sakai_creativejourney

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最近の記事

東南アジアはあなたである-「ホー・ツィー・ニエン」展を鑑賞して-

東京都現代美術館で開催されていた「ホー・ツィー・ニエン エージェントのA」展を会期終了間近に鑑賞した。 ホー・ツィー・ニエンはシンガポール生まれ。その作風は、幅広い歴史的資料をもとに映像や映像インスタレーション、パフォーマンスで表現する。第54回ヴェネチア・ビエンナーレのシンガポール館の代表も務めた同国有数のアーティストと言っても良いだろう。 私が本展を鑑賞した動機は、自身がかつて7年間シンガポールに駐在し東南アジア各国で仕事をしていたことだ。その体験を通じて本展の作品群

    • ありふれた日常を「初めて体験する」意識を研ぎ澄ますー「デ・キリコ展」を鑑賞して

      東京都美術館で開催中の「デ・キリコ展」を鑑賞した。 恥ずかしいことに、この画家のことを「シュルレアリズムの系統に属する作家」かのように理解していたのだが、それは大きな間違いだった。 デ・キリコは1888年にイタリア人の両親のもとでギリシャに生まれ、その後画家を志し「形而上絵画」と名付けた作風で歴史に名を残すことになる。 本展は、その道筋をたどる形で「自画像・肖像画」「形而上絵画」「1920年代の展開」「伝統的な絵画への回帰」「新形而上絵画」の5つの章で構成されている。

      • そして心は神秘へ回帰する-「北欧の神秘」展を観て-

        家から徒歩圏内にあるからと油断している間に、会期終了間近になってしまったSOMPO美術館「北欧の神秘」展に駆け付けた。 なぜ、北欧に魅かれるのか?いわゆる「欧米」とは異なる独自の魅力を何とはなしに感じるからかもしれない。よくわからないからこそ魅かれる。一言でいえば、展覧会のタイトルにもなっている「神秘性」ということだろうか。 本展は、ノルウェー、スウェーデン、フィンランドの国立博物館からの所蔵品によって、この3か国プラスデンマーク、アイスランドといった北欧の、19世紀から

        • 再び「心」に戻ることの意味について-「法然と極楽浄土」展を鑑賞して-

          東京国立博物館で開催中の「法然と極楽浄土」展を鑑賞した。 今年、法然が開宗した浄土宗が850年を迎えたのを記念した展覧会で、その変遷を辿ることができる。 展示としては、法然その人に光を当て浄土宗のはじまりを扱う「第1章:法然とその時代」、法然が説いた阿弥陀の世界をビジュアル化した絵画などの美術を紹介する「第2章:阿弥陀の世界」、法然の教えを引き継いだ弟子たちの系統を紹介する「第3章:法然の弟子たちと法脈」そして浄土宗を普及させた徳川による帰依活動を扱う「第4章:江戸時代の浄

        東南アジアはあなたである-「ホー・ツィー・ニエン」展を鑑賞して-

          「本を出したい!」という病について

          私は不治の病にかかっている。「本を出したい!」という病だ。 いつから罹患(りかん)したのだろう。 おそらく50代半ば、今後のキャリアの迷子になった時のような気がする。 「出版」という形で自分の存在価値を問いたい、と思った。 そこで私なりの問題意識をまとめ、知己を得たあるビジネス系大手出版社の編集者の方にお渡しし、会議にかけてくださった。 それは、勤めていた会社があるスキャンダルで世の中を騒がせている時だった。結果は「暴露本なら」というものだった。これがトラウマになった。

          「本を出したい!」という病について

          フォトエッセイ240602 @新宿御苑

          去る5月19日に新宿御苑で個人的撮影会。 今回のテーマは、私が苦手とする草花を撮る練習。対象への距離をとる訓練も兼ねてバシバシ撮ってみる。腕はヘボでもカメラが良いせいで、花と背景のボケがそれなり対照を生み出す。 暑すぎず寒すぎない穏やかな日和のせいか、多くの人で賑わっていた。草花を撮るつもりが、つい幸せそうになごむ人たちを撮ってしまった。なんだかこちらまで幸せな気分になるなあ。 草花の隙間からのぞき見するようなショットも、個人的にはお気に入り(悪趣味?)。 最後に訪れ

          フォトエッセイ240602 @新宿御苑

          恨みを乗り越え、みんなで酒を飲めば、この世界の分断もなくなる

          森美術館で開催中の「シアスター・ゲイツ展 アフロ民藝」を鑑賞した。 シアスター・ゲイツは米国シカゴを拠点に活動するアーティスト。国際的な芸術祭「ドクメンタ13」(2012年)で世界的な脚光を浴びた。彼と日本との深い関係性は2004年に愛知県常滑市で陶芸文化に出逢ったことから始まり、本展覧会のタイトルにもなっている「アフロ民藝」というコンセプトにつながる。会場入り口には、このようなゲイツの言葉が紹介されている。 民藝と「ブラック・イズ・ビューテイフル」運動はともに、植民地主

          恨みを乗り越え、みんなで酒を飲めば、この世界の分断もなくなる

          フォトエッセイはじめます

          数十年ぶりにカメラを購入した。理由のひとつは、ふと写真というものを勉強したくなったからだが、私はとかく書物で学ぼうとする性質(たち)がある。しかし、カラダで写真というものを知ろうと思った。 幸い妻が少しだけ写真についての知識があり(カメラも2台持っている)一緒にビックカメラに出かけて様々な機種を見比べてみた。比較検討することで、自分の「好み」を認識することができる。 私のカメラ選択のポイントは「初心者向け」「小サイズ・軽量であること(持ち運びしやすい)」「デザイン」だとい

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          すべての現代アートは『ソーシャリー』なのかもしれない

          横浜で開催中の第8回横浜トリエンナーレを鑑賞。日本における都市型芸術祭の先駆的な存在であり主会場となって来た横浜美術館の3年ぶりのリニューアルオープン記念でもある。それにふさわしい気合とプライドを感じる内容となっていた。 テーマは「野草:いま、ここで生きてる」。これは、中国の小説家 魯迅が1924年から1926年にかけて執筆した詩集に由来している。辛亥革命後の激動期にあって社会が根本的には変わらなかった絶望を感じながら、そこから脱しようとする想いに突き動かされて書かれた、と

          すべての現代アートは『ソーシャリー』なのかもしれない

          企業ブランディング再考①

          「企業ブランディング」について、改めて考えさせられています。 きっかけは昨年来、某IT企業のCI(Corporate Identity)プロジェクトに関わらせていただいたことでした。CIとは「企業文化を構築し特性や独自性を統一されたイメージやデザインあるいはわかりやすいメッセージで発信し社会と共有することで存在価値を高めていく企業戦略の一つ」と定義されます(Wikipediaより)。 私は前職の広告代理店在籍時に、ある自動車会社の販売チャネルのCIに携わった経験があります

          企業ブランディング再考①

          円空は「元祖プレイフル人」?-「円空-旅して、彫って、祈って」展

          大阪あべのハルカス美術館で開催中の「円空-旅して、彫って、祈って」を鑑賞した。 円空は江戸時代はじめ美濃国(現在の岐阜県)に生まれ、修行僧として旅をしながら、その生涯で10万体!もの神仏を彫ったと伝えられている。その数もさることながら「円空仏」と呼ばれる独特の作風で日本人に愛されている。展覧会は、その円空の生涯をたどる5つの章で構成されている。 円空は修行の後、寛文11年(1671)40歳の時に奈良の法隆寺において法相宗(中国大乗仏教に連なる流派)に連なる僧としての称号を

          円空は「元祖プレイフル人」?-「円空-旅して、彫って、祈って」展

          君は、見たいようにしか世界を見ていない-「中平卓馬 火-氾濫」を鑑賞して

          竹橋での打ち合わせが思いのほか早く終わり、時間の余裕ができたので国立近代美術館に足を運び、開催中の「中平卓馬 火-氾濫」を鑑賞した。 中平は「日本の戦後写真における転換期となった1960 年代末から70 年代半ばにかけて、実作と理論の両面において大きな足跡を記した写真家」(展覧会ステートメントより)。 失礼ながら、私はこの人の存在を知らなかった。知らないからこそ、新鮮な目でその作品群に接することが出来たのも、ある意味で幸運だったかもしれない。 中平は、雑誌の編集部に勤務す

          君は、見たいようにしか世界を見ていない-「中平卓馬 火-氾濫」を鑑賞して

          “実験”の先に“必然”は生まれる-「マティス 自由なフォルム」を鑑賞して

          国立新美術館で開催中の「マティス 自由なフォルム」展を鑑賞した。昨年も東京都美術館でマティスの軌跡をたどる展覧会が開催されたが、今回はニース市(フランス)のマティス美術館の所蔵作品を中心に、晩年に到達した切り紙絵に焦点を当てた内容となっている。 私は、本展覧会の開催を心から楽しみにしていた。なぜ、「切り紙絵」という意外な手法に至ったのかの秘密を知りたかったからだ。 結論から言えば、切り紙絵はマティスがたどり着くべき場所であり、生涯が凝縮された形だった。 マティスの作家と

          “実験”の先に“必然”は生まれる-「マティス 自由なフォルム」を鑑賞して

          もはや美術館というよりテーマパーク。「熱海MOA」を知っていますか?

          先日、湯河原の梅林鑑賞のついでに立ち寄ったMOA(エムオーエー)美術館。正直なところ、さして期待もしていなかったのだが(色々な意味で)驚いた。 https://www.moaart.or.jp/ 実は、駐車場の空きの関係から本来の経路を逆にたどる形で鑑賞した。しかし、ここでは正規?の道筋に沿って鑑賞体験を綴ってみたい。 入館すると、いきなり長―いエスカレーター(全長200メートル)が出迎え、荘厳とも怪しいとも言える雰囲気の中を上昇していく。「天国への階段」ならぬ天国への

          もはや美術館というよりテーマパーク。「熱海MOA」を知っていますか?

          「人新世」の時代。アーティストは動いている。私たちは、どうだ?

          森美術館で開催中の「私たちのエコロジー 地球という惑星を生きるために」を鑑賞した。 開催趣旨(ステートメント)にはこう述べられている。 産業革命以降、特に20世紀後半に人類が地球に与えた影響は、それ以前の数万年単位の地質学的変化に匹敵すると言われています。この地球規模の環境危機は、諸工業先進国それぞれに特有かつ無数の事象や状況に端を発しているのではないか。本展はその問いから構想されました 「アートとは『問い』である」と言われる。本展覧会は4つの章で構成されているが、それ

          「人新世」の時代。アーティストは動いている。私たちは、どうだ?

          私たちの中に「音楽」は在る-「坂本龍一トリビュート展」を鑑賞して-

          「坂本龍一トリビュート展」を鑑賞した。会場となったNTTインターコミュニケーションセンター(ICC)はメディア、テクノロジーとアートの融合を牽引して来たパイオニア的な存在。90年代のインターネット黎明期より作品へのメディア・テクノロジーの導入やメディア・アーティストとのコラボレーションを積極的に行って来た坂本の活動を回顧するにふさわしい場と言える。 本展覧会では、メディア・アートのトップランナーであるライゾマティクスのリーダー真鍋大度を共同キュレーターとして迎えて企画・構成

          私たちの中に「音楽」は在る-「坂本龍一トリビュート展」を鑑賞して-