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断片の連続を【『森村泰昌 ワタシの迷宮劇場』レポ】

小説を書き始めて、早10年か。

私は自分の才能をないものだと思っている。だけど、なんやかんや続けている。
元々は空想を作るのが楽しかったからだ。
ストーリーによってキャラクターを生かすのが楽しかったから。

けれど、今はそうじゃない。
私の思いを、私の痛みを、喜びを、表現するために文章を書いている。
だから、小説を書くことに向いていない。ストーリーじゃない。物語じゃない。私が書いているのは、空想じゃない。
小説はフィクションだ。

私のものは、私を別の視点で書いたものでしかない。

だから最近、小説が書けない。

私は写真をやり始めた。
写真は、私の日常の断片だ。
そこに詩を書くことで、私の断片と断片が組み合わさって、限りなく私に近くなる。

写真は、人間の断片であって、私だけのものじゃない。その当たり前が好きなんだ。
分かりやすくて、日々を思うことが出来る。

その切り取り方は私の世界の見方なんだけど、
それよりもありふれたその感じが好きだった。

風景チェキは曖昧さがあって好きなんだ。

私の記憶の断片だ。
断片であるから鮮明ではないし、意図もなにもわからないし、そもそもそんなものはない。

生きている証拠として収められ、それが誰のものであろうといい。

写真は寛大だ。

だからこそ、創造性は低いのかもしれない。

0から1を作るものではなくて、1から100にするものなのかも。

『森村泰昌 ワタシの迷宮劇場』という展示を見に行った。
有難いことにゼミの先生に招待券を頂いたからだ。

なんの展示かも知らずに頂いたから、当日「ああ、写真の展示だったのか」なんて思うぐらいであった。

晴天の中、初めて京セラ美術館に入った。

綺麗で広くて、深くて、ああ、芸術に溢れていると思った。

そして、芸術を見に来ている人が沢山いるのだ。

展示は迷路のようになっていて、個性が溢れていた。
写真は、Lサイズかそれよりも小さいものをひとつの額縁に何枚も並べていた。

私は、大きいポスターみたいな展示だと固定観念で思っていた。
なるほど、こういう展示方法があるのか。
ここで分かることは、私は写真の展示というものを全然見た事がなかったということだ。
私はまだまだ知らないことがある。

あと、こういった撮影で使用された衣装がカーテンの向こうに展示されていた。まるで覗き見をしているようで、おそろしい。
私は『インシディアス』のシーンを思い出して怖さと気持ちのいい居心地の悪さを感じた。

この人の写真は、連射だ。
同じ構図だけど、ちょっとずつ動いている。

写真は断片だ。
連続は動画だろうか?
私は、今まで「なら動画でいいやん」と思っていた。

1枚で語りたいことを完成させて欲しいと思っていた。
何を伝えたいの?
何がいいと思ったの?
惰性で撮っただけじゃない?
ただ綺麗なだけじゃん。
なんてTwitterの写真垢の人の写真や大学の写真学科の展示なんかを見て思うことがあった。

見る目はない。
技術も何も知らない。
素人の私でしかない。

だけど、森村泰昌さんの写真は連続していた。

でも、それは動画ではなく、断片と断片と断片と……。
写真のつながりであった。

断片である必要があるんだ。

見せるものを選ぶことが出来て、全く同じように見えるものも何かが違う。
そういう断片の連続こそが、強さなんだろう。

よくわからない。
何も分からない。
だけど、何かが私の中で大きくなった。

断片を続けること、それも、30年間続けることで、それはその人の個性になった。
もし、これがたった1枚だったらきっとこんなに凄いものではなかったはずだ。

大量の写真が繋がって、続いて、連続して、やっとそれは意味を持つ。

芸術とはそういうものか。

創作活動の生命を感じた。

1人でこれがやりたいことだ、と続けることはどれだけ大変なことだろう。
私はそんなことが出来るだろうか?

ヤマシタトモコさんの『違国日記』でこんなセリフがあった。

私にとっての「才能」は「やめられないこと」
ヤマシタトモコ『違国日記』9巻43話

続けるということ自体が才能だと思ってきた。
努力が出来ること自体が才能だと思ってきた。

それは間違いじゃないと思う。

私はきっと才能はない。
ただ、しがみついてしまっている。

何故かずっと創作をしている。

才能なんてない、小説家になんてなれない。

だけど、承認欲求と復讐心と名誉欲と何かを残したいという思いでずっと作品を作り続けるんだろう。

誰かに認められたい。
その誰かはできるだけ多くの人だ。

私をバカにした、
私に嫌がらせをした、
私を虐げたやつらに、
私は負けなかったと言えるように

私は私の痛みを利用する。
私は私の痛みを作品にして届け続ける。

私の断片をどこまで連続させられるだろう。

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