Cofui

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ほんの少しだけ、小説を書いてます。 noteでは日々の出来事、感じたことをなどについて、自分なりの思いをつぶやくイメージで書いていきたいと思います(時に創作も)。

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  • ゆるエッセイ

    ゆるくて、軽く読めるエッセイをまとめています。

  • 小説

    noteに投稿した小説をまとめたマガジンです。

  • 食にまつわるストーリー

    食事や食べ物にまつわるエピソードなどをまとめています。

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【ショートストーリー】モスグリーンのセーター

 空には、半月からやや膨らみ始めたくらいの月が、少し傾いだように浮かんでいる。  湿気が多く、街並みや道路を走る車のライトが、細かい水滴のプリズムを通して見ているみたいに鮮やかだった。仕事帰りの夜だった。駅の階段を登り切った後、直之は電車のやわらかな、緑色のベルベッド生地でできたようなクッションの上に疲れた体を投げ出した。車内には化粧品と香水と汗と、それから何か食べ物のようなものが混じり合ったような匂いが漂っていた。いつもの匂いだ。外はもうすっかり暗くなっていた。  オレンジ

    • 金魚のきんちゃん

       娘がまだ小学4年生だった頃に近くの夏祭りですくってきた金魚。  数匹いたのが徐々に減ってきて、そして最後の1匹がこないだ死んだ。よく生きたなあと思う。うちに来てから7年ほど生きていて、大きさも来たときに比べてかなり大きくなっていた。  妻はいつからかその金魚に「きんちゃん」と名前をつけていて、ぼくが「めすやで」というが「そうなん?」と答えその後もずっと「きんちゃん」と呼び続けていた。  玄関においた水槽に毎朝毎晩、えさをやり、何日かごとに面倒だなァと思いながら水を替えた

      • 【短編小説】札を投げる

         電車を降りると、凍えるような冷気がまとわりつくように顔を覆ってくる。口から吐き出す白い息はまるで、さらされ続けることにより抗いようもなく、かつ否応なしにすり減らされていく温もりを奪われた精神の一部のようだ。  私はもうマスクをすることをやめていたが、しかしながら新型コロナウイルスやインフルエンザの流行の名残により、未だマスクをつける人々は比較的多く存在しているのも確かだった。  改札に向かっていると、駅のホームをひとりの女性が歩いてきた。色が白く髪の長い女性だったが、私はそ

        • 【掌編小説】たそがれ時の交差点で

           山の稜線が淡くなりはじめたたそがれの時だった。  道の両側に植えられた銀杏の木は、太い幹の中から再びか細い枝を空に向けて伸ばし、小鳥の群のような小さくて黄緑色の葉を鈴なりに萌えいでだしていた。それらは冬の間に強靭な電気のこぎりの刃によって無惨にも大枝を切り取られ、まるで腕をもがれた彫像のようになっていた銀杏だった。  一台の黄色い自転車が目の前の車道をものすごい勢いで走り去っていった。その後を何台かの車が行き、それからゆっくりと走る青年の乗る自転車が来て、その後ろを走る車は

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        【ショートストーリー】モスグリーンのセーター

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          畳に寝ころびながら天井を眺める

           畳の上に寝ころぶのが好きだ。  畳の上に仰向けに両手を左右に大きく広げて寝ころび、背中で畳の少し温度の低いひんやりとした優しさを感じながらぼんやりとするのだ。杉の木でできた天井の木目はまるで命のゆらぎのように柔らかな曲線を描き、ぼくはその模様をなぞるようにしながら眺める。  畳の上に寝そべると、なんだか嫌なことがすべて忘れられるような気がする。リラックスして、まるで世界が自分だけのものになったような気持ちになるのだ。  子供の頃に住んでいた実家にも畳の和室があった。畳は

          畳に寝ころびながら天井を眺める

          【短編小説】オリオンと月の弦

          間違った電車に乗ってしまった。  車内がやけに空いている。なんだかおかしいなと気づいたときにはもう、扉は閉まったあとだった。  急行列車に乗るはずだったのに、何かに心がとらわれていたようで、その時ホームに入ってきた各駅停車の列車に考えなしに乗り込んでしまったのだ。  ーーー早く帰り着きたいときに限って・・・くそっ・・・  仕事がちょうど繁忙期に入り、この1週間は毎日帰りが遅くなっていたのだ。  明彦は小さく舌打ちをした。  明彦はコートの内ポケットからスマートフォンを取

          【短編小説】オリオンと月の弦

          ずっと同じ景色を見ていた

           先日、インフルエンザにかかった。  きちんと予防接種をしたにも関わらず、それでも感染し発病し、ぼくのウイルスがもとで家族全員が最終的にインフルエンザで寝込むことになった。  もちろんぼく以外の家族もみんな予防接種をしていたのに、だ。  程度の問題なのかもしれないけれど、こうでもあれば結局予防接種なんて単なる気休めでしかないのかもしれないな、などと考えてしまうわけだ。  ワクチンをしない主義の人に言わせると、ワクチンをした年に限ってインフルにかかるんだから、とのことである

          ずっと同じ景色を見ていた

          彼女の真っ赤な顔、それはまるで未来そのもののように

           「一緒に走ってくれへん?」  冬になると多くの学校の体育は持久走になる。これは今も昔もそれほど変わっていないようである。  例に違わず娘の学校でもそれは同じのようで、去年の暮れに1000メートル走を走ったそうだ。そして、次は25分間走り続けるということでどうも走るための体力をつけたいということのようなのだ。  ぼくに似て、娘も持久走が苦手なのだ。  正月に走ろうと言っていたのだけれど、正月は寝るのやら食べるのやらで何かと忙しくて知らぬ間に時間が過ぎ去っていたので、1

          彼女の真っ赤な顔、それはまるで未来そのもののように

          できること

           2024年が明けた元旦の夕方、能登半島に最大震度7の大地震が起こった。  私自身は丁度その時車に乗っていて、スマホが何やら警報を鳴らしているなと思い、一旦車を停めて初めてその事態を知ったのだが、能登半島からはかなり離れた関西地方であっても停めた車がぐらぐらと揺れるくらい大きな地震であった。  それから一週間と少しが過ぎたが、未だ余震も続き、被災地の生活はとても危険で厳しい状況が続いている。  被災された方々には心よりお見舞い申し上げます。  そのような中にあって、新

          できること

          2023年を雪国で閉じる 〜 noteの皆さん今年もありがとうございました(^^)

           国境の長いトンネルを抜けると雪国であった。  2023年に最後に読み終えた小説が、川端康成氏の「雪国」だった。  これまでずっと読みたいとか、いつかは読んでおかなければ、と思いながら読み残している本はたくさんあるが、この「雪国」もそのうちの一冊だった。  2023年は、比較的本が読めない年だった。体調を崩す時期も多かったのもその原因の一つだろうし、職場が変わり環境の変化に心と体を慣れさせなければならなかったこともあるかもしれない。  記録によると、今年読んだ本は27

          2023年を雪国で閉じる 〜 noteの皆さん今年もありがとうございました(^^)

          EvernoteからUpNoteへ ~ さよなら、緑色の象

           先日、ここのところ一部界隈で話題になっている? Evernoteというメモアプリを別のアプリに乗り換えた。  Evernoteは、緑色の象の横顔のアイコンが印象的で、割と気に入っていて長年使っていたのだが、度重なる仕様変更と、超強気なサブスクリプション料金設定を利用せざるを得ない状況になったので、もう乗り換え待ったなしとなってしまったのだ。  乗り換え先のアプリは何がよいか?  こういうのを探すのって、面倒だけど実はちょっと楽しくもある。  ぼくは意外に、ガジェット

          EvernoteからUpNoteへ ~ さよなら、緑色の象

          殺風景な寒い部屋で小さく息をもらす

           師走にはいり2023年、令和5年もあと残り僅かになった。  最近しばしば胸に去来するのは、(実際まだそんなことを考えるのははやいかもしれないが)あと何回桜が見られるのかなとか、スイカに塩をかけて「ああ美味しいなぁ」という感覚をあとどれくらい得られるのか、などという侘しい感慨である。  花見なんてものはそう毎年やるものではなし、そう思うとちゃんと桜をみる機会なんてこれまでも数えるほどしかなかったんだし、ああ本当に人生の中で桜をしっかり見る機会というのは本当に少ないものなの

          殺風景な寒い部屋で小さく息をもらす

          【短編小説】『詩と暮らす』から始まる小説:Moon light

           詩と暮らすというのは、まさにあの先輩のことだった。  大学時代、ぼくらは文芸部という、他の学生たちから見れば得体のしれないであろうサークルに属していた。  部室の中は、いつもタバコの煙とコーヒーの匂いの入り混じったような空気に満ちて、西陽が指す頃には妙に美しい靄のような光に支配されるその空間で、あるものはワープロをうち、あるものはパソコンで文書を編集し、あるものは部室にあるラクガキノートのようなものに自らの独り言を書き連ねていた。  ぼくらはそんなセピア色の世界の中で、あ

          【短編小説】『詩と暮らす』から始まる小説:Moon light

          若いエナジー

           この秋は、訳あって妻と娘と一緒に大学の文化祭めぐりをすることになった。  めぐり、といっても結局合計3箇所しか行けなかったのだが、どの大学の学生も、みな溢れんばかりのエネルギーを放出しており、それはぼくが遠の昔に失ってしまった大切なもののように感じられた。  模擬店や、軽音、ダンスなどを見て、ふざけ合う学生たちの姿に出会い、  「ああ、そうやった、そうやった」  などと、自分の学生時代と重ね合わせながら、懐かしさを覚えながらもどこか羨望の想いとともに彼らの姿を見ている

          若いエナジー

          【短編小説】海の向こう

           クモが出た。  夜、2階の部屋から扉を開けると、目の前の白い壁紙に大きめのクモがはりついていた。長くて細い10本の足を大きく広げ、一瞬だけその足のどれかをピクリと動かしたかのようにも見えたが、それからあとはじっと身動きをしなくなった。  隠れようもない白い背景の上で身を潜めるようにしながら、その複眼は静かにこちらの動向をうかがっているのかもしれない。あるいはどこか別のところを必死に見つめながら私という敵と目があわないようにしているのかもしれなかった。  朝グモは親の仇だ

          【短編小説】海の向こう

          たそがれ時にたゆたう

           夏の香りがまだ残る季節。  見上げると、かすかに黄色く色づいた細い雲がたなびくように広がって、空を複雑で繊細な色合いに染め上げている。  今夜は、カツオのたたきと美味しい日本酒でも買って、ゆっくりひとり酒を楽しむもう。そんな思いで、家を出て買い出しに向かう途中だった。  池の周りでは、何人かの人とすれ違う。散歩をする人、ジョギングをする人など様々だ。  テラスのようになったカフェの席では、2人の女性が談笑しながら池の方を眺めている。彼女たちを見ながら、    いいな・・

          たそがれ時にたゆたう