活動を行っている姿を見て、感謝の気持ちが湧いたのを覚えています。実際にお話ししたりすることはなかったのですが、自衛隊の活動に良い印象を抱いていました。
また、高校時代、防衛大学校の受験料は無料で、高校の担任から「3年生は模試の経験として受験してみては?」という話があり、私は合格判定をいただきました。自衛隊に好印象を抱いていたこともあり入校を決めました。

Q3.なぜ海上自衛隊を選んだのでしょうか
防衛大学校1年生の時、陸海空それぞれの部隊を見学し専攻の希望を提出する機会があります。
その際に、海上自衛隊を見学し、海上自衛隊の船に乗せてもらいました。船からヘリコプターが離陸・着陸するのを見た時にヘリコプターの操縦をしているパイロットのかっこいい姿に感動し、海上自衛隊でヘリコプターのパイロットを目指したいと思い、海上自衛隊の幹部候補生学校を選びました。

【防衛大学校と海上自衛隊幹部候補生学校の違い】
<防衛大学校>
・生活:全寮制、規律ある集団生活、学生間指導
・教育・訓練:大学教育+訓練(座学、実技)
・校友会活動(クラブ活動):原則運動部(弓道部)

防衛大学校とは、自衛隊のリーダーとなる幹部自衛官を養成しています。
一般大学と同様に4年間の教育を行い、学位も授与されます。
防衛大学校卒業後に幹部候補生学校に進むことがほとんどです。

<海上自衛隊幹部候補生学校>
・生活:平日のみ寮生活、規律ある集団行動、指導
・教育・訓練:自衛隊(特に海上自衛隊)に特化した教育・訓練
・別課:中隊単位での体力錬成、総短艇訓練、競技会訓練

幹部候補生とは、防衛大学卒業後、陸・海・空曹長に任命され、陸上・海上・航空自衛隊の幹部候補生学校に入校します。幹部候補生学校では、初級幹部として必要な知識及び技術の修得のための教育を受け、約1年後に3等陸・海・空尉に昇任します。その後、自衛隊の職種・職域に応じた専門教育を受けながら幹部としての道を進みます。

Q4.自衛隊時代は、どのような生活を送っていたのでしょうか
海上自衛隊では、起床のことを総員起床と呼びます。6時(10月1日から3月31日までは6時30分)に起床後、速やかに寝具を片付け、服装を整えてグラウンドに整列します。
総員起床は、起床時間になるとラッパの音が鳴り響きます。
今でもそのラッパの音を聞くと当時の総員起床を思い出します。私はラッパの音で目覚めると心構えができてないので、みんなにも聞こえないように携帯のバイブをアラームにして少し早めに起きていました。5 分前に起床し、顔洗ったりトイレに行ったりして準備をして、ラッパが鳴るのをベッドに入って待っていました。
今でも起床時間は5時30分〜6 時と変わりはありません。規律ある集団行動で生活することで、卒業後も生活リズムが乱れることなく暮らしています。


Q5.前職での思い出深いエピソードはありますか
私が印象に残っているものは、体力テストとカッター競技会です。
体力テストの腕立て伏せは、腕や足を開く角度や地面に顎をつける等細かい規定によりフォームが決まっています。腕立て伏せには楽にできる姿勢がありますが、体力テストでは通用しません。
中隊単位での体力錬成は連帯責任なので、全員ができるようになるまで腕立て伏せをします。私は腕立て伏せが苦手でしたが、周りには体力には自信がある人が多かったので、腕立て伏せが得意な友人に秘訣を聞いて回ったり、就寝後一人でこっそり練習したりしました。19:30~21:45の「巡検・自習」の時間は教務の勉強時間なので、腕立て伏せの練習はできません。隙間時間を見つけては腕立て伏せの練習を行っていました。
最終的に規定のフォームで20回できるようになりました。

また、防衛大学校では5月のゴールデンウィークにカッター競技会を行っています。
カッターとは、12名の漕手が木製のオールで漕いで推力を得る長さ約9mの艦船に積み込まれるボートです。
カッター競技は、2年生が参加する競技です。おう盛な体力、気力の養成及び団結心の強化を目的としています。1中隊(チーム)16名が2kmのコースを漕いで順位を争います。2年生は4月に進級するとすぐにカッターの練習が始まります。競技会が終わるまでは外出禁止で、カッターだけを練習します。3、4年生も2年生に指導し、1年生は応援をします。
チームメンバーのほとんどが男性で、女性は私ともう一人の2名だけでした。私は舵をとったり、16名の漕ぎ手に進路を伝えたり掛け声をかける役割をしていました。コースを U ターンする時はタイミングを合わせることが重要なので難しかったです。私のチームは、体力に自信のあるメンバーがいることや練習時間も多かったことから、優勝候補でした。私も優勝を願って声を出し続けましたが、勝つことはできませんでした。
ゴールした後、30 人で輪になって~のことを思い出し、大号泣しました。20歳の男女が人目をはばからず声を上げて泣いたことが印象的です。

Q6.現職についてきっかけはなんだったのでしょうか
ヘリコプターのパイロットの夢を描き海上自衛官の道を歩んでいましたが、パイロットの適正検査で適正がないことがわかりました。海上自衛隊を選んだのは海上を守るパイロットだったので、船乗りになりたいという気持ちはありませんでした。自衛隊の事務職等も考えましたがやはりパイロット以上にやりたいという気持ちにならなかったので、退職を決めました。
改めてやりたいことを考えた時、自衛隊の世界だけしか知らなかったのでいろんな業界を知りたいという思いが湧いてきました。
転職エージェントの方にその想いを伝えた所、「コンサルはどうですか?」と提案いただき、挑戦することを決めました。

防衛大学校や海上自衛隊幹部候補生学校では、指導・規律ある集団生活を過ごしてきました。基本的に連帯責任の考え方なので、できない人が悪いのではなく、できない人をできるようにみんなでサポートし、規律を守ることの重要性を学びました。
転職エージェントの方からは、そうした環境の中で培った課題解決力、コミュニケーション能力、ヒアリングスキルをコンサル職に活かせるのではと、提案いただきました。

Q7.現職で印象に残っている案件はありますか
金融業界の2社合併の際、システム統合のPMOを担当したことです。
PMOとは「Project Management Office(プロジェクトマネジメントオフィス)」の略語で、企業や組織において個々のプロジェクトマネジメントの支援を横断的に行う部門のことです。プロジェクトの成功確度を高めるための重要機能のひとつと言えます。
私は以前、社員が何十万人といる大企業2社の合併の際、300以上のシステム統合のPMOを担当しました。統合する両方のシステムから、同じようなシステムを洗い出し検討していきます。実際にシステム開発が始まると、2社を横断する開発テストの進捗を管理します。テストケースはどうやって作るのか、テストの進捗はどう測定するか等、担当業務は多岐に渡りました。
事前に確認を繰り返し、周囲と連携を取ってきたので大きな遅延が起こることはなくプロジェクトを成功させることができました。


Q8.現在のキャリアに活かされている前職での経験はありますか

活かされている経験は、集団生活や規律が大きいかと思います。
集団生活、連帯責任 :コミュニケーション力、忍耐力
厳密なタイムスケジュール :時間の使い方(効率化)
規律 :社会人マナー、モラル
指導 :論理力、PDCA力

私が仕事で大切にしていることは、「時間を守ること」と「チームで仕事をしているという自覚を持つこと」です。
規律ある生活を過ごしてきたので、「遅刻をしない」ということは今でも大切にしています。海上自衛隊幹部候補生学校でも時間の重要性を叩き込まれてきているので、ただ時間を守るというよりも、自分が時間を守らないと他の人の時間を奪ってしまう、またその後の効率が悪くなる等時間に関する様々なことが気になるようになりました。

また、仕事は人がいて成り立つものだと考えています。一人で働いていないということは常に意識しています。お互いにリスペクトがないと同じチームとしてやっていけません。これも、海上自衛隊幹部候補生学校時代に、連帯責任の考えやチームで物事に取り組むことを行ってきた経験から大切にしています。

現在、チーフとしてチームメンバーを指導していく中でも一緒に働く仲間へのリスペクトを大切にしています。
最後まで相手の話を聞き、メンバーができるようになるためにどうしたらいいかを一緒に考えて業務に当たっています。相手が納得し、現状を整理でき、お互いの認識が合うまで話す時間をとっています。

■人事担当者のコメント
通常業務ではありえないほどのシステム数があるシステム統合でも、疲弊している様子を表に出さず、仕事をしている姿に感動しました。
プロジェクトが終わり振り返る時も、下を向いて考えこまず、上を向いて愚痴は一切こぼしません。
前職での規律ある生活の中で大変なことたくさん乗り越えてきた彼女だからこその強さだと感じます。