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「デザインのひきだし51 表紙加工」

コスモテックの現場の前田です。

今回は2024年2月発売の 『 デザインのひきだし51 』 の表紙加工についてご紹介させていただきます。なんとコスモテックは今回の号で 『 デザインのひきだし 』 の表紙加工に挑むこと、記念すべき10回目なのです!

そして、私がコスモテックに入社し現場リーダーに就任してからは、今回で5回目となる大きな挑戦です。


加工に携わらせていただいた過去4回の挑戦
『 デザインのひきだし39 』(2020年) | ティッシュへの箔押し
『 デザインのひきだし41 』(2020年) | 表紙へテープスタンピング加工
『 デザインのひきだし44 』(2021年) | アートボールへの加熱型押し
『 デザインのひきだし46 』(2022年) | 紙×箔×箔 1000パターンの箔押し表紙

◉ 2色の顔料箔の全面箔押し

今回、京都大原にあるブロンズパウダー( 真鍮箔 )を使用した日本初の転写箔( ブロッキングホイル )開発の先駆けである関西巻取箔工業株式会社( 略称 KANMAKI )さまの箔材を贅沢に表紙全面( 表1+背+表4 )に加工するプランを 『 デザインのひきだし 』 編集長の津田淳子さまよりご依頼いただき、表紙に加工させていただきました。

『 デザインのひきだし 』 編集長 津田さま より送っていただいた表紙デザイン案
紙色はインディゴ想定で全面2色の箔押しによる図案が配置されている


しかも、なんと今回! 2色の箔の全面押し加工なのです!
そして、津田さまから送っていただいた表紙の図案をご覧いただくと分かりますが、図案が超繊細、且つ、パール箔と金箔のすさまじい位置合わせの部分やパール箔の上に金箔がぴったり乗る部分が見受けられます。まるでこれから行う箔押し加工の凄まじさをデザインデータが物語っているかのように感じられたのでした。

もうこの時点から、私の頭の中では 「 箔押しの加工で使用する金属版の材質は何にしようか? 」 「 どうすればこの2色の箔をぴったり合わせられるのだろうか? 」 など、デスクトップの画面に映るデザインデータと睨めっこして想像を働かせては 「 これは本当に手強い… さてどうしよう。 」 と悩んだのでした。

1工程目の KANMAKI製 パール箔押しで加工に使用する金属版
表1から表4まで全面箔押し 持つと手にずっしりと重みを感じる
2工程目の KANMAKI製 金箔押しの加工に使用する金属版
繊細な図案が表1から表4までところ狭しと全面に配置されている
金属版の材質は1工程目と同質のものをセレクト

◉ 2023年12月22日(金)

2023年の年の瀬、営業日も残りわずかという12月22日にコスモテックの現場で 『 デザインのひきだし51 』 表紙加工の校正( テスト )立ち会いならびに取材・撮影のため津田さまが足を運んでくださいました。校正の段階で津田さまがセレクトされた表紙の紙候補は5銘柄ほどありました。

すべて大和板紙 製( ①~⑤ )
① インディゴブルーF L判T目(230g/m2)
② カッパーレッドF  L判T目(230g/m2)
③ ブラウンF     L判T目(230g/m2)
④ チョコレートF   L判T目(230g/m2)
⑤ ネイビーF     L判T目(310g/m2)

①〜⑤ まで紙表面の質感は同じながらも紙の名前の通り、それぞれ色が異なり、与える印象もまた変わってきます。校正立ち会い時には実際の量産を想定しながら使用予定の箔2色の加工を行い、津田さまと共に様々な視点から検証を行いました。

また、①〜⑤ の紙に2色の箔を試しに押してみると予想どおり、全て見映えや印象が異なりました。

5銘柄の紙に同じ加工を施し、その場で検証
紙色によって仕上がりの印象がすべて異なるため、慎重に吟味する
『 デザインのひきだし 』 編集長の津田さまと私前田
箔を実際に押してみた感じや気づいたことなどのインタビューの時


校正立ち会い時、頭の中で 「 パールと金の位置合わせをしっかりと。ぴったりと。 」 そればかりをもんもんと考えていた私に、津田さまがすっと質問を投げかけてくださいました。

「 前田さんはこの5パターンのうちどれが一番好みですか? 」

私は位置合わせばかり考えていたことから一瞬頭の中が真っ白になってしまいました。

こうして見てみると箔押しの面積が本当に広いのだ!


少し考え事をやめて校正を眺め、「 私はこのカラーが気になります。 」 と津田さまに伝えました。 どこかほっと和んで肩の力が抜け、緊張感が解れて視野が広がった感覚があり、津田さまによって思考の迷宮から助けていただいたように感じました。

◉ KANMAKI製のパール箔と金箔


1工程目で全面( 表1+背+表4 )にまずはパール箔を、箔押しの金属版を変えて2工程目で金箔を、2色の KANMAKI製 の箔で加工しております。

今回、年末の校正立ち会い時に津田さまが特に注意深く確認していたポイントが2工程目の金箔の箔押しの圧の加減です。

津田さま 「 もっと、強めに圧をかけてみましょう! 」
私 「 津田さま、このあたりの加減が機械の 『 最強圧 』 です。 」
津田さま 「 それでは今度は逆にかすれても大丈夫なので、弱めに箔を押してみてください。 」

圧力を強めたり、弱めたり、様々なパターンで箔を押しながら、仕上がりを見比べて確認していきました。

津田さまとのやりとりを経て、その場で提出した表紙の校正
この後、一度持ち帰られて一つに絞られる 果たして何色の紙に決まるのか……
写真は KANMAKI製 の金箔の箔の抜け殻
普段の抜け殻はフィルムベースなのに対して、今回の箔は紙ベース
紙ベースの箔の抜け殻は私にとって とても新鮮!


津田さまの当初からのご要望は少しでも強く圧をかけて欲しいというものでした。 顔料箔の特性上、細かい図案の場合、箔が絡み易かったり( 図案と図案同士の間の空間に箔が溜まる・箔で埋まる状態 )、さらには強圧をかけることで繊細な線や点が太く紙面上で表現されてしまったりと、箔の表現のコントロールが難しい側面も持っております。

パール箔と金箔の位置がぴったりと合った瞬間
加工に携わる者としても大きな感動が! そして安堵の気持ちが押し寄せる


津田さまと一緒になって、今回の KANMAKI製 金箔で表現する図案の着地点を探すことにしっかりと時間をかけました。 特に金箔は 「 シルク印刷のような、活版印刷のような 」 その中間に位置するような独特の金色の表現のように私は感じました。

また、下地である紙色の影響をそこまで受けないこと、やや隠蔽性のあるパール箔であること( 他社製の多くのパール箔は半透明感があり、紙の地色の影響がある )と、どこか渋味と特有の豪華さ・重厚感を持ち合わせた金箔が合わさり、全面に箔が押された表紙を目にした時、大きな驚きと感動が溢れてきました。

今回使用している KANMAKI製 の箔材
◉ ゴールド「 BF GOLD #7 ( 青金 ) 」
◉ パール 「 LIT PEARL WHITE-A( 薄い方 ) 」
※ ゴールドは赤金もあり、そしてパールは厚い層のパール箔もあるのです。

◉ 2024年 年始最初のお仕事

年始の初日からコスモテックの箔押し現場へ
大和板紙さまより表紙の紙が大量に搬入される
最終的に表紙に決まった紙の銘柄は…
「 カッパーレッドF 」( 大和板紙製 )


コスモテックの2024年最初の大仕事が 『 デザインのひきだし51 』 の10回目の表紙加工でした。仕事はじめに表紙で使用する紙( 立ち会いの校正出しから 「 カッパーレッドF 」 に決まりました )が ドン! とコスモテックの箔押しの現場へ搬入され、また KANMAKIさまより今回の表紙加工のために作られた出来立てほやほやのロール状の箔材が パール箔・金箔 合わせて160本以上( なかなか味わえない本数です )がコスモテックに届けられました。

表紙加工で使用する金箔がずらり勢揃い( KANMAKI製 )
これ以外にもパール箔がある
原反が 幅640mm × 長さ120m の箔ロールを
事前に使用する幅・長さにカットして搬入していただく


パール箔も金箔も全面に箔押しするデザインがゆえにその使用量もまた膨大なのです。


年始から目が覚めるほどの量の紙と箔材、そして製作部数を目の前に 「 今年も一年気を引き締めて行こう! 」 「 よし、やるぞ。今年もいよいよはじまりだ! 」 と気合が入りました。コスモテックにぴったりな、前向きな一歩を踏み出せるお仕事に恵まれた 2024年のはじまり、そんな気持ちになったのでした。

一枚一枚の平らな紙の状態の表紙に、いつもながらの手作業でコツコツ箔押し加工。昨年末の校正立ち会い時、津田さまと共に悩み、導き出された圧加減に照準を合わせて、箔押ししていきました。そしてたくさん試した金箔の押し具合は最終的に 『 最強圧 』 となったのでした。

表紙の 「 カッパーレッドF 」 が色鮮やか、鮮明な印象
パール箔はフラットに、金箔は強圧でガッツリ箔押し!
パール箔と金箔の加工の秀逸な位置合わせが要される


今回は大きな面積への全面箔のためにガッツリ凹ませることは困難( 押し面積が大きいことで加工の圧力が分散化してしまう )ですが、コスモテックの箔押し機で可能な限りかけられる 『 最強圧 』 ( 箔押し機が止まってしまう一歩手前の圧加減 )を最終的に津田さまは選ばれました。

鮮やかな赤色と全面パール箔、全面金箔が合わさり
明るく、どこかめでたい印象が感じられる


圧を弱くすると図案はシャープに表現されエッジもクリアに出たのですが、やや箔力( 迫力 )に欠けるとのことから、「 KANMAKI製 の金箔が今回の図案にマッチし、映え、そして 『 デザインのひきだし 』 読者の皆さんにきっと届くのはこの 『 最強圧 』 『 箔力 』 です! 」 と気持ちよく、きっぱりと津田さまが決められた瞬間のことを量産加工前に私はふと思い出しました。

◉ 5回目の表紙加工を終えて

コスモテックで通算10回目の 『 デザインのひきだし 』 であり、私前田としては今回で5回目の表紙加工。その前の5回は、今は天国で見守っている箔押しの匠 佐藤が一生懸命に加工していたことは青木(コスモテック)からよく聞く機会がありました。

やっと回数上で佐藤と並ぶという願いは叶いましたが、まだその背中ははるか彼方です。


「 やり遂げる。貫徹する。 」 ことができ、大きな満足感を得られました。特殊仕様・特異なものでも臆さない気持ちと押しの経験値も私の中に確実に蓄積されていると実感することができます。

それでも 「 自分はまだまだこれからなのだ 」 という気持ちを大切にし、毎日一枚一枚、一歩一歩、箔押し加工を通してお客さまと共に製品や作品を形作っていくのだと、今回の 『 デザインのひきだし51 』 の表紙加工を終えた時、強く感じました。

上段:左から 13号・20号・22号・26号・32号
下段:左から 39号・41号・44号・46号・51号


青木が通算10回、佐藤から私のそれぞれ5回ずつを見届けてきたように、私も自分が持っている技術や経験を次の時代や世代へと繋げていく一翼として、少しでも誰かのためになれるような仕事がしたいと考える大切な機会にもなりました。

『 デザインのひきだし 』 編集長の津田さま、コスモテックで通算10回目の表紙加工の機会を与えてくださり本当にありがとうございました! はじめて出会った時からいつも立ち会い時に掛けてくださるお言葉に励まされ 「 がんばらねば! 」 と心強く、背中を押していただいています。 そして、 関西巻取箔工業株式会社さま、御社の素晴らしい箔を用いて加工のお手伝いをさせていただけたこと本当に光栄でした。

「 ありがとうございました! 」

KANMAKI製の古( いにしえ )の箔
ぜひ、「 デザインのひきだし51 」 実物でご堪能ください
表紙加工の製作秘話も本誌内であきらかに!


また、今回の 『 デザインのひきだし51 』 の表紙加工を通して、箔そのものの奥深さを改めて感じ、そして KANMAKI製 の顔料箔の素晴らしさを体感しました。 今回の加工を終えて、より多くの皆さまに 「 今回の箔を使って一緒に何かつくりませんか? 」 と呼びかけたい気持ちが私の中に生まれました。

『 デザインのひきだし 』掲載( 2008年 - 2024年現在に至る )
掲載 : 36回 | 表紙への加工 : 全10回


【 箔押し加工 】

有限会社コスモテック 現場リーダー 前田瑠璃
〒174-0041 東京都板橋区舟渡2-3-9
TEL:03-5916-8360 / FAX:03-5916-8362

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