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組織設計・運用実務② 組織設計の具体的な進め方

「組織をどのように作れば良いのか?」というテーマについては教科書的なものが乏しく、実際にはこれといった正解があるわけでもありません。頭を悩ませている方もいると思いますし、深く検討することもなくこれまでの組織図をなぞっている方もいると思います。

そこで、今回は組織図の具体的な設計の仕方について触れて行きます。

前回にも述べたように組織体制には経営戦略が明確に反映されるべきですが、そうでなければ一般的には、「役割(機能)の棲み分け」もしくは「レポートライン」、「癒着を防ぐためのローテーション」という効果に留まり、事業計画を達成させるといったインパクトには遠いものとなります。

ですので、始めにお伝えすると、「単に組織図を変えるだけでは特段何も解決しない」と考えておいてください。経営戦略を反映した組織体制とするには本来、組織図の周辺に以下のような様々な機能を据える必要があるのです。
図1.ハード面の組織設計全体像

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たとえば、組織図を描くと大抵の場合「人手が足りない」「ポストを任せられるだけの人材がいない」ということになります。そこで、人員計画の話が出てきます。外部から人を採用するか、社内で育成するか、外注するか、といった判断が必要となるのです。それができないと社内で「兼任の嵐」になる可能性が出ます。

また、組織図だけが走ると、そこには秩序もルールもありませんから、各管理者が自分のやりやすいように仕事を進め、相性の良し悪しで人を裁くようになります。結果として人の出入りが頻繁になり、トラブルが発生するでしょう。そこで、どう動けば良いのかの規律・行動ガイドラインの設定・浸透や、定期的な現場モニタリング(チェックと指導)が必要となります。赤信号を無視しまくっている地域があるとしても、警察が適宜パトロールしたら余計なことができなくなるのが人間です。ですから、規律を正すためのガイドラインとチェックは必須といえます。

ここまででお分かりの通り、「組織図を設計したら後は皆が勝手にやってくれる」なんてことは絶対に!あり得ないわけです。

もし組織図を設計するだけで全てが上手くいくことがあれば、そう思い込んでいるだけで全く現場を知らない(そして通常は現場の管理職によって臭いものに蓋がされている)か、またはよほど優秀な部下が揃って前線を守っている、ということになります(後者のほうはあまり聞いたことがありませんが…)。

ここで上記の規律・行動ガイドラインや人員計画について逐次触れていると、本筋から離れて遠回りになってしまいますので、今回は組織設計の仕方について具体的にお伝えするとします。


教科書的な組織図の作り方

組織図は、事業計画が速やかに達成されるように、指揮命令系統や責任の所在がどうなっているのか、どのような事業プロセスになっているのかをわかりやすく表現した会社の地図のことです。組織図作成の手順としては分化(機能を分けていく)と統合(機能をまとめていく)を繰り返しながら、大まかに以下の流れで作成されます。

①事業の機能を分化・統合させて部門を作る
②部門の中で機能を分化・統合させて部署を作る
③部署の中の機能を分化・統合させて階層(役職)を作る
④現状の人員を当てはめ、調整・調達して仕上げる

それでは、具体的にどのようなことを行なうのかを見ていきましょう。

①事業の機能を分化・統合させて部門を作る
事業プロセスは各業界のビジネスモデルによって異なりますが、たとえば製造業で言うと「原料調達」→「生産」→「出荷」→「販売」→「保守・メンテナンス」といった流れを辿ると考えられます。ここでいきなり細かい作業レベルで切り分けるのではなく、あくまでも業務レベルでの機能をブロック単位に分けていきます。仮にこれを「業務ユニット」と呼んでみましょう。

この業務ユニットは、会社の中で「○○しなくてはならない」といった類の役割と考えることもできます。上記の例でいうならば、円滑に事業を運営していくには「安全な原料を安価・大量に買い付けなければならない」「原料を適切なタイミングで入荷しなければならない」「原料を受け入れたら品質基準をチェックしなければならない」といった具合に作業が発生していきますが、これらをまとめて「生産部門が行うこと」などと決めるわけです。

生産部門には他にも生産計画を立てたり、実際に製造を行ったりといろいろな役割が出てきますから、実際の組織図上では生産部の購買課などが行うようになるかもしれませんが、ここでは「生産部門の役割にしておく」ということにします。

業務ユニットを元に部門を構築する
事業を構成する業務ユニットを元に部門を組み立てていきます。
各部門・部署の職務機能(どこが何を担うか)を決めることができます。

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そうすると、生産部門の直接的な業務だけでなく、業務をするための「人の採用や教育をどうするか?」「数字の管理をどうするか?」「情報共有の仕方や統制をどうするか?」といった業務が出てくるようになります。それを同じ生産部門で行うのか、管理部門などの他の部門が請け負うのか、または一部請け負うのか、それを決める必要があるわけです。

このようにして、「生産部門」や「営業部門」といった部門に業務ユニットを振り分けていき、たとえば入退社の書類をまとめたり外部業者の伝票を集計したり小口現金を管理するなど必要最低限の事務担当を生産部門の中に置くなどとします。

このようにしてできた事業プロセスにおける職能別組織がライン組織です。組織規模が大きくなると、事務担当者を集約させて「管理部門」とし、本社機能の中に紐づけて生産部門と営業部門から事務の権限を委譲される形で成立させると、ライン-スタッフ組織となります。さらに事業規模が大きくなり、商品やサービスを提供する一連の事業プロセスで括ったり、対象顧客を括ったりして独立した事業組織ができると事業部制組織となります。

このほか、分化した複数の部門を統合して一つの部門とすることもあります。生産管理部と生産技術部を統合して生産部とするイメージです。これは、分化しても一つの組織としてはまだ十分な成果を期待できない場合や責任者やリーダー格が不在のために経営トップや経営幹部が兼務せざるを得ない場合に行います。また、リストラを目的として強引に統合させてポストを減らすということにも使うことがあります。

②部門の中で機能を分化・統合させて部署を作る
部門の中には、組織規模が大きくなるにつれて、それぞれ役割を異にした機能として「課」や「グループ」といった部署を存在させることになりますが、事業形態やサービス提供方法に合わせて独立・分化させていきます。その際、組織図に直接書き込めれば各部署が何を担当しているのか、何に責任を持つのかを明記するのが好ましいといえます。明文化しているほうがすべきことがハッキリするからです。

独立・分化させても機能を果たせないと判断すれば、隣接する部署との統合を行います。過去の経験からすると、あまり細かく部署を分けすぎるとかえって指示命令系統が混乱し、組織間のコミュニケーション障害が生じるので一定範囲で留めるほうが望ましいといえます。

部門の役割範囲を明示的にする
以下のように部門や部署が何を担うか、はいろいろなパターンがあるので、
業務ユニットであらかじめ明示しておく必要があります。

以下の図では、同じ「営業部」と言っても、どこまでの役割範囲を持たせるかによって「全く中身が異なる」ことを示しています。見てわかる通り、「何をする部署なのか?」きちんと明示しないと誰もわからないですよね!?

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具体的には、以下のような部署の作り方があります。これに関しては、以前作成した記事(経営組織論⑥ 管理スパンと基本的な組織形態)があるのでそちらを参照されてください。

・職能別組織化
生産部の下に「生産管理課」「生産技術課」「品質管理課」といった業務に特化した職能別組織を置く方法です。これは製造業に多く見られ、役割範囲が比較的わかりやすいといえます。
・地域別組織化
「関東支店」「中部支店」「関西支店」といった地域特性に合った組織を置く方法です。ごく一般的な形態で、営業拠点を開設するうえで足がかりになることが多いといえます。
・製品・サービス別組織化
「日用品売り場」「食品売り場」「飲料売り場」といった製品やサービス特性に合った組織を置く方法です。小売業で一般的に見られる形態です。
・人数による部門化
「営業第一課」「営業第二課」といった管理人数に応じた組織を置く方法です。
・時間による部門化
「製造第一係」「製造第二係」といった交替勤務に合わせた組織を置く方法です。

たとえば、少し面白い例(小売業)でいくと、この会社はおおまかに本部と店舗に分かれていますが組織をPDCAで括っているのです。
店舗はもっぱらDoを行うわけですが、PlanとActを本部の商品管理課や営業企画課、品質管理課が担い、Checkを業務監査課が担っています。つまり、日々の業務(商品管理や接客、レジから勤怠に至るまで)でミスがないか(ルール通り適切に行われているか)を日々確認しているわけです。通常は、各部門がPlanからDo、Check、Actまで一連を担うことが多いですが、実際に業務を行わせるとPとDばかりに集中してしまってCやAがおろそかになる、ということがあります。そこで、あえて役割を切り離して業務を行わせているという具合です。また、これにより第三者による牽制機能が働いて公平性が発生します。


③部署の中の機能を分化・統合させて階層(役職)を作る
部門や部署、その下にくる課やグループには、それぞれ階層で分けられた指揮命令系統が存在することになります。大まかに「目標設定と進捗管理」→「企画」→「運用」→「オペレーション」に分かれるのですが、各部門でこのマネジメントからオペレーションまでを十分に機能させ、サービスが提供できるよう階層を分化(又は統合)させる必要があります。

事業計画が実現するように「目標設定」と「進捗管理」を行うことを「マネジメント」とします。「企画」とは、業務上の問題を発見して仕組みとして改善したり、新商品・新サービスを企画し導入することです。「運用」とは、「企画」から降りてきた業務フローや新商品等が正しく遂行されるように現場に落とし込み、運用管理することです。「オペレーション」とは、定められた方法で正しく業務遂行することです。これらがうまくかみ合うと階層が機能する、ということになります。

部署内の階層別役割を役職や等級で分ける
部署の階層別機能(誰が何を担うか)を決めます。
この役割が、後のキャリアパスや等級(役職)制度につながります。

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ただ、実際の組織はというと、企業のほとんどで「管理職が管理できない」という事象が発生しています。これは、本人の言い分からすると「現場業務は好きだし経験があるからできるけれども、人の育成や管理、数字の管理は別にやりたいことではないし、できることでもない。特に人は面倒なので、関わりたくない。自分がやりたい現場業務だけをやりたい。」という状況になっています。実質は専門職の、名ばかり管理職が激増しているのが現代社会といえます。

ですので、「マネジメント」は何をする役割で具体的にいつ何をするか、「企画」は何をする役割で具体的にいつ何をするか…といった形で部署ごとに明確化していくと良いでしょう。これが無いために、各人が思い思いに動いてしまって牽制が効かない状況になっているといえます(これを役職ベースに職務分掌として作成すると良いわけです)。

さて、下図のように、組織規模が小さいうちは経営トップや経営幹部がマネジメントと企画・運用までを兼務し、オペレーションのみを従業員に任せることが多いといえます。組織規模が大きくなってくると、「運用」まで任せる、さらに「企画」まで任せる、そして「マネジメント」まで任せるという形で階層を作っていきます。

組織規模によって担当範囲を変えていく
マネジメント~オペレーションまでの4階層を誰が行なうべきかを決め、
最終的な組織図へと落とし込んでいきます。

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配属にあたっては、人は経験し学習することで成長するという仮説に基づいて、徐々に上位の指揮命令階層を経験させることが良いと言えますが、それは本人に対するフィードバックがあって初めて機能するものです。元々、個人の資質には能力や個性のバラつきがあるため、「マネジメント」「企画」「運用」「オペレーション」のどれに向いているのか、という判断も必要になることを理解しましょう。

マネジメントや企画に向かない従業員を無理矢理にマネジメントや企画に据えてしまうと組織力の低下を招きますので、運用やオペレーションをメインとした優秀なプレイヤーとして栄誉職を与えたうえで評価・処遇するのが得策といえます。

④現状の人員を当てはめ、調整・調達して仕上げる
上記の①~③を、事業戦略と人事戦略をベースに組み立てていき、その組織図に現状の人員を当てはめます。そうすると、不足する人員や重複するポジションが出てくることになります。多くの場合、「人員が不足する」ということになりますので、採用計画が必要になります。実際には、退職などによる欠員補充などが加わりますから、より詳細な人員計画が必要になるといえます。

最終的な組織図への落とし込み
組織図だけではパッと見で役割がわからないので、各部署の業務
ユニットを認識できるようにする必要があります。

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また、従業員の実力と適性をベースに事業計画がスムーズに実現できるか、成果を出せるかを冷静に判断する必要があります。多くの場合、「思ったように成果を上げられない」ということになりますので、育成計画で補完を検討します。

組織図が理想を求めすぎて現状と乖離しすぎると後述するような注意事項に該当し、狙ったような事業成果が上がりません。現実は現実として受け止めて、できる範囲の理想を組織図にするようにしましょう。

上記の組織については、どのような組織形態を取ろうとも、「必要な役割分担と共通認識」ができていれば一定は機能してくれます。

組織図を作成する際に注意すべき点

①ミッションに応じた階層や部門にする
階層や部門には、事業計画を達成するための必要なミッションが存在するようにします。明確な役割や目標が決まっていないと、何をすれば良いのかわかりません。映画や演劇でもそうですが、役割が決まっているから演じることができるのです。階層については職務権限で、部門については職務分掌でしっかりと定めるようにします。
②組織図上の部門とその長には責任と権限を付与し任せる
各部門の長である責任者や役職者には、事業計画に貢献するために必要な責任と権限を付与し任せます。具体的には職務権限で明確に定め、管理職として求める成果責任と権限を継続的に落とし込みます。これができていないと、経営トップが「管理職としての自覚が足りない」とぼやくことになります。
任せられない場合は役職をつけないことが賢明ですが、育成段階にある責任者には「判断と決定をさせ、承認は責任者の上長が行なう」ようにします。なぜならば、経験値が不足しているために判断ができないケースが多いので、「なぜそうしたのか、何のためにそうしたのか」という経験を積ませることで判断基準や高い視点を養うようにします。
③特定の従業員のための組織を作らない
事業計画の達成に貢献できないにもかかわらず、「古参社員だから」「その昔、会社を支えてきたから」「よく言うことを聞いてかわいいから」といった理由で部門の長に据えるのは、会社のためになりません。部下が意欲を無くし、事業計画達成に支障が出ます。
人体で言うと、関節部分を役職者が担うことになるため、そこで血流が止まるとその下が壊死を起こすのと同じと考えてください。もし、どうしても役職に据えないといけないのであれば、担当部長や専任部長といった専任職制を取って個別のミッションを与えるようにします。
もし、経営トップの「判断がつかない」のであれば、現場従業員から評判を聞くと良いです。うまくマネジメントできている部門の従業員は上司を悪く言わないからです。
④階層や部門を増やし過ぎない
階層や部門は、役割ごとに分けるのが原則ですが、部門を細分化し過ぎると縦割りになりセクショナリズムとガラパゴス化が生じます。また、階層を細分化し過ぎると情報が現場まで伝達されなくなります。組織のライフサイクルを見極めて階層や部門を設定しましょう。これは、人事制度の等級制度とも関連のある事項です。
⑤兼務を増やし過ぎない
階層や部門が増えた結果、必要な人員が足りずに兼務が増えるといったことがあります。兼務すると、その分余計なコミュニケーションコスト(会議や目標管理、決裁事項等の管理工数)が増えます。大抵の場合は業務が煩雑化するので事業計画の達成が困難になります。兼務が増えすぎる組織図になるようであれば、階層や部門を減らして統合するようにしましょう。
⑥組織図をコロコロと変えない
組織図が変わるということは、ミッションの変更が伴う(つまり、指示命令系統や業務プロセスが変更になる)ということです。それが一年に一度であれば問題ないでしょうが、1~2カ月おきに変更になるようであれば、現場従業員がその情報書き換えに頭がついていかなくなるのは目に見えているため、業務上のミスが生じやすくなり事業計画の達成が困難になります。
組織図を変更する際は、その目的を明確に伝えたうえで、ミッションとそれに伴う指示命令系統や業務プロセス、評価項目等が変更になることを伝えて理解、納得させましょう。

さらに進んだ組織図としては、各部門の業務フローが会社全体で一瞥できるように工夫したものや、組織図を全体図と部門とに分けて業務マニュアルや業務フォーマットと連動するように工夫しているケースもあります。組織図を見れば会社の全体像が把握できるというレベルにすれば、従業員が自部門と関連する組織との業務プロセスを理解できるようになり、組織の一体感はさらに高まることになります。

以上となります。

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