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CQを使って世界を見る~長期志向と自然との調和

最近あるアメリカ人の建築家とお話する機会がありました。
会話の中で、彼がある建築物について

「アメリカ人の自分には絶対に思いつかない発想だ!」

と絶賛するのを聞き、興味深く感じました。

それは、アメリカのコネチカット州にあるGrace Farms(同名の財団の保有する文化設備)内にある、River Buildingという建物。https://gracefarms.org/river-building/?fbclid=IwAR2DJtcfKv7roqZbggTtS-y-dQeUEay9Wmwf54PosclOjlnLynzwAA80Gx8

「建築業界のノーベル賞」とも称されるプリツカ―賞も受賞した、日本人建築家、妹島和世氏の作品です。

複数のガラス張りの建物が、起伏のある敷地に沿って、まるで流れる川のように木造屋根で繋がっており、見事に周りの自然と調和。
日本人の私たちから見ると、浮世絵の中の水流のパターンを思わせる、
どこか懐かしい古典的な模様です。

彼曰く、「西洋の発想だと、まず建物と言うと四角い建物を発想する。
このような形は自分たちには絶対に考えられない」とのこと。

西洋の分析的思考と東洋の統合的思考

オランダの社会心理学者、ヘールト・ホフステードは世界各国で45年間にのぼる統計調査を行い、国民文化の6次元モデルを生み出しました。
その中の5つ目の文化次元が「長期志向と短期志向」です。

グラフをみて顕著なように、西洋(特に英語圏の国であるアメリカ、カナダ、オーストラリア)の国が短期志向(グラフの左側)であるのに対して、東アジア(日本、中国、韓国)の国は長期志向(グラフの右側)に大きく分かれているのがわかります。

ホフステードCWQダッシュボード(時間志向と個人主義の組合せグラフ)

ホフステードはこの2つの志向では思考様式に次のような違いがあると述べています。

短期志向:分析的な思考様式で、要素に焦点を当てる(西洋)
長期思考:統合的な思考様式で、全体に焦点を当てる(東洋)

多文化世界【原書第3版】G.ホフステード他

またアメリカの社会心理学者であるリチャート・E・ニスベットは東洋と西洋では「目に映る世界のかたち」が根本的に異なるとし、次のように述べています。

西洋人は世界を分析的な視点で見ており、人や物を環境から切り離された各々独立のものとして捉えている。

東洋(東アジア)人は世界を包括的な視点でとらえ、世界を構成する種々の要素は互いに関連しあっていると考えている。

木を見る西洋人 森をみる東洋人ー思考の違いはいかにして生まれるか 
リチャート・E・ニスベット

包括的な視点から建物も自然の一部と捉える東洋人。
一方で、分析的な視点から建物を周囲の環境から切り離して考える西洋人。

周囲の風景(自然)に調和するRiver Buildingは、西洋人にとっては斬新に感じられ、東洋人の私にはどこか懐かしく、DNAの中に刻まれているとすら感じられます。

CQ的にも面白い!と感じた瞬間でした。

(文 CQラボ理事 田代礼子)

一般社団法人CQラボ https://cqlab.com/


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