見出し画像

【書評】 脳を鍛えるには運動しかない!

運動は頭をよくする

認知症の予防には、運動が効果的であるという新聞記事を読んだ。

もし、運動が脳の機能を向上させてボケというマイナスの状態から脱出できるのであれば、「普通の健康な人も、運動によって頭が良くなるのか?」という疑問を持った。この本によると答えはYes

認知症だけでなく、ADHD、鬱病、依存症にも、治療効果があるという。こういった精神疾患は子供にも身近で、不登校につながるケースも多い。また、表面上問題にはなっていなくてもゲームや動画視聴がやめられない、依存症のお子さんも多いだろう。

こういった問題を避け、頭をよくするために、運動は有効である。

運動(=狩り)をしたあとに記憶力がアップする仕組み

この本でキーとなるのは、BDNF(脳由来神経栄養因子)という脳のシナプス近くに貯蔵される物質である。BDNFは、運動によって血流が盛んになると放出され、ニューロンを育てる肥料のような役割を果たし、特に長期記憶の保持に関わっている。

これは進化の観点から見ると完全に理にかなっている。もとはといえば、わたしたちに学習能力が必要なのは、食物を探し、手に入れ、蓄えるためなのだ。

人類の祖先は、アフリカの草原で狩りをしたり、食物になるような植物を探し回って生きてきた。つまり運動というのは、食物探しとイコールである。狩り(=運動)を一通り終えたあと、どのような場所に獲物がいて、どのような工夫で食物を得たかを記憶することは、生存に直結する問題である。そのために、運動のあと記憶力が向上する仕組みが備わっているのではないかという説がある。

研究では、運動前より運動後の方が20%早く単語を覚えられ、学習効率とBDNF値が相関関係にあることが明らかになった。また、遺伝子の変異のためにBDNFが作れない人は、学習障害である可能性が高い。

こうした研究成果をふまえ、アメリカのとある高校では、体育のプログラムに様々な改善することで、勉強面でも成績の向上を果たした。同校は、ACTなどの学力試験で有意に高い平均スコアを出し、特にTIMSSという理数系の国際比較テストでは、理科が世界1位、数学で世界6位の水準となる成績をマークしたという。

精神疾患の改善にも有効

知能向上のみならず、不安障害(パニック障害、全般性不安障害)、鬱病、注意欠陥障害(ADHD)、依存症、PMS(月経前不機嫌症候群)などの、精神疾患の改善に有効であるという証拠が上がっている。

運動によって以下のことが起こるからだ。

① セロトニン、ドーパミン、ノルアドレナリンなどの神経伝達物質の量をバランスよく増やす。この3つの神経伝達物質のバランスの崩れは、鬱病、依存症(ドーパミン)、ADHD(ノルアドレナリンとドーパミン)、PMS(セロトニン)に関わっている。

② 鬱病状態では、神経回路が新しく作られにくくなっており、そのため否定的な記憶を何度もグルグルたどっている状態になっている(これによって、余計に鬱から脱却しづらくなっている)。運動でBDNFを放出することは、新しい神経回路を作り直し、ネガティブな思考回路をポジティブなものに構成し直すのに有効である。

③ 運動によって筋肉の緊張がやわらぐ。筋肉が緊張していると、脳に「不安を感じている」という信号がフィードバックされて、ストレス反応が継続するが、運動はこれを断ち切る。

どのように運動をすべきか?

心臓が強く動くとBDNFが上昇するため、心拍を上昇させるような有酸素運動をするのが望ましい。30分のジョギングを週に2〜3回でも12週間続けるだけで、脳の機能が向上したという研究がある。

お勧めするのは、心血管系と脳を同時に酷使するスポーツ(たとえばテニスなど)をするか、あるいは、10分ほど有酸素運動でウォーミングアップをしたのちにロッククライミングやバランスの訓練といった酸素消費量が少なく技能を必要とする運動をするというやり方だ。

有酸素運動に加え、脳を使うような複雑な動きをすると、シナプスがあちこち結合し、スポーツ以外の知的活動をするのにもいい効果があるという。著者は以下のように述べている。

有酸素運動が神経伝達物質を増やし、成長因子を送り込む新しい血管を作り、新しい細胞を生み出す一方で、複雑な動きはネットワークを強く広くして、それらをうまく使えるようにする。動きが複雑であればあるほど、シナプスの結びつきは複雑になる。また、こうしたネットワークは運動を通して作られたものではあっても、ほかの領域に動員され、思考にも使われる。ピアノを習っている子どもが算数を習得しやすいのはそのためだ。前頭前野は、難しい動きをするために必要な知的能力を、ほかの状況にも応用しているらしい。

運動の習慣をつけるために

心拍の上がる運動の方が効果が高いのは明らかだが、心拍が上がらない程度の散歩でも、全く運動しないよりは少しでもした方がいい。運動不足の状態から、いきなり激しい運動をすると苦痛を感じやすいので、まずは、無理なく歩くことから目標にする。

また、運動が苦手だと、そもそもスポーツ・クラブに参加するのも難しい(例えば、サッカーやバスケの部活に所属しても、パスをもらえない状態でボーッとするのは意味がない)。その場合には、一人で続けられる楽しい競技、例えばボルダリングやカヌーなど、競技の探し方に工夫をこらすとよいと、著者はアドバイスする。

この本を読んで実行していること

「頭をよくする〜」というタイトルの育児本はごまんとあるが、頭をよくするという点で最も明確なエビデンスが得られているのは運動である。また、運動はうつ病や依存性といった厄介な精神疾患を防ぐ上でも重要である。この本は、「運動を生涯楽しめる子にする」という私の育児方針を立てるのに役に立ったと思う。
この本を読んでから約3年経つが、毎週末子どもをあちこちの公園に連れて行って運動に付き合っている。正直、疲れる時もあるが、それでも続けられているのは、この本の内容に非常に納得がいったからである。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?