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2022年のお気に入りブーンバップを集めたプレイリストを作りました

2022年はアルバム単位ではブーンバップ色の強い作品よりも、ほかのスタイルの作品に惹かれました。しかし、好きな曲がなかったわけではありません。そこで、2022年のお気に入りブーンバップを集めたプレイリストを作りました。

全40曲です。大雑把に言うとシリアスなブーンバップマッドなセンスのブーンバップ2000年代っぽいブーンバップブーンバップ色が強いソウルという流れで組んでいます(完全に沿っているわけではありません)。また、ところどころにジャジーヒップホップにも通じるようなメロウなブーンバップも収録しています。

近年のブーンバップにおける重要トピックとして、ドラムレスあるいはドラムが控えめなビートの使用があります。これは恐らくMF DOOMが早い段階で取り組み、その後Roc Marcianoなどが一部で話題を集め、Griseldaに継承されたような形だと思います。

また、ドラムレス系ブーンバップをGファンク方面から取り組むJay WorthyLNDN DRGSの影響なのか、2022年はウェッサイ文脈の作品でもドラムレスブーンバップっぽい曲が収録されていることがありました。ブーンバップというと1990年代の東海岸というイメージが強い方も多いと思いますが、西海岸でも古くからGood Life Cafe周辺やMC Eihtなどがブーンバップに積極的に挑んでいました。Jay Worthyなどの試みは、それらを継承するような動きとして見ることができるでしょう。また、個人的にはアトランタやフロリダなどの南部でのブーンバップ導入例に注目しています。今回のプレイリストにもいくつか収録しました。


シリアスなブーンバップ

一口にブーンバップと言ってもそのスタイルは様々です。例えば同じ1990年代のブーンバップでも、A Tribe Called QuestのそれとWu-Tang Clanのそれは異なります。しばしば「流行とは無縁」「1990年代直系」のような言い方をされることの多いブーンバップですが、その中にもやはり流行はあり、「1990年代」の中身も時代によって違うように思います。

2022年のブーンバップでは、1990年代で例えるとMobb Deepあたりに近いシリアスな空気を備えたスタイルが印象的でした。このスタイルが根を張ったのは恐らくProdigyが精力的にソロ活動を行い、The Alchemistと組んだ2007年作「The Return of the Mac」などの名作を多く残していたことにあると思います。

また、Mobb Deepのキャリアを振り返ると2000年代半ば頃にG-Unitと契約したことも見逃せません。G-Unit勢はMobb Deep的なシリアス路線の曲を多く残しており、このNY(クイーンズ)コネクションが一時期シーンのトップに立っていたことは、かなり現行シーンに影響を与えているのではないかと思います。Prodigyのフックアップを受けたFlee Lordや、再び好調なLloyd Banksの活躍はその流れを受けてのことではないでしょうか。また、Pusha TもMobb Deepからの影響を語っており、シリアスなブーンバップ系のビートも好んで使ってきました。Griselda人気も相変わらず高いので、このシリアスなスタイルには2023年も要注目です。


マッドなセンスのブーンバップ

Griseldaと並んで近年人気なのが、Earl Sweatshirtに代表されるマッドなセンスのブーンバップです。ここでも重要なのがThe Alchemistで、Earl SweatshirtやArmand Hammerなどシーンの重要アーティストと多く制作しています。

Earl Sweatshirtは影響を受けたアーティストとしてJ DillaMadlib、MF DOOMなどStones Throw関連アーティストの名前を挙げています。The Alchemistも元々は西海岸のCypress Hill周辺から登場したアーティストで、西海岸の培ってきたものの大きさが感じられます。

また、西海岸以外ではNY発のストリートウェア会社兼レーベルのMishka NYCも重要な存在です。Main AttrakionzLil Bといったクラウドラップをリリースする傍ら、Mr. Muthafuckin' eXquireのようなブーンバップを軸にしつつも尖ったスタイルのアーティストも送り出していました。Kool A.D.もここからのリリース経験があるので、Kassa Overallも人脈的に近いです。

現在はレーベルとしては動いていないようですが、ここから登場したアーティストのマッドなセンスは現在も強力です。Fake Four Inc.発の作品へのSquadda Bの参加も印象的でした。


2000年代っぽいブーンバップ

2000年代にJay-ZLittle Brotherなどが取り組んでいたような、ストリングスや歌声をループしたソウルフルな曲も色々なところで聴いたように思います。プロデューサーで言うと9th WonderJust BlazeBink!などの作風です。この2000年代風味のビートは、近年のブーンバップ界でのトレンドの一つとして挙げられると思います。

Jay-Zとも近しいRick Rossもブーンバップ系のビートを好んで使ってきましたが、そのノリに近い曲も多く生まれています。Rick Rossの客演や周辺プロデューサーの仕事も多いので、Rick Ross経由のJay-Z的なノリのリバイバルのような側面があるのかもしれません。

なお、サウンド的にはそこまでJay-Zっぽくはありませんでしたが、Earl Sweatshirtのアルバム「SICK!」のミックスを手掛けたのもRoc-A-Fellaお抱えエンジニアだったYoung Guruでした。これもブーンバップにおけるJay-Zの存在感が増してきている一つの例と言えると思います。


ブーンバップ色が強いソウル

ネオソウルは元々ブーンバップと近しいスタイルですが、近年はより一歩ブーンバップに近づいたような曲も多いように思います。Jared EvanStatik Selektahと組んで2013年にリリースした「Boom Bap & Blues」というアルバムがありましたが、これがサブジャンル名として定着する日もあるのかもしれません。

この文脈で2022年に一番印象的だったのはLady Wrayのアルバムです。かつてはNicole Wray名義でThe Diplomats周辺やN.O.R.E.などの作品でも活躍していたアーティストなので、2000年代ブーンバップ文脈にも少し関係があります。そんなLady Wrayがヴィンテージソウルの名門、Big Crownからオーガニックかつブーンバップを踏まえたアルバムを出したのは大きな出来事でした。明らかにネオソウルの柔らかさとは異なる力強さには、衝撃を受けた方も多いのではないでしょうか。今後のBig Crownの動きもさらに気にしていきたいと思います。

そのほか、Jimetta Roseがベテランならではの渋みを見せつけたアルバムや、サンプルパックも使ったというMoonchildのアルバムも印象的でした。Moonchildは基本的には繊細なネオソウルですが、ラッパーのヴァースが入ると急にブーンバップっぽく聞こえるのが興味深かったです。


なお、今回のプレイリストに入れた曲はレビューを書いた作品から選んだものも多いです。プレイリストを気になった作品があったらあわせて是非。

なお、SpotifyやApple Musicになかったのでプレイリスト未収録ですが、ZelooperZのアルバムは昨年リリースのブーンバップ寄りの作品の中ではベストの一枚です。未聴の方は是非。


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