【ショートストーリー】モスグリーンのセーター
空には、半月からやや膨らみ始めたくらいの月が、少し傾いだように浮かんでいる。
湿気が多く、街並みや道路を走る車のライトが、細かい水滴のプリズムを通して見ているみたいに鮮やかだった。仕事帰りの夜だった。駅の階段を登り切った後、直之は電車のやわらかな、緑色のベルベッド生地でできたようなクッションの上に疲れた体を投げ出した。車内には化粧品と香水と汗と、それから何か食べ物のようなものが混じり合ったような匂いが漂っていた。いつもの匂いだ。外はもうすっかり暗くなっていた。
オレンジ