衛星通信

北海道札幌市の喫茶店「珈琲と衛星」の店主がお届けする衛星通信。 お店のことはだいたいI…

衛星通信

北海道札幌市の喫茶店「珈琲と衛星」の店主がお届けする衛星通信。 お店のことはだいたいInstagramに載せているので、ここではコーヒーのお供になるような読み物だったり、お店と関係のないことだったり、お客様との交流の場にできたらいいなと思っています。

マガジン

  • とことん混沌、いつも煩悶

    思ったこと、考えたこと、気になること、どうでもいいこと、つまらないこと、読んでも読まなくてもいいような店主の雑記です。

  • 衛星の勝手に映画ファンクラブ

    喫茶店もそうだけど、なくなってほしくない場所のひとつが映画館。 映画館に行く人がひとりでも増えたらいいなという願いで、映画館で観た映画の感想を勝手に書いています。 内容にはあまり言及せず、映画を見て考えたことを書いています。 公式サイトや予告編を見て行くか迷っている人の参考になったらうれしいです。 ※書いているからといって全部おすすめではありません。自分に合いそうな映画のヒントとしてどうぞ。

  • 読書感想文

    子供の頃に苦手だった読書感想文を大人になってやっと書いてみようと思います。

  • 私と珈琲と衛星ができるまでの地図

    珈琲と衛星という喫茶店が札幌の片隅にあります。どういう経緯で作ったのか、店主の自己分析や人生観を絡めて少しずつ断片的に語ります。関係ないようなエピソードでも、拾い集めたらきっと大きな一枚の地図になることでしょう。

  • あこがれの喫茶人

    格好よく喫茶店を使う素敵な大人を私はひっそりと「喫茶人」と呼んでいる。 あこがれ、目指す喫茶人の姿とはどんなものか、喫茶店に通う側の目線で紹介していく連載。

最近の記事

●自由な一石●

10月1日は国際コーヒーの日。 せっかくなのでコーヒーにまつわることを書いてみようと思うのだけれど、乱暴に投げた一石に思われたら嫌だなとも思っている。 コーヒー屋をやっているくせにと言われるのを覚悟で発表してしまうと、私はスペシャルティコーヒーが得意ではない。 これはそういう概念についてとかではなく、単純に味の好みとして得意ではない。 コーヒー屋のくせに本当に怒られそうなのだけれど、単純に味が好きではないのだ。 おいしさについて理解はしている。が、しかし好きではない。 こ

    • ●ヒューマン・ポジション●

      満たされているはずなのに空洞を感じる。 目に映る光景は美しく、足りないものもとりわけなく、悪意さえもそばに感じないはずなのに、どこか空虚を感じてしまう。 ノルウェーで最も美しい街と称されるオーレンス。 新聞社に勤めるアスタは休職から復帰したばかり。クリエイティブなパートナーと子猫とともに穏やかな生活を送る。 しかし心のどこかになんとなく空虚を感じている。 どこを切り取っても絵葉書のような美しさの中、私たちが感じている時間とはまるで速度が違うように、ゆっくりゆっくり全てが流

      • ●パターソン●

        日常の美しさが詩的に切り取られている。 スイートな部分もビターな部分も、プレーンなところも、日常というものはかくも美しいのかと気づかされる。 パターソン市に住むパターソンはバスの運転手。妻と愛犬とともに穏やかに暮らし、ひっそりと詩を描くことをライフワークとしている。 起床から一日の終わりまで、やさしくほほえましい日もあれば、ちょっとしたアクシデントに見舞われる日もある。いつも通りのリズムに乗って繰り返される。 目に映るものを拾っては繋ぎ合わせ、ノートに書き綴る。 木々の移

        • ●ナイト・オン・ザ・プラネット●

          観たことがあったかなかったか、思い出せぬままに観た。 5つの国の同じ時間に、タクシーの中で繰り広げられる物語のオムニバス。観たことがなかったようだと、途中までそう思っていたのだけれど、パリのタクシーが記憶の中から浮かび上がってきた。そう思うとローマでのロベルト・ベニーニの一人語りやニューヨークのヨーヨーという名前も、なんとなく同じ記憶の沼に沈んでいたように思う。 思えば20年近く前の記憶の沼、忘れていても仕方がない。そしてきっとその当時の私にはあまり響かなかったのだろう。

        ●自由な一石●

        マガジン

        • とことん混沌、いつも煩悶
          9本
        • 衛星の勝手に映画ファンクラブ
          29本
        • 読書感想文
          3本
        • 私と珈琲と衛星ができるまでの地図
          4本
        • あこがれの喫茶人
          6本

        記事

          ●時々、私は考える●

          人と関わることって、とっても怖い。 だって誰も本当の自分を理解してくれないだろうし、拒絶されたり変な奴だと思われたらもっと嫌だ。 この映画の主人公フランもそんなふうに考えている一人だ。 アメリカはオレゴン州の小さな港町アストリア。緑と海に挟まれた、どこか懐かしい雰囲気の静かな町。 職場とアパートを行き来する淡々とした毎日は、彼女にとって退屈でも幸福でもどちらでもないようだ。 ただ、人付き合いからはなるべく遠ざかっている。なるべく心を隠して波風を立てないようにしている。 そ

          ●時々、私は考える●

          ●鳥と雲と薬草袋/風と双眼鏡、膝掛け毛布/梨木香歩●

          梨木香歩の視点が好きだ。 自然や生き物を見つめる眼差しは、この世界という大きな集合体の中の私たちという小さな存在が、今この一点にあるということを教えてくれる。 決して卑下せずそして驕らず、あらゆる生命と共に生きているということを真っ直ぐ見つめている。 私たちが口にしている土地の名前には、当たり前だけど由来がある。 読んでそのままその場所を表すわかりやすいものもあれば、一体なぜと不思議に思う名前もある。 この本は特にその後者について梨木さんの視点で考察したり楽しんだり思いを馳

          ●鳥と雲と薬草袋/風と双眼鏡、膝掛け毛布/梨木香歩●

          ●35歳の決意●

          今後の人生、何をして生きていこうか。 誰にも寄りかからず、自分の足だけで立っていられるようになりたい。 自分で店をやるのはどうだろう。 経営なんてことができる自信はないけれど、一人で喫茶店をやって生計を立てている人はたくさんいる。しかも喫茶店のマスターにはちょっと一癖あったり変わっている人もいるから、もしかしたら私にもできるのではないだろうか。 雇われているのではないから定年もなく、体が動く限り続けられる。私一人が細々と食べていく分にはなんとかなるかもしれない。 そして何

          ●35歳の決意●

          ●ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ●

          「わかり合う」ということは人間ができる素晴らしい体験のひとつだ。 家族や友人や恋人でなくても、わかり合うことができる。それぞれが全く違う事情や悩みや孤独を抱えていても、わかり合うことができる。 それは心を癒し、目に映る景色を変え、明日の力になる。複雑で厄介で混沌とした思考を持つ人間にとって、とても素晴らしい体験と言わずなんと言うのだろう。 1970年の12月、ホリデーシーズン。誰もが待ち望む休暇に「置いてけぼり」された3人の物語。 全寮制の男子校の生徒アンガス、監査役の教師

          ●ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ●

          ●風が吹くとき●

          個人である時、戦争を願うものはいないだろう。 しかしそれが集団になり、国になった時、境界線は引かれ外側を排他してしまう場合がある。そしてそれは時に争いとなって憎しみや悲しみを生む。 この原作が書かれたのは1982年。アメリカとソ連の冷戦時代である。 いつ核戦争が始まってもおかしくない状況で、もしそうなってしまったらという想像から書かれた物語。 私たち一人ひとりは平和な生活を願っている。しかし所属している集団が、国が戦い始めてしまったら願いは無力である。 なぜだろう。生まれ

          ●風が吹くとき●

          ●マグダレーナ・ヴィラガ●

          閉ざして閉ざして閉ざして、心は奥深いところへ。 マグダレーナ・ヴィラガこと娼婦のアイダ。 彼女の目は開いたまま何も映そうとしない。 機械のように、物になったように、彼女は生きる。 もうとっくに壊れてしまっているのかもしれない。 壊れて見えなくなってしまった心から言葉が漏れ出る。意味を持たないようにも感じるし、それこそが真理のようにも思える。 現実はいったいどこにあるのか。目の前にあるのがそれなのか。だとしたら憂いと悲しみに満ちている。 それは彼女だけでなく、現代に生きる心

          ●マグダレーナ・ヴィラガ●

          ●ともしび●

          ともしびがまたひとつ消えようとしている。喫茶店のことである。 好きな場所、また行きたいと思う店は、きっと"ともしび"のように心に明るく残る。しかしどんな場所も永遠にそこにあり続けることはない。どんな理由であれ、遅かれ早かれいつかはなくなってしまう。 札幌に開業して17年目を迎えるBBCこと「Brown Books Café」が閉店してしまうという。つい先日、映画を観る前に立ち寄ったばかりだ。 いつも時間ギリギリで映画館に滑り込むのがほとんどの私だが、その日はちょうどコーヒーを

          ●ともしび●

          ●フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン●

          アポロ11号からの月面着陸の中継映像はフェイクだったのか、という噂を映画化した今作。 私の記憶では2000年代の半ばくらいにこの噂を知ったように思う。 全世界が感動に包まれた月からのあの映像がまさか偽物かもしれない、という衝撃。 リアルタイムで中継を見た私の父は信じようとしなかった。それほど当時の人たちに夢と希望を与えたのだろう。 それを、疑われた当のアメリカが映画化した、というのが興味深い。当然NASAは許可したんだよね。 実際の出来事であるノンフィクションの部分と、もし

          ●フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン●

          ●墓泥棒と失われた女神●

          原題は「La Chimera」、キメラ=幻想を意味している。 1980年代のイタリア・トスカーナ地方の田舎町で墓泥棒をして生計を立てるアーサーと仲間たち、彼らに関わる人々。 それぞれが持つ幻想が美しい自然や街並みの中に見え隠れする。 新作映画なのに、古きよき映画を観たような、映画のよさがぎゅっと詰まった作品。 久しぶりに「映画を観た!」という感覚になる。 早回しや上下の反転、アクセントのように入るターコイズブルーなど、視覚効果の演出もいい。 登場人物も魅力的で、特にイタリア

          ●墓泥棒と失われた女神●

          ●村上ラジオ2 おおきなかぶ、むずかしいアボカド/村上春樹●

          私が初めて読んだ村上春樹の著書は「ノルウェイの森」だ。日常的に本を読む習慣のない両親の、数少ない書籍の中にそれはあった。発売当時に社会現象になったくらいの小説なので、そんな我が家の書棚にも鎮座してあったというわけだ。 その内容と文体から想像して、作者はすらっとしたハンサムな優男という印象を受けた。しかしその後、彼のエッセイを読んでその想像は全く外れているとわかった。とくに容姿端麗でもモテそうでもなく、安西水丸が描くイラストの雰囲気そのままの、親しみやすい普通のおじさんだった。

          ●村上ラジオ2 おおきなかぶ、むずかしいアボカド/村上春樹●

          ●WALK UP●

          夢想するための映画なのかもしれない。 かわいいこぢんまりとしたアパート。 韓国のいわゆる古ビルなのだろう、モールガラスが入ったドアやペンキを塗っただけのような壁、レトロで無駄のない美しい建物。 地下1階、地上4階建のモノクロームのその舞台では、同じ登場人物で4つの少しずつ違う物語が展開される。 繋がっているようでそうでない、もしそうだったらというような、各々の空想のような物語。ドアのロックを外す電子音が幕間のように鳴る。 キュビズムのようだと思う。ひとつの建物を様々な角度

          ●おばあさんになりたい●

          心の扉が開いているのが見える人がいる。 そういう人は初対面でも話しかけやすい雰囲気を持っている。どこがどうというのは難しいけれど、言動や佇まいでなんとなくわかる。そして通り一遍の受け答えではなく、素直な気持ちで話しているのだというのがわかる。 対して、何度か会っているのに毎度はじめましての雰囲気をまとっている人もいる。心の内を見せないように扉を閉じて緊張しているのがわかる。それが嫌だとかいう話ではなく、ただそう感じ取れる。 不思議だなと思っている。これは性格的なものなのか、

          ●おばあさんになりたい●