『ホラーが書けない』 へんぺん。イタズラを仕掛けたのは誰?【Web小説】
『腕をつかんできたのは』
妖は夜にしか現れないと思っていないだろうか。
それは間違いだ。
真っ昼間でも怪異は起こる。
しかも突然にだ。
✿
休日なのにとくに予定がない。
窓の外を見ればスカッと晴れている。なんだか外へ出かけたくなったので商店街へ行くことにした。
ひさしぶりに訪れた商店街は相変わらずにぎわっている。
雑貨店・ファストフード店・Tシャツ専門店・物産店・酒店・スイーツ店・宝飾店・生活雑貨店・アイスクリーム店・飲食店。歩道に面して店がずらりと並んでにぎわいを見せている。
たくさんの人が行き交い、店を背景にスマートフォンで自撮りしている観光客もいて、みんな楽しそうだ。買い物はネットが主流なのでこの空気感を忘れていたけど、だんだんと思い出してきた。
店を訪れて商品を見るのは宝さがしに似ている。未知の商品との出合いがあるかもと、ワクワクして楽しい!
ふらりと入った雑貨店ではかわいいブタの置物と目が合って、しばらく値段とにらめっこした。ぽくぽく歩いていたら甘い香りに引き寄せられ、できたての揚げ菓子を買って食べた。商店街の端から端まで歩いて楽しんだ。
満喫したのでそろそろ帰ることにした。
商店街には細い脇道が網の目のようにある。メイン通りよりも駅への近道になるし、人通りも減るのでゆっくり歩ける。当然、脇道を選んだ。
メイン通りとはうってかわって人がいなくなり雰囲気が変わった。
入ってすぐは商店があるけど、そのうち住宅がまざってくる。ざわつきが遠のき、住宅地となんら変わらない風景になっていく。
ゆるりと歩くと庭木や鉢植えの花が目に入ってきてなごむ。家々を通りすぎて月極駐車場にさしかかったとき、後ろから腕を引かれた。
「おっ!?」
声をかけずにつかんできたから、どきりとして思わず声がでた。
低い位置から引っぱってきた力は弱く、すぐにつかんでいた手を離した。呼び止めるような動作だったので何か用があるのかとふり向く。
? ? ?
目の前には誰もいなかった。
ここはメイン通りから外れた道になっている。親とはぐれた迷子の可能性があると考えが浮かんだ。
(子どもかな?)
子どもならば身長が低い。しゃがんでいて死角にいるかもしれないと判断してすぐに足元に目を落とした。
? ? ?
誰もいない……。
助けを求めにきた迷子ではなかった。
また考えをめぐらせる。ここらに住んでいる子どもがイタズラを仕掛けてきたのかもしれない。むかしなつかしピンポンダッシュのようにスリルを求めたか?
(さては隠れたな!)
体の小さい子どもはかくれんぼが上手だ。どこかに身をひそめているのかもしれないと考えつき、辺りに隠れそうな場所はないかと探してみた。
? ? ?
隠れる場所がない……。
周りは家が並んでいるけど、どこも門が閉まっている。子どもが音を立てずに閉じられてる門を開き、すばやく閉めて隠れたとは思えない。また1.5メートルくらいの門を飛び越え、庭先に身を隠したとも考えられない。
家以外に駐車場があるけど、車がない空の駐車場では身の隠しようがない。
どこにも人の姿はない。
猫すらいない。
というか自分しかいない。
(あれぇ~? 気のせいか?)
手を引かれた場所をもう一度見るも、ただの空間でなんにもない。
腕をつかんできたモノには立体感があった。物が軽くふれたのではなく、腕をつかんだ指の形状があり、つかまれた際の圧力も感じた。接触してきたモノには意思があり、それは人の手のように思えたのだが……?
(何もないしなあ?)
つかまれた部分を無意識のうちになぞるようにしてふれる。
空間をじ―――っと凝視するけどただの道。
何かあるわけじゃないし、周りと違った部分はない。やっぱりただの道。
「…………」
気になるけど何もないし、気のせいだったかもしれない。考えても答えがでない場合は考えるだけムダだ。結果、
「ま、いっか」
くるりと向き直って歩を進める。つかまれた部分をさすって感触をぬぐいながら出口を目指した。
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片々(へんぺん):
きれぎれになっているさま。
紫桃のホラー小説『へんぺん。』シリーズより
壱 「電車内の強引なナンパにご注意」
弐 「登場するとき妖は工夫している」
参 「イタズラを仕掛けたのは誰?」
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カクヨム
神無月そぞろ @coinxcastle
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