子供のやり抜く力はどこからくるのか?②
こんにちは!
こしあんです。
前回は、親がとるべき対応や子供が受けるストレスについて紹介しました。
今回はその続きで、トラウマとネグレクトについてのお話です。
3、トラウマ(心的外傷)
幼い頃に有害なストレスを経験すると、極めて深刻な発達の中断が起こり、免疫システムや実行機能、心の健康が損なわれます。
実は家のなかだけでなく、近所で起こる暴力行為や見知らぬ人間関係からの虐待なども含まれます。
しかし、大半の子供たちにとって一番の脅威は家の中にあります。
アメリカ疾病予防管理センターの医師ロバート・アンダと保険団体ヴィンセント・フェリッティが1990年代に1万7000人を対象に、子供の頃のトラウマを引き起こす体験について調査しました。
この対象者のほとんどが学歴の高い中年の白人です。
調査では、虐待・ネグレクト・「深刻な機能不全に陥った家庭」で育ったことを示すものについて、10項目からなる質問をしてそのうち何項目が当てはまるかという数だけを調査したものです。
※「深刻な機能不全に陥った家庭」とは、DVを目撃した、両親が離婚した、家族の中に刑務所に入っている者、精神疾患のある者、あるいはアルコールや薬物乱用の問題を抱える者がいたなどです。
アンダとフェリッティは、その後それぞれの患者の病歴を調べました。
その結果、患者が子供の頃に経験したトラウマの数と、成人後にかかった内科疾患の間に、驚くべき相関関係が見つかったんです。
それは、「子供時代の逆境(ACE)」を4つ以上経験している患者では、癌になる確率は2倍、心臓病にかかる確率は2倍、肝臓病にかかる確率も2倍、肺気腫や慢性気管支炎になる確率は4倍になるそうです。
「トラウマ」と聞くと一過性のもの、たとえば大きな災害などで受けた傷を思い浮かべる人も多いかもしれませんが、アンダとフェリッティが設定した項目は慢性的で継続するものでした。
つまり、親の離婚やネグレクトといったものは、ある特定の1日の出来事ではなく毎日続く経験というわけです。
慢性的にストレスの多い家庭で育った場合、子供の実行機能の発達にマイナスの影響が出ることもわかっています。
心的外傷の研究者でもあるナディーン・バーグ・ハリスが行った研究では、ACEのスコアがゼロだった児童のうち、学校での学習や行動に問題のある子供は3%だけで、逆にACEのスコアが4点以上の児童では51%にのぼったそうです。
4、ネグレクトによる弊害
トラウマの所でも説明したACE(子供時代の逆境)の10項目にあったような重度のものではなく、もう少し軽度の機能不全もマイナスの影響を与える可能性があります。
オレゴンで行われた研究で、両親の間の暴力を伴わない口論が乳幼児の発達に与える影響を調べたものがあります。
生後6か月から12か月の乳幼児を対象にしたもので、眠っているあいだにfMRI(機能的磁気共鳴映像装置)で脳波を探る実験をしました。
実験の結果、家庭内での口論がほとんどないと答えた母親の子供は、怒声に対して比較的穏やかな反応を示しました。
しかし、家庭内で口論が頻繁に起こると答えた母親の子供の場合、fMRIの画像上で感情、ストレス反応、自制に関わる脳の部位にはっきりとした反応が示されていたんです。
実際、ネグレクトが子供の健康的な発達を脅かしているという科学的根拠は相次いで報告されています。
研究者たちによれば、ネグレクトは肉体的な虐待よりも長期にわたって害を及ぼすこともあるそうです。
ただ心理学者によると、親や世話をする人がときどき注意を払うのを怠ってしまうようなものにはプラスの効果があるといわれています。
これは、子供が自分は常に親の中心にいるわけではないと知り、時には自分だけで楽しもうとすることは良いことだと考えるようになるためです。
しかし、一番注意しなければならないのは「慢性的な低刺激」と呼ばれる状態です。
これは親が子供にあまり反応せず、積極的に関心を寄せたり、きちんと向き合ってやりとりをしていない状態のことです。
子供は泣いても、話しかけようとしても無視され、何時間もテレビの前に放置されたりします。
私は、こういう状況はとても長期化するような気がします。
親は疲れきって、その日の育児を振り返ることはあまりしませんし、家族以外の人に知られることもほとんどないので、また次の日も同じような行動を繰り返します。
神経科学者たちの研究によれば、この程度のネグレクトでも脳の発達に対し、長期にわたる深刻な影響を及ぼすことがわかっています。
子供時代だけではなく、その後の社会生活においても影響を及ぼすそうです。
慢性的な低刺激を受けた子供は上手に友達を作れない傾向があり、認知能力や言語の発達が遅れ、実行機能に問題を生じることもあります。
神経学者は、ネグレクトや虐待、その他のトラウマはすべて「自分の置かれた環境が不安定で混沌として予測がつかない場所にいる」ということを乳幼児に教え込むことになるといっています。
乳児期の子供の脳は、周囲の世界に決まったパターンを探しています。
それなのにすぐそばの環境が常に流動的な場合、例えば大人が突飛なふるまいをしたり、あまり反応を示さないという態度だと、子供の脳は常に警戒をするようになります。
【ロシアのサンクトペテルブルクでの実験】
私たちはつい問題行動を起こす児童に目が行きますが、実は親の行動を変えることで、その影響を半減させたり、好転させることもできます。
これは、2000年代に行われた実験です。
ソビエト時代の社会や経済の崩壊により、ロシアでは多くの乳幼児が孤児院に入ることになりました。
この施設では、十分な食べ物、衣類、おもちゃなどが与えられ、清潔なベッドや適切な医療が確保されていました。
決して物資が不足していて、食事が十分でない、というようなことはなかったそうです。
傍から見ればなにも問題はないように思えますよね。
しかし、施設は厳しく人間味に乏しいやり方で運営されていて、スタッフが子供たちに暖かく接することがなかったそうです。
別の報告書には、この時代の典型的なロシアの孤児院について「子供たちの食事や着替えや入浴は機械的に処理され、家庭で親との間で起こるような笑いやおしゃべりやアイコンタクトは一切なかった」と書かれています。
その後、ロシアとアメリカの科学者のチームが一部のスタッフに、もっと心のこもった世話をするように教育しました。
食事や入浴のような毎日の世話をするときに、声をかけたり、笑みを向けたりといった、大抵の親が自分の子供に対してするようなことをしてもらったんです。
そうすると9か月後には、認知機能や社会性の発達、運動技能に相当の伸びが見られました。
そして驚くことに体の発育まで改善があったそうです。
食事や医療ケアは前と変わらないのに、身長・体重・胸囲がすべて増加したことがわかっています。
そして、世話をするスタッフにもいいことがありました。
子供たちが健康で幸せそうになるにつれ、スタッフの間でも鬱や不安が減少したそうです。
私たちは子供の成長を願うばかりに、すぐ物理的な環境を良くしようとします。
良い刺激になるようにと知育玩具を与えたり、食事に気を遣ったりします。もちろん大切な事ではありますが、この実験からも物理的な環境を良くしても限界はあることがよくわかります。
子供の能力を伸ばしたいと考えるならば、子供を変えようとするのではなく、日々接する大人たちの行動や態度を改善することが最初にやるべきことかもしれませんね。
今回はここまで
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また次回お会いしましょう。
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