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「人権こそが重要なのだ、愚か者」

こんにちは。烏丸百九です

6月に入ってからというもの、私事や体調不良でめっきり更新が出来ない状態が続いておりました。読者の皆様には申し訳ございませんでした。今月中に動画も含め何とかします!! (と、自分を追い込んでおきます……)

さて、すっかり世間は参院選ムードに入っております。
自民党の大勝が囁かれる中で、ネット上では与党が主張するインボイス制度導入への批判や、憲法改正・特に緊急事態条項の加憲について、幅広い反対の声が聞かれるようになってきました。

まあ、だからといって野党に風が吹く気配は全くないのですが、民主主義社会―今の日本がかろうじてそうだとすればですが―においては、ちょっとしたことを切っ掛けに、世論が大きく変化することが、歴史上往々にしてありました。

当時、冷戦の終結や湾岸戦争における勝利といったような、外交政策で大きな成果をもたらしたブッシュに勝つことは難しいと考えられていた。この言い回しは、正確にはクリントンの選挙参謀を務めたジェームズ・カービル(英語版)が作った言い回しを少々変更したもので、近年景気後退がみられるもかかわらず経済に対して的確に取り組まないブッシュより、クリントンのほうがよい選択肢であるというイメージを作った。
クリントン陣営はブッシュを落選させるため、選挙運動で景気後退を利用した。1991年3月、多国籍軍によるイラクへの地上侵攻の数日後、世論調査ではアメリカ人の90%がブッシュ政権を支持した[1]。しかし翌年、アメリカ国内の世論は急激に変わった。1992年8月の調査では、アメリカ人の64%がブッシュ政権を支持しないと答えたのである[1]。

”Wikipedia - It's the economy, stupid”より

インボイスの問題は、まさに国民の「経済」に直接関係する話なだけに、仮にこのまま選挙が自民党勝利に終わったとしても、制度導入を前に急な支持率低下・草の根のバッシングなどのプレッシャーに晒される可能性はあり、それを無視することは政権与党とて難しいでしょう。

日本人は特に誤解している人が多いのですが、民主主義社会では政治参加は常に可能なので、普段のデモや抗議活動も立派な政治運動であり、「選挙で負けたんだから文句を言うな」と述べるような人は、漏れなく民主主義を理解していないと思います。

一方、緊急事態条項について言えば、国家が国民の「人権」を容易に制限しかねない故に、党派を超えた関心事項になっているのですが、どうもネットには人権について独特な理解をしている人が多いようで、正常な議論が成立するためのハードルが高いです。

↑の私のツイートに対して、頂いたお返事がこちら。

そもそも「ジェンダークレーム」なる言い方が妥当なのか? については以前に記事を書きましたので、そちらをご参照ください。

さて、この手の「生命権」のレトリックは、トランスジェンダー差別主義者のTERF等もよく使う言い回しです。トランスジェンダー当事者の性自認による差別を解消すると、「男性でも女性トイレ等に容易に侵入出来るようになり」「女性の生命権が脅かされる」、等のロジックが代表的です。

そして「生命権」なる言い方は通常しないのですが、所謂基本的人権の中に自身の生命を守る権利が含まれるというのは常識的な理解であり、例えば世界人権宣言にも次のような一文があります。

第三条
 すべて人は、生命、自由及び身体の安全に対する権利を有する。

世界人権宣言(仮訳文)より

基本的人権は元々、生まれてきたすべての人に平等に与えられる、所謂「自然権」であるので、憲法にも優越して存在するというのは、ジョン・ロック等初期の理論家の代表的な理解でしたが、時代が進むにつれて、実態的に国民の「自然権」を保証するために近代国家や憲法が次々と成立したことから、人権の普遍的概念はアプリオリには存在せず、国家や国連のような国際法を遵守する機関によって保障されている、という理解が通俗的になりました。

さて、ここでもう一度お返事のツイートを読み直してみましょう。

世界人権宣言に倣った近代憲法を持つ国家にとり、国民の生命は「保障」するべきものであって「維持」するものではありません。

ドメスティックバイオレンスを例に考えてみましょう。典型的には、妻に暴力を振るう夫は、ときに妻の生命を脅かし、精神的・肉体的に追い詰め、最悪の場合、その死を招来する事もありうるでしょう。
しかし、どこにDV加害者が潜んでいるか分からないからと言って、あらゆる家庭に警察の監視カメラを仕掛けるのは、明らかに国民の自由権(=基本的人権の一部)を侵害しており、また対処法として現実的でもありません。
当然ながら、国民の生命を守るのは国家の役目ですから、妻からの通報等でDVが発覚した場合は、警察等の国家機構は速やかに状況を把握し、適切な保護を与える必要があります。

で、問題は「ジェンダークレーム」や「女子トイレへの”侵入”」が、直ちに国民の生命を脅かすような事態を招来するのか? ということです。

ごく一般的な社会通念としては、そんなわけはないでしょう。何かしらの芸術作品に苦情が入ったからと言って、直ちにその作品を取り下げたり、作家が自殺しなくてはならないわけではありません。

同様に、仮に目的不明の男性が女子トイレに侵入したからと言って、直ちに逮捕すべきだとは言えません。単なる間違いや、男子トイレが使えずやむを得ない事態である、等諸般の事情が考えられるからです。それが他の利用者に「恐怖」を与えるかどうかさえ、時と人と場合による、としか言いようがありません。即刻逮捕すべきなのは、(性別を問わず)盗撮カメラや凶器を持ち込むなど、明白に犯罪目的で侵入した人物だけです。(当たり前ですが、どんな場合でも通報する自由は保障されています)

これらの「加害行為」を防ぐために、可及的速やかな警察の介入を説くことは、明らかに国民の自由権(「表現の自由」も含まれます)を侵害しており、国民の人権を擁護する民主主義国家として到底是認出来る論理ではありません。それは全体主義の発想です。

この手の「人権」というものをあまりに自己の主張に都合良く、拡大解釈したレトリックは、思想の左右問わずネットで常態的に用いられており、残念ながら止める術はありません。

で、先日、とある方からこちらのツイートを教えて頂きました。

キャンセルカルチャー」という言い方の問題については、以前の拙記事をご参照のこと。

戸定梨香さんおぎの稔議員の関係についてよく知らない方は、以下の記事がよく纏まっていると思います。

過去、上の記事で紹介されているおぎの議員による署名に、私は賛同しました。反フェミニストに転向したからではありません(当たり前ですが)。

戸定さんは今年7月、松戸警察や松戸東警察と協力した啓発運動の一環として、交通安全PRの動画に出演。騒動のきっかけとなったのは、この動画に寄せられたフェミ議連による抗議でした。抗議内容は、「女児を性的な対象として描いており、女性の定型化された役割に基づく偏見及び慣習を助長」しているというもの。戸定さんの服装に露出が多いとして、「女児を性的な対象として描くキャラクターを採用することは、性犯罪誘発の懸念すら感じさせるもの」といった主張を繰り広げていました。

「性的なもの」レッテルをめぐり議論…ご当地VTuber・戸定梨香の応援運動が盛り上がる背景”より

おそらく、抗議したフェミニスト議員連盟は、戸定梨香さんを単に「アニメキャラ」(当然人権はない)だと思い込んでいたのだと推測しますが、「性的な表現」だけに留めておけば良いものを、実在するタレントに向かって「性犯罪誘発」と言うのは、レトリックにしても言い過ぎであり、あまりに予防拘禁的な論理であるため、バーチャル・タレントにも「人権」があるという立場から、そのような意見には反対する必要があるだろうと考えたものです。

表現の自由」を掲げて活動するおぎの議員も、(たとえタテマエであろうと)タレントの人権を重視する考えを強く打ち出していくものとばかり考えていたのですが、「キャンセルカルチャー」への反対手段としてこの一件を利用することは、当人の為にならないどころか、「人権擁護活動に反対していく」姿勢を打ち出したものと解釈されかねないのではないでしょうか。

自由・生命・財産は、いずれも基本的人権の重要な一部であり、どれが上か下か、と見なせるような性質のものではありません。誰かが自分の「自由」を駆使してクレームを入れ、誰かの「財産」や「生命」を脅かしかねない事態が起きたとしても、それが非暴力的な言論によるものである限りは、言論や運動で対抗するのがセオリーであり、「プロパガンダ」や「警察」を用いるのは、あまりに暴力的な手口ではないかと思います。

人権は生きとし生ける遍く人々に存在するのであり、相手の属性や主張や自由さが気に入らないからと言って、安易に制限してよいものではありません。

それが許される「緊急事態」とは、例えば敵対的国家からの侵略など、極めて限定的な状況で用いられるべき用語であり、アメリカから事実上の「安全保障」を受けている国の国民が、反民主主義的暴力に走る理由は何一つない、と私は思います。

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