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童話「盲聾の星」第十話

童話「盲聾の星」第十話

第一話→童話『盲聾の星』第一話|ひとり 杏 (note.com)

6.
それからしばらく経った春の夜、あの彗星がラムダたちのもとへ帰って参りました。

「おおい、待たせたね」

何やら、大きなボールを抱えています。失意のあまり、長いこと弱々しくしか光れなかった星たちは、突然まぶしい光が現れてたいそう驚きました。

「そら、ご覧」

彗星が空にボールを放りました。さて一体、ボールのように見えたもの

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童話「盲聾の星」第七話

童話「盲聾の星」第七話

第一話→童話『盲聾の星』第一話|ひとり 杏 (note.com)

4.
ただ、ひとつだけ、ラムダが予想していなかったことがあります。あまりにも星が増えてしまったものですから、遥か地上のお姫様は、どれがラムダなのかたまに見分けがつかなくなってしまうのです。またラムダの方も、仲間を増やすためにとやたらめったら動き回ったものですから、とうのむかしに眼が潰れてしまっておりました。ですから、目の見えないラ

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童話「盲聾の星」第八話

童話「盲聾の星」第八話

第一話→童話『盲聾の星』第一話|ひとり 杏 (note.com)

5.
さて、冬も終わろうかというころ、セリーヌ王女の病状がひどく辛いことが続きました。がらんと静まりかえった田舎にかすれた咳の音だけが響くようになって、もう幾日が経ったでしょう。お姫様はもうバルコニーには出て来られず、ベッドの上で侍女に身を起こしてもらうのがやっとでした。

ラムダもみんなも耳をすまして、はらはらしておりました。そ

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童話「盲聾の星」第九話

童話「盲聾の星」第九話

第一話→童話『盲聾の星』第一話|ひとり 杏 (note.com)

彗星は、どこへ行ったのでしょう。
ラムダの両親がいる北へ向かったのです。そして、2つの大きな星と美しい星に逢いました。

「お宅の坊ちゃんは立派にやっているよ。ただ、あのお嬢ちゃんの命はそろそろだろうな。どうしたものか」

父さんと母さんは息子の無事を喜びましたが、お姫様のためにあるものを届けてやってほしいと彗星に頼みました。

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童話「盲聾の星」第六話

童話「盲聾の星」第六話

第一話→童話『盲聾の星』第一話|ひとり 杏 (note.com)

さて、季節が一巡りしたころ、増えた星々のはじめの一粒は、とうとうちびになってしまいました。いつしか、相手をなるべく傷つけないで済むように、自分の躰をすり減らす癖がついておりました。そうして星を増やして空を彩っていったのは、半分はお姫様の見上げる夜空を華やかにするため、もう半分は自分の償いのためです。

今や南の夜空は、額縁のない、

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童話「盲聾の星」第五話

童話「盲聾の星」第五話

さて、ラムダは他星との衝突を繰り返すうちに、どのようにして星が増えるのかをやっと知りました。そうです、星と星が衝突して躰が欠けた分だけ、新たな星が生まれるのでした。両親が仲間づくりの方法を言えなかった理由が、少しわかったような気がしました。

ラムダがはじめて周りを見渡しますと、どうでしょう、夜空に星は増えたけれど、そのどれもが傷ついた姿をしております。ある者は生まれながらにして腕がもげており、ま

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童話「盲聾の星」第四話

童話「盲聾の星」第四話

3.
さて、ラムダはときたま、脳天を殴りつけるような孤独に襲われるのでした。すると身を投げ出して、むやみやたらに動き回り、あちこちの星たちぶつかりました。それが星の増殖方法だとは、まだこれっぽちも知らずにおりました。ええ、彼には大切な守るべきお姫様がおります。けれど、わたしたちのうちの誰が、大切な人が遠くに一人いるとしても、自分は離れた空にたったひとりでは、気が触れずにいられるでしょうか。

しか

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童話「盲聾の星」第三話

童話「盲聾の星」第三話

2.
たくさんたくさん考えたラムダは、7日目の朝、父さんと母さんに申しました。

「北の大陸には父さんたちがいらっしゃるし、街灯だってあると聞きます。明かりはもう十分。ぼくまで行く必要はないでしょう」

それは、半分だけ本当のことでした。たしかにラムダの言うとおり、今や都は夜も賑やかで、星が3つもいらないくらい、あちらこちらの建物の明かりが消えないのでした。もう半分の理由は、ラムダが言うまでもなく

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童話『盲聾の星』第一話

童話『盲聾の星』第一話

――「ぼくはおっかさんがほんとうに幸になるなら、どんなことでもする。けれども、いったいどんなことが、おっかさんのいちばんの幸なんだろう。」

宮沢賢治『銀河鉄道の夜』より――

1.

 信じられますか。その時代は、まだ世界に月はなく、いくつかの星だけが夜空を照らしていたのです。大きな父さん星と美しい母さん星がいて、息子の星は、名をラムダ[i]といいました。

 地上の南の小島には、病に臥せってい

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