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介護に無関心だった兄が動いた

母が認知症になって

8か月ほどになる。


母は一人暮らしをしていて、

私も含めて兄弟はみんな実家を離れている。


姉と兄は実家と同じく京都に住んでいるが、

私だけ遠く離れた福岡に住んでいる。


姉は月に一回実家を訪れて

母の様子を見に帰ってくれている。


私は距離的にしょっちゅう帰ることができないので、

食料品や日用品をインターネットで注文して

実家に届ける手配をしたり、


介護施設の方とのやりとりや支払い、

書類の確認など、

遠隔でもできることを担当している。


でも兄は、

まったく介護に参加してこなかった。


実家に帰る様子もなく、

連絡用に作った兄弟のグループLINEにも

まったく返信しない。


認知症の薬を始めることに

同意するかどうかの意思確認をするために

送ったラインも既読スルーだった。


介護施設の契約書に

緊急連絡先を2人分書かないといけないときでさえ

署名をしぶっていた。

「緊急時ったって仕事中なら駆けつけられない」

とすら言っていた。



介護をするうえで、

兄弟の無関心ほど

こたえるものはない。


私は兄をまったく当てにせず、

自分の出来ることを進めてきた。


しかし

母をコロナワクチンの接種に連れていく必要が出てきたときに、


車を出せるのが兄しかおらず、


頼らざるを得なくなった。


私はいやいや兄にLINEし、

ワクチン接種の予約を取るように頼んだ。


電話で話すことは私にとってとてもハードルが高いことなので、

どうしても必要な連絡はいつもLINEを使ってできるだけ間接的に済ませられる方法を選んでいた。


兄は小さい頃暴力を振るわれたことがあり、

大人になった今でも本能的に恐れていた。

言いたいことも言えず、

ただ距離を置くことで

心身の平和を確保していた。


しかし今回もお得意の既読スルーだ。


仕方なく電話を掛けるも

出ない。


私だって連絡などしたくない。

でも今回は

コロナワクチンという重要な内容だし、

なにしろ早くしないと摂取が遅くなる。

時間がない。


私は

それこそストーカーのように

しつこく何度も電話を掛けた。


出ない、出ない。


こうなったら出るまでかけてやる。


着信履歴の多さに驚いて電話に出やがれ!


そして5回目。


ようやく電話に出た。


兄の声を聞くだけで

心臓がバクバクし、声が上ずる。



私は震える声で

足早に要件を伝えた。


すると

「ああ分かった分かった。」

と一言。

本当に大丈夫なのか?

「ワクチンの予約が取れたら日程を教えて。」

と伝え、

その場はひとまず電話を切った。


しかしそれから何日待っても

うんともすんとも言ってこない。


兄をあてにしていたら本当に

母のワクチン接種を逃してしまう。


どうしたものかと戸惑っていると、

ちょうど良いタイミングで

母の古い友人から連絡が入り、

先日母に会いに実家に寄ってくれたらしく、

そこでコロナワクチンの書類を見つけて、


予約を取ってくれたというのだ。


何てありがたいのだ!


私はすぐに兄にLINEし、

「コロナワクチンはこちらで手配したから

もう母を連れて行かなくてよい」

と伝えた。



すると

兄から電話がかかってきて、

「俺に頼んでおいて

すぐに他人に頼むなんて、

わけの分からないことをするな」


と言ってきた。



いい加減にしろ。


こんなに大事なことを

軽んじて、

何も動かなかったくせに、

何を言い出すのだ。



心の中で恐怖と腹立たしさが増幅したが、

気持ちを整えてそれまでのいきさつを説明した。

とともに、

大事なことだったから

早く返事が欲しかったと言った。


でも兄は

自分の都合を並べ立てて言い訳ばかり。

それだけでなく

私の言うことの揚げ足取りばかりだ。


私は自分の感情が抑えきれなくなり、

今までの

惨めさや、恨みや、腹立たしさを

電話口で思いっきりぶちまけた。


もう、

空しくて空しくてたまらなかった。


私がどんな思いで母の介護をしてきたと思っているのだ。

お前は1ミリでも考えたことがあるのか。


怖くて仕方なかったが、

生まれて初めて兄に感情をぶつけたと思う。



すごく長く感じたが、

実際に電話で話していたのは

ほんの10分足らずだった。


それから2日後。

兄からLINEがきた。

「先日は自分勝手なことばかり言って申し訳なかった。

これからは自分の出来ることをしていくから、

できることがあれば教えてほしい。


母のワクチンは自分が必ず連れていく。」

とのことだった。


びっくりした。


しらけ切ってまったく機能していなかった

兄弟の関係が、

すこし動いた気がした。


結局ワクチンの予約も無事取れたとのことで、


母の友人には丁重に断っておいた。


自分の思いを伝えることは

とても怖いが、

勇気を出すことで

現実を動かす経験ができて良かったと思う。







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