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もはや美術館というよりテーマパーク。「熱海MOA」を知っていますか?

先日、湯河原の梅林鑑賞のついでに立ち寄ったMOA(エムオーエー)美術館。正直なところ、さして期待もしていなかったのだが(色々な意味で)驚いた。

https://www.moaart.or.jp/

実は、駐車場の空きの関係から本来の経路を逆にたどる形で鑑賞した。しかし、ここでは正規?の道筋に沿って鑑賞体験を綴ってみたい。

入館すると、いきなり長―いエスカレーター(全長200メートル)が出迎え、荘厳とも怪しいとも言える雰囲気の中を上昇していく。「天国への階段」ならぬ天国へのエレベーター。

エスカレーターを上りきると、オーロラのような光の模様が動くホールに到着する。これは万華鏡作家 依田満・百合子夫妻による世界最大級の「動く万華鏡」。

ホールを抜けると、左手には熱海の海岸がパノラマのように広がり、右手にようやく?美術館の建物が姿を現す。

美術館自体は2層からなる。

まず驚かされるのは、メインロビー手前に能楽堂があることだ。定期的に人間国宝級の名人による能楽の会も催されているらしい。

メインロビーに入ると全面のガラス越しに熱海の海景が眼前に広がる。「海景」は2016年から2017年にかけて本美術館のリノベーションを手掛けた現代美術の巨匠 杉本博司の代表作(世界中の海原を撮影した)のタイトル。目の前の風景は、正にその作品世界そのもの。別室には「海景・熱海バージョン」の展示室も設けられている。ちなみに、ロビーに置かれている椅子も杉本がデザインしている。

≪海景 熱海≫

本美術館では、その基本構想の第一条で「日本文化の情報発信をする美術館をめざします」と謳っている通り、平安時代からの日本美術の変遷をコンパクトにたどることができる。展示されている作品の分野も、絵画、彫刻、書跡・古文書、陶磁器、漆工芸、染織と多彩だ。

中でも最大の目玉は、国宝ともなっている≪紅白梅図屏風≫(尾形光琳作)だろう。梅の名所でもある熱海の美術館にあるからこその説得力がある。

≪紅白梅図屏風≫

実際に僧侶が使う道具の収集にも力を入れている。

≪錫杖頭(鎌倉時代)≫

あるいは、豊臣秀吉の「黄金の茶室」や尾形光琳の屋敷といった歴史的に価値のある建造物を当時の図面に基づき再現しているのも特徴だ。

≪黄金の茶室≫

美術館の1階には、その光琳屋敷を始めとする各地の歴史的建造物を移設した庭園があり、梅も鑑賞できる小さな町並みがある。

さて、この異彩を放つ美術館は誰がつくったのか。実業家にして自然農法を創始し、世界救世教という新興宗教の教祖であり、箱根美術館も創設した岡田茂吉(1882年-1955年)。その経歴を見ただけでも異能の人だ(美術館には同氏を紹介する部屋もある)。MOAは表立っては「Museum of Art」だが、「Mokichi Okada Association(岡田茂吉美術文化財団) 」の意味でもある。

入館していきなり長大なエスカレーターで頂上に誘われ、絶景と共に由緒ある美術館に遭遇する一連のプロセスは、正に「宗教的体験」であり、それも創設者の意図を具現化したものだということが納得できた。とはいえ、それは決して怪しいものではなく、まるでテーマパークのような刺激に満ちたものだった。

美術館には、平日だというのに多数の客が詰め掛け、中でも若いカップルが目立つことに驚いた。箱根と並び都市部から最もアクセスしやすい温泉街であり、熱海駅からバスで10分程度で行くことができる。一方熱海には、温泉以外にこれ!という観光資源がない。美術館に入れば「映え」スポットが満載だ(パンフレットには「フォトスポット」も表示されている)。

この美術館は、1982年(昭和57年)に開館した。当初は評判を呼んだものの時代と共に老朽化し、かつての熱海同様、地盤沈下していったのではないだろうか。それを一念発起して、杉本博司率いる新素材研究所の力を借りて再生した。同時にInstagramなどのSNSを活用した広報戦略によって、若い世代にも評判が広まっていく。そして、熱海のV字回復との相乗作用で現在の盛況に至る。という私が勝手に思い描いたストーリーも、あながち間違っていないのではないだろうか。

「ホワイトキューブ」と呼ばれる建物の中に閉じるのではなく、あざとさと表裏一体のエンタメ性によって、普段アートとは縁の遠い層にもアートに触れるきっかけが生まれ、それによってアート界のすそ野が広がる。それはそれで良いことだということを改めて感じたMOA体験だった。

#MOAミュージアム #杉本博司 #熱海



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