フロリダ・ブーンバップの歩み
フロリダのブーンバップについて書きました。記事に登場する曲を中心にしたプレイリストも制作したので、あわせて是非。
ブーンバップに接近するRick Ross
フロリダを代表する人気ラッパーの一人、Rick Ross。アトランタのYoung Jeezyがブレイクしてトラップに注目が集まっていた2006年、当時Jay-Zが社長を務めていたDef Jamから大型新人としてアルバム「Port of Miami」で鮮烈なメジャーデビューを飾ったラッパーだ。同作からは同郷フロリダのプロデューサーユニットのThe Runnersが手掛けた緊張感漂う「Hustlin’」や、映画「Scarface」サウンドトラックのネタ使いに南部マナーの808を絡めた「Push It」とヒット曲も誕生。
続く2008年の2ndアルバム「Trilla」ではBillboard週間チャート初登場で一位を獲得し、同年にMTVが選んだ「Hottest MCs in the Game」にも選出された。ストリートのボスキャラとして売っていたのに看守として働いていた時期があったことが発覚するスキャンダルもあったが、そのバッシングも乗り越えて登場以降シーンの第一線で活躍し続けている。
Rick Rossは、Lex Lugerを起用した2010年のシングル「B.M.F. (Blowin' Money Fast)」のようにトラップ系の曲が多いラッパーだ。しかしその一方でソウルフルなサンプリングを使ったビートも好み、近年ではSmif-N-Wessun「The All」やFreddie Gibbs & The Alchemist「Alfredo」などブーンバップ作品への客演も増加傾向にある。
2021年にリリースしたソロアルバム「Richer Than I Ever Been」ではトラップよりもソウルフルなネタ使いが目立ち、客演にも現行ブーンバップを代表するラッパーのBenny the Butcherを迎えていた。
Rick Rossを育んだフロリダはマイアミベース発祥の地として知られており、近年ではRod WaveやHotboiiといったトラップのイメージも強い。しかし、Rick Rossが取り組んできたように実はフロリダにはブーンバップがしっかりと根付いている。今回は今まで語られる機会があまり多くなかったフロリダ産ヒップホップのブーンバップやソウルフルな側面に焦点を当て、その長い歴史を振り返っていく。
The 2 Live Crew周辺によるブーンバップ
先述した通り、フロリダといえばマイアミベースだ。早めのBPMで808やヘヴィな低音を軽快に鳴らすこのサブジャンルは、フロリダを拠点に活動していたラップグループのThe 2 Live Crewの成功によりフロリダを代表するスタイルとして定着した。
しかし、そのThe 2 Live Crewも1988年リリースの2ndアルバム「Move Somethin'」収録の「Feel Alright Y’all」などでブーンバップにたびたび挑んでいた。The 2 Live Crew、そしてマイアミベースを代表するアルバムである1989年リリースの「As Nasty as They Wanna Be」にも、「Coolin’」のような東海岸ヒップホップっぽい曲が収録されている。
その後も基本的にはマイアミベース中心ながらブーンバップ系の曲をいくつか発表。メンバーのソロでも、Fresh Kid Iceの1992年のアルバム「The Chinaman」収録の数曲や、The Notorious B.I.G.をフィーチャーした1996年のLukeのソロ曲「Bust a Nut」などブーンバップ寄りの曲を披露していた。
このようなThe 2 Live Crewのブーンバップサイドを色濃く受け継いだのが、Luke率いるLuke Records所属のPoison Clanだ。後にソロでのヒット曲「Who Dat」を放ったJT Moneyなど6人が所属するこのフロリダのラップグループは、1990年にThe 2 Live CrewのメンバーのMr. Mixxが全曲をプロデュースした「2 Low Life Muthas」でアルバムデビューを飾った。
Lukeがエグゼクティブプロデューサーを務めた同作はシングルカットされたマイアミベースの「Dance All Night」もあるが、ほぼ全てがブーンバップで固められている。1992年の2ndアルバム「Poisonous Mentality」もかなりブーンバップ的なアプローチが目立つ作品で、1993年の3rdアルバム「Rufftown Behavior」も同様だ。また、Luke Recordsは元Public EnemyメンバーでNY出身のProfessor Griffとも契約していた。Professor Griffはソロ作を数枚リリースしており、Poison Clanの「Rufftown Behavior」にもプロデューサーとして参加。Luke Recordsは地元勢と作ったマイアミベースの傍ら、こういった東海岸のフレイバーを積極的に発信していた。
マイアミベースで盛り上がりを見せた1980年代後半から1990年代前半のフロリダ。その中心となったThe 2 Live Crew周辺がブーンバップに挑んでいたことは、後に言及される機会はあまりないものの見逃せない事実だ。
アンダーグラウンドの活性化とCool & Dre
1990年代半ば頃からのフロリダは、Trick Daddyのようにブーンバップより同時代の南部ギャングスタラップとの共通点を感じさせるラッパーが目立っていった。Trick Daddyを輩出したレーベルのSlip-N-Slideからは、バウンシーな音楽性で人気を集めたTrinaも登場。後に50 Centなどを手掛けるプロデューサーのRed Spydaが1996年にWhodiniのアルバム「Six」にブーンバップ路線の「Can’t Get Enough」など3曲をプロデュースするも、メインストリーム寄りのラッパーの側からのブーンバップへのアプローチは一見止まったようにも見えた。しかし、アンダーグラウンドでは1990年代後半からその熱は高まっていた。
この時期のフロリダアンダーグラウンドを牽引したのが、Botanica Del JibaroとCounterflow Recordingsの二つのレーベルだ。1990年代後半に設立されたこの二つのレーベルからは、ラップグループのCYNEやAlgorithmなど多彩な才能が登場。特にCYNEはメンバーのCise StarrとAkinがNujabes作品にも参加するなど縁もあり、日本でも大きな話題を呼んだ。
2000年代に入ると、Red Spydaに続いてメインストリームでもブーンバップを作るフロリダ出身者が登場した。マイアミベース全盛期にもKRS-OneやDas EFXなどを好んで聴いていたという、プロデューサーデュオのCool & Dreだ。Cool & DreはDJ Khaledを通じてFat Joeにビートを送る機会があり、30曲の南部スタイルのビートに1曲だけNYスタイルのビートを忍ばせた。Fat JoeはNYスタイルのビートが届いたことに驚き、Cool & Dreに会うため車を走らせたとCoolがThe FADERのインタビューで語っている。そのビートはFat Joeの2001年のアルバム「Jealous Ones Still Envy (J.O.S.E.)」収録の「King of N.Y.」となり、以降Cool & DreはFat Joe作品の常連プロデューサーとなった。
Cool & Dreはその後、Ja Ruleの2004年のシングル「New York」がヒットしメインストリームでの人気を確立。2005年にはThe Gameの名曲「Hate It or Love It」をプロデュースした。
ソウルフルなウワモノが印象的な疾走感溢れる同曲は大ヒットを記録し、Cool & Dreにとって代表曲の一つとなった。こうしてメインストリームで牽引するラッパーは不在だったものの、アンダーグラウンドで生み出される名作の数々やCool & Dreの活動によって1990年代後半から密かに活性化していったフロリダ産ブーンバップ。そして、この後フロリダのラッパーが次々とブレイクを掴み、その熱気はメインストリームにも進出していく。
メインストリームに進出したフロリダのブーンバップ
2000年代半ば頃からのフロリダ勢の快進撃はRick Rossのブレイクから始まった。先述した通り、2006年にメジャーデビューシングルの「Hustlin’」がヒット。その後リリースしたアルバム「Port of Miami」もヒットし、Rick Rossは時の人となった。
実はErick Sermonの2000年のアルバム「Def Squad Presents: Erick Onasis」収録の「Ain’t Shit To Discus」に(Teflon Da Don名義で)参加しブーンバップに乗っていたRick Rossだが、「Port of Miami」にもソウルフルな「I’m Bad」が収録されていた。さらなるヒット作となった2008年作「Trilla」にも、Binkプロデュースの「We Shinin’」や、後にレーベル名にも採用された「Maybach Music」などソウルフル路線の曲を多く収録。後に繋がるようなビートの好みはこの時点で見せていた。
また、「Maybach Music」を手掛けたJ.U.S.T.I.C.E. Leagueはソウルフルなビートを得意とするプロデュースチームで、ほかにも2 Pistolsが2008年にリリースしたアルバム「Death Before Dishonor」などで見事な手腕を見せている。
Rick Rossのブレイクと前後して、DJ Khaledも2006年に1stアルバム「Listennn... the Album」をリリース。同作にもG.O.O.D.一派を迎えたブーンバップの「Grammy Family」も収録していた。また、ルイジアナ出身だが拠点をフロリダに移していたLil Wayneもこの時期にフロリダ勢と行動を共にしながら大きな成功を掴んだ重要人物だ。2008年にリリースした勝負作「Tha Carter III」にも、STREETRUNNERやT-Painなどフロリダ勢が多く関わっている。
Jay-Zとの共演曲「Mr. Carter」でも、フロリダ出身プロデューサーのDJ Infamous(後にInfamousに改名)とDrew Correaを起用。フロリダ産のブーンバップ寄りのビートでNYのトップを迎え撃った。
Cool & Dreも絶好調だった。Ghostface KillahやRhymefestといったラッパーの作品にブーンバップ系のビートを提供し、Joeが2007年にリリースしたアルバム「Ain't Nothin' Like Me」収録の「Just Relax」ではA Tribe Called Questの名曲「Electric Relaxation」ネタ(というよりリメイク?)を披露。2008年にはSmirnoffの企画でそのA Tribe Called Questが1993年に発表した曲「Midnight」のリミックスも手掛けた。また、Waleが2009年にリリースしたアルバム「Attention Deficit」収録のCool & Dreプロデュース曲「World Tour」もA Tribe Called Quest「Award Tour」へのオマージュだ。現在の感覚ではレイジにも聞こえるシンセ使いなど華やかなイメージがあるCool & Dreだが、A Tribe Called Questなど1990年代NYヒップホップへの愛が強く感じられる曲も多く残している。
こうしてメインストリームにも進出していった2000年代半ば頃からのフロリダのブーンバップ。一方、アンダーグラウンドでも新しい才能が次々と登場し、豊かなシーンが形成されていた。
メインストリームとも接点を持つアンダーグラウンドの熱気
2000年代半ば頃からのアンダーグラウンドの動きで特筆すべきは、Plex Luthorが中心となって2003年に結成したヒップホップバンドの¡MAYDAY!の活動だ。Plex Luthorは、AlgorithmやSpirit AgentといったグループのメンバーとしてCounterflow RecordingsとBotanica Del Jibaroから作品をリリースしていたプロデューサー。¡MAYDAY!は2006年には1stアルバム「¡Mayday!」をリリースし、クロスオーバー志向を見せつつもブーンバップ要素も取り入れたサウンドを聴かせた。2010年頃には、Plex Luthorと以前から親交のあったWrekonizeなど新メンバーが加入。フロリダで活動していたLil Wayneとも繋がり、MVへのカメオ出演やリミックスの制作なども行った。
その¡MAYDAY!とも近しいヒップホップバンドのArtOfficialも、2000年代半ば頃に結成されて精力的に活動していた。ブーンバップというよりジャズ色の強い生演奏のグルーヴを聴かせるバンドだが、ラッパー二人のNY的なスタイルはブーンバップの文脈で語るべき存在だろう。サックスもメンバーに擁したそのジャジーな音楽性は、NujabesとCYNEの関係を思えばフロリダらしいバンドのようにも思える。「Big City Bright Lights」などArtOffcialの曲は日本のレーベルのGOON TRAXによる人気コンピレーション「IN YA MELLOW TONE」シリーズにも収録され、2008年には同レーベルからアルバム「Fist Fights And Foot Races」もリリースした。
そのほか、ラッパーのSmittyが2008年にストリートアルバム「The Voice of the Ghetto」をリリース。DiddyやB2Kのヒット曲のソングライティングも行っていたSmittyだが、2005年のシングル「Diamonds on My Neck」などのリリースもあったもののメジャーデビューアルバムはお蔵入り。「The Voice of the Ghetto」にはHi-Tekや9th Wonder、Buckwildといった名ブーンバップ職人が多数参加していた。そして、リリース元はあのCounterflow Recordingsだった。同作は、フロリダのメインストリームとアンダーグラウンドの確かな繋がりを示す一例だ。
メインストリームではRick RossやLil Wayneがブーンバップ寄りのビートに乗り、アンダーグラウンドでも多くの動きが見られた2000年代半ばからのフロリダ。2010年代に入るとシーン全体で1990年リバイバルの流れが生まれ、フロリダからも新たな才能が飛び出していった。
Raider Klanの登場とMaybach Music Group
2010年代前半のフロリダの新人といえばSpaceGhostPurrpだ。DJ ScrewやThree 6 Mafia、そして同郷のTrick Daddyなどから影響を受けたそのダークなスタイルは高い評価を集め、周辺アーティストと共に組んだコレクティヴのRaider Klanと共に強烈な存在感を放っていた。
そして、SpaceGhostPurrpが注目を集めたきっかけとなった2011年のミックステープ、「BLVCKLVND RVDIX 66.6 (1991)」にもブーンバップ路線の「Rath of Raider」が収録されていた。また、Raider Klanの仲間であるDenzel Curryも2011年のミックステープ「KING REMEMBERED (UNDERGROUND TAPE 1991 – 1995)」収録の「5A.M. IN OPA-LOCKA!!!!!!!」と「THE TRILLEST!!!!!!!!!!!!!!!! 95' (THROWBACK)」でブーンバップに挑んでいる。
SpaceGhostPurrpとRaider Klanは2010年代初頭に大きな話題を呼んだが、コレクティヴとしての活動はすぐに休止状態となってしまう。しかし、Denzel Curryは2013年頃からソロ活動メインに移行し、同年には1stアルバム「Nostalgia 64」をリリース。ダークなトラップやクラウドラップがメインの同作にも、Nujabesが作りそうな美しいピアノループと太いドラムを使った「Like Me」のようなブーンバップとして聴ける曲がいくつか収録されていた。
Raider Klanの面々が話題を集める中、メインストリームではRick Rossがさらに勢力を拡大していた。2010年にはアルバム「Teflon Don」をリリースしていたが、同作にもJay-Zをフィーチャーした「Free Mason」、シリーズ第三作「Maybach Music III」などソウルフルな曲を収録。さらに、2011年にはMeek Millと(Cool & Dreと共にA Tribe Called Questオマージュをやっていた)Waleを自身のレーベルのMaybach Music Groupに引き入れ、レーベルコンピレーション「Self Made Vol. 1」をリリースした。同作にも冒頭を飾る「Self Made」など、ブーンバップ寄りの曲をいくつか収録。2012年にリリースしたソロアルバム「God Forgives, I Don’t」でもJake OneプロデュースでDr. DreとJay-Zを迎えた「3 Kings」など数曲でブーンバップ系の曲を聴かせていた。また、レーベル古参のTorchも2012年にEPMD「Rampage」のリメイク的なシングル「Slow Down」をリリース。Rick Rossは不参加だったが(EPMD所縁の人なのになぜ…?)、同レーベルのラッパーを多くフィーチャーしてブーンバップの発信地としてのMMGを力強く示した。
Raider Klanはクラウドラップで時代の寵児となり、Rick RossはLex Lugerとのタッグでトラップのヒット曲を放っていた2010年代前半のフロリダ。しかし、新しい動きを牽引した当事者たちもブーンバップに取り組み、フロリダからブーンバップは絶えず生まれていたのだった。
2010年代に入ってもブーンバップを作り続けたプロデューサーたち
2010年代前半はフロリダのラッパーたちによるブーンバップだけではなく、フロリダのプロデューサーたちによるブーンバップも多く誕生していた。Lil Wayne「Mr. Carter」で名を上げたInfamousは、Lil Wayneと2011年作「Tha Carter IV」収録の「President Carter」で再タッグを組んだほか、Kool G RapやLupe Fiascoなどの作品に参加。2013年には同郷のWrekonizeのソロ作「The War Within」に「Modern Man」を提供した。そして、2014年にはVince StaplesのEP「Hell Can Wait」収録の「65 Hunnid」を制作。同曲ではArtOfficialメンバーの生演奏を取り入れ、フロリダのアンダーグラウンドとの繋がりを覗かせた。
また、2014年にはArtOfficialのメンバーを中心としたプロデュースチームのThe Pushersが結成された。The Pushersは¡MAYDAY!やその所属レーベルのStrange Music周辺作品を中心に手掛けていったほか、メンバーは「65 Hunnid」のようにスタジオミュージシャンとして活躍。Tech N9neが2013年にリリースしたアルバム「Something Else」収録のKendrick Lamar参加曲「Fragile」にも参加した。なお、ArtOfficialとしても引き続き活動しており、2014年のEP「Knives」などをリリースしている。
Botanica Del Jibaroで活躍したプロデューサーのManuversも長く活動を続けていた。2013年には新進プロデューサーのYarlenとのタッグでアルバム「The Drive Home」をリリース。同作は基本的にはブーンバップではなくSoulectionあたりとの同時代性を感じさせるハイファイなサウンドだが、CYNEのAkinをフィーチャーした「Hit Her With the One Two」も収録していた。
メインストリームではCool & Dreが引き続き活躍。Fat Joeの2010年作「The Darkside, Vol. 1」収録の「Valley of Death」や、先述したRick Ross「God Forgives. I Don’t」収録の「Ashamed」などでブーンバップを鳴らしていた。J.U.S.T.I.C.E. LeagueもJay Rockが2011年にリリースしたデビューアルバム「Follow Me Home」収録のKendrick Lamar客演曲「Hood Gone Love It」や、2 Chainzの2013年作「B.O.A.T.S. II: Me Time」収録の「So We Can Live」などでブーンバップを制作。フロリダ勢のブーンバップ寄りの作風は、メインストリーム寄りの作品に自然に溶け込んでいった。
2010年代前半からのトラップの爆発的な流行の傍ら、ブーンバップを作り続けて発展させていたフロリダのプロデューサーたち。Lil WayneやRick Rossらラッパーの活動とプロデューサーたちの動きはフロリダのブーンバップを生かし続け、2010年代半ば頃に登場したフロリダの新たなスターがブーンバップを取り入れることに繋がった。
新進ラッパーの活躍とRick Rossのブーンバップへのさらなる接近
2010年代半ば頃からは、Denzel Curryが本格的なブレイクを掴んでいった。2015年にはブーンバップを新たなセンスで聴かせて人気を集めたJoey Bada$$と共にツアーを実施。2016年にはそのJoey Bada$$をフィーチャーしたブーンバップの「Zenith」も収録したアルバム「Imperial」が話題を集め、2018年にリリースしたアルバム「TA13OO」も高い評価を獲得した。同作はハードなトラップ路線の曲も多いが、GoldLinkとTwelve’lenをフィーチャーした「BLACK BALLOONS | 13LACK 13ALLOONZ」やJIDとの「SIRENS | Z1RENZ」のようなブーンバップ寄りの曲も収録。翌年にリリースした「BLACK BALLOONS | 13LACK 13ALLOONZ」のリミックス集ではManuversにもリミックスを委ねた。また、同リミックスにはArtOfficial/The Punishersメンバーの生演奏も取り入れていた。
そして、Denzel Curryの周辺からも新たなラッパーが登場した。Lil WayneやTech N9neから影響を受けていたというXXXTentacionだ。2013年頃に活動を開始したXXXTentacionは、攻撃的なトラップやロック要素を取り入れつつも、2015年に発表した「Riot」など初期からブーンバップ系のビートも使ってきた。
2015年発表のシングル「Look at Me!」が2017年頃に話題になり注目を集め、ミックステープ「Revenge」をリリース。同作でも「Slipknot」でブーンバップに乗り、周辺ラッパーとのコレクティヴのMembers Onlyで同年にリリースしたミックステープ「Members Only, Vol. 3」にもブーンバップ路線の「777」や「Supra」を収録した。その後リリースしたデビューアルバム「17」では新たなジャンル「エモラップ」の旗手となったが、同年の終わりに発表したEP「A Ghetto Christmas Carol」ではJ Dillaのビートを用いた「hate will never win」で再びブーンバップに挑んだ。続く2018年の2ndアルバム「?」にもJoey Bada$$をフィーチャーしたブーンバップの「Infinity (888)」を収録。その多彩な音楽性の一つとして、継続的にブーンバップを聴かせてきた。
新進ラッパーがブーンバップに乗っていく中、Rick Rossのブーンバップ寄りの活動もより目立つようになっていった。2015年にリリースしたアルバム「Black Market」では「Black Opium」でDJ Premierのスクラッチをフィーチャー。客演でもPete RockとSmoke DZAが2016年にリリースしたタッグ作「Don’t Smoke Rock」収録の「Black Superhero Car」や、Action Bronsonの2017年作「Blue Chips 7000」収録の「9-24-7000」などブーンバップへの参加が増加していった。そしてそれはDenzel Curryも同様で、2018年にIDKがリリースしたアルバム「IDK & FRIENDS :)」収録の「ONCE UPON A TIME (FREESTYLE)」やFlying Lotusのアルバム「Flamgra」収録の「Black Balloons Reprise」などブーンバップ系の曲に次々と客演。Rick RossとDenzel Curryの二人は、現行ブーンバップにおいて重要な存在となっていった。
現行ブーンバップの充実を支えるフロリダ勢
そして2020年代。Denzel Curryは2020年にリリースしたKenny Beatsとのタッグ作「UNLOCKED」で、大胆にブーンバップに寄ったスタイルを披露した。2021年にはそのリミックス集「UNLOCKED 1.5」をリリース。The AlchemistやJay Versace、Benny the Butcherなど現行ブーンバップの重要人物を迎え、さらに一歩ブーンバップに歩み寄った。
同じくRaider Klanで活動したYung Simmieも、自身の作品はトラップ路線だが近年ブーンバップ作品への客演が少しずつ増加している。プロデューサーの動きでは、DJ KhaledやLil Wayneの曲を手掛けていたSTREETRUNNERがWestside Gunnや38 Speshなどの作品でブーンバップを制作。Cool & Dreも、Fat JoeがDJ Dramaとのタッグで2021年にリリースしたミックステープ「What Would Big Do 2021」で全曲をプロデュースしソウルフルなビートを聴かせている。
また、同年にリリースされたWaleのシングル「Poke It Out」ではQ-Tip「Vivrant Thing」にオマージュを捧げていた。Joe「Just Relax」などで見せたA Tribe Called Quest愛は未だ健在だ。
1980~1990年代のThe 2 Live Crew周辺の試み、2000年代の豊かなアンダーグラウンド、Rick RossやCool & Dreらが牽引したメインストリームでの動き、そして2010年代に登場したRaider Klan周辺。フロリダ勢は時代ごとの新たなサウンドに挑みつつも、その傍らブーンバップも生み出し続けてきた。その取り組みは現在も続いており、シーン全体としてはKodak BlackやRonny Jらの活躍もありトラップ寄りに見えるフロリダのシーンだが、長い歴史が生み出した人脈は現行ブーンバップの充実を支えているのだ。
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