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「俺の短所って何?」から、息子の就活に思うこと

なぁなぁなぁなぁなぁ、って何度も「なぁ」を連発しながら、夕飯を作っている私の背中に息子が訊いてきた。

「俺の短所って何?」

はい?急に何なん?
わけわからんぞ。
よくよく聞いたら、エントリーシートをそろそろ書こうとしているらしい。

高専5年生、彼は就活真っ最中なのだ。

「長所はさぁ、いろいろあるやん。優しいとか、よく気がつくとか。短所がわからんのやわ。」
と、ぬけぬけと彼は言う。

よく言うわい!
まぁでも、末っ子気質全開に気が利いて助かるところはあるし、まぁまぁ優しいか。短所ねぇ…。適当過ぎるとか、細かいことを気にしないとか、書けやんよなぁ、それは。

本人を目の前に、あんまりひどいことを並べるのはかわいそうな気もするし、そもそも企業に出すのなら、書くことを選んでしまうのもわかる気がする。

短所かぁ、難しい。
息子をマジマジと見つめて、

「そういうとこ。ややこしいことを誰かに頼ろうとするとこ、それでしょ、短所は。」

「あかんやろ。それは書けやん。なんかいい感じの短所をちょうだいよ。」

なんや、そのいい感じの短所って。

「他力本願とかどう?四字熟語なら賢そうやん!そうだなぁ、あんたは『俺が俺が』じゃなくて『どうぞどうぞ』タイプなんだよなぁ、そこが私は好きなんだけど。」

「どう書けばいいんや、それ!しかも、そんな人を企業も採用したくないやろ。」

私の捻り出した短所を、息子はことごとく否定する。
そんな答えの出ないような話をしていて、「自分で考えるから、もう大丈夫。」と言って、彼は2階に行ってしまった。
はなから彼は私を当てにはしていなかったのだろう。

ちょうどいい短所って、なんだろう。
そんな短所、企業は欲しがるのかなぁ。
そもそも、短所は言い替えたら長所でもあり。
「適当」や「アバウト」は、「おおらか」とも「ポジティブ」とも言えるよなぁ。

それを書くことに、何の意味があるんだろう。


帰宅した夫に話してみる。

「そういう部分は、企業も適当にしか見てないやろ。だから適当に書いておけばいいんとちがうか?」

親子揃って、適当、適当って…。そういうとこ、似てるなぁ。
まぁいいか、適当に書くだろうから。


数日経ってから、息子に訊いてみた。

「エントリーシートに短所をなんて書いたん?」

「あ、あれ。ははは、そんなことを書くところはないよ。」

え?どういうこと?

彼が言うには、エントリーシートとは、それぞれの項目に対してまるで小論文のように、しっかりと文章で説明する形式らしい。
例えば、「自分の強みとその活かし方」「自分の苦手とその対応」「学校で学んできたこと」「自己アピールと希望動機」「資格や趣味について」などなど。

簡単な履歴書をイメージしていたが、全く違うものだと初めて知った。
彼の文章を読んだわけではないが、稚拙な文ではダメなので、専門的な知識も交え、かなり深く考え込まれた内容が書いてあるようだった。

バイトではないし、そりゃそうだよなぁって思った。


就職先についても、私たち親は彼に何にも口を出さなかったし、出せなかった。
夫は公務員だ。
私も昔は公務員だった。
長女は医療従事者。
つまり、我が家は誰も企業への就活をした経験がない。
それに、彼の学んできた専門についての知識が私たちにはないのだ。

「どんな会社?」という私の質問には、
「言ってもわからんやろ。」と彼は言う。

「何をやってる会社?」と訊いても
「ものづくり」とだけ。

それは存じ上げております、だよ。

最近になって彼が私と夫に、どんな分野で働きたいかを具体的に話してくれたことがあったのだが、聞いていても漠然とした感覚しかわからず、結局「やりたいことをやればいい」としか私たちは言えなかった。

進路については、彼の想いや力にすべて任せるようにしてきた。
きっと、就活を迎えるほとんどの学生が、そうやって自分で道を決めていくんだろうと思う。
学生時代の私も、そうやって仕事を自分で決めたのだから。


志半こころざしなかばで仕事を辞めることになり、長年専業主婦をしている私だが、一度だけ息子に人生の先輩としてのアドバイスをしたことがある。

インターンシップやいくつかの職場見学を経験し、それでも第一希望をどこにしようかと彼が迷っていたときのことだ。

「企業の見学から帰ってきた時に『めちゃくちゃワクワクしたわ。』とあんたが言った会社が、ひとつだけあったよね。もう、気持ちは決まってるんじゃない?」と。

彼は最終的に、条件や知名度よりも、そのワクワクを選んだ。


さぁ、もうすぐ面接。
決まれば、一年後には遠くの街で彼は生きていくことになる。


そんな時に出会ったこちらの作品たち。
胸に沁みます。





子どもが家を出てひとりで生きていく。
そんな時期の親の気持ち、子どもの気持ちが書かれた素敵なエッセイを読み、一年後を想像してもう涙ぐんでしまう。
気が早すぎるなぁ。




「適当」で「おおらか」な君のまわりには、なんだかいつも仲間が集まってくる。
だからどこに行っても、たぶん君は大丈夫だと母は思っている。

息子よ、がんばれ。



玄関で息子が靴を履いているところ。
なかなか写真を撮らせてくれないので、部活へ向かう後ろ姿をこっそり写真に撮り、お絵描きしました。




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