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組織設計・運用実務① 組織は経営戦略から生まれる

「2~3年前も似たような組織体制だったよね?」こういう話をよく聞きます。

通常、多くの人事責任者や担当者は、「組織体制や経営戦略は経営者が考えるべき専権事項だ」とか、「そんな大それたことは人事にはできない」と考えるのではないかと思います。これは規模の大小を問わず、そのような考え方の企業や担当者がほとんどです。もちろん、経営者も人事部門に組織体制の構築を任せるところはそれほど多いとは言えず、多くは取締役会等役員の中で、経営企画室のような部署の提案を受けながら決定していきます。

しかし、いざ経営者から新しい方針・指示と共に組織体制図が下りてくると、現場からは「こんな市場環境を無視した組織体制は無いだろう」とか「いつも似たような組織改革で終わっているのは、経営者の組織に対する考え方が変わらないからだ」「目標だけ引き上がって人員もシステムも何もテコ入れが無いなんて、経営企画室は何をしているんだ」といった声が漏れ伝わってきます。

そして、現場の納得感が無いままに「方針だから」とやっつけ仕事をするので、やることは例年と変わらず組織変革活動はマンネリ化し、経営者の想いに従業員が表面的に付き合う、という茶番に終わるのです。

多くの場合、現場従業員は「組織体制がマズい」と課題を認識していながら、予算や人員が不足していることにかこつけ、見なかったことにして蓋をします。これは、従業員のほとんどが、「経営者に対して声を上げることは体制批判である」と認識しているからですが、それと同時に「かといって対案が出せるわけでもない」と考えているからであり、結果として経営者からの評価が下がることを恐れて何も言わずにいます。

経営者は経営者で、「言いたいことがあれば言えばいい」と言うこともありますが、実際に言われると頭にきてしまって「お前はやるべきことをやってないだろう」としかり飛ばすこととなり、結果的には部下による体制批判となってしまってややもすればその部下の評価が下がることになるわけです。

従業員の多くは批判することはなく、経営者や上司の態度・姿勢・様子をうかがうだけで、変革のためのアクションを起こすことは少ないといえます。そして、若手人材がその状況にうんざりして転職していきます。経営者も悪いですが、人事も現場も悪いですよね。連帯責任の結果がこれです。

昔ならこうした遠慮は、「ぐっとこらえて物申さぬことが美徳」として捉えられていたと思います。しかし、環境変化が加速的に早くなってきているこの時代においては、例年似たような絵を描く経営者と、現実を理解しながらその絵を修正しない従業員との関係は、企業経営そのものを窮地に追い込むことにしかなりません。

では、どうすれば良いのでしょうか?
それに応えていくのが、これからお伝えしていく実務的なお話です。

1.組織は経営戦略(事業戦略)に従って構築する

「組織は戦略に従う」とはチャンドラー(1962)の名言です。「どういった組織体制にするのか」というテーマは、経営者の経営戦略や事業戦略に基づくことになります。

では、戦略とは何か、といえば深みにハマりそうなので、ここでは簡単に「将来のあるべき姿に向けてストーリーを作り、そのストーリーに向けて資源を振り分けて仕組みや体制を作っていくこと」とざっくり考えましょうか(現在はコアバリューに従って大枠のストーリーを描き、環境変化に都度合わせて修正をかけるでしょうが)。

たとえば、10億円でも100億円でも良いですが、そんな売上規模の会社があるとします。そこの経営者が「5年で売上を10倍にするぞ!」と言った時に、どう売上を作るのか?という話になります。法人向けのサービスを個人向けにも展開するのか、直販だったものをFC展開するのか、リアル店舗で販売していたものを通販にするのか、いろいろと山の登り方はあるわけです。

では、仮に「リアル店舗だけでなくネット通販もしよう」と決めたとします。そうすると必然的に、「ネット通販単体でいつまでにいくらの売上にする」という話が出てきますよね。次に、「ネット通販で何年目までは赤字だけれども、何年目以降は黒字にする」という利益計画を立てることになります。

そして、「ネット通販事業を維持拡大していくために、どのくらいの人件費を投じて、どんな役割を担当する人が何人必要」という話になってくるのです。ここの部分が組織体制の話といえます。

ここまで読んで、それほど違和感はないと思います。たしかにそんな感じだよね、と。

ただ、実際に考えてみると、いろいろつまずく点が出てくるわけです。

①会社全体の利益目標が、従来のリアル店舗のみの時と比べてネット通販が赤字を垂れ流すために達成しづらくなる、ということ。リアル店舗側からは「自分たちが稼いだ利益を食いつぶすな」という反発が出ること。

②ネット通販担当者が社内で話を進めようとしても、リアル店舗で築かれた強固な社内ルールが適用されてしまい、上手く事業を進められないこと。また、赤字事業ということで各所からの風当りが強いこと。

③リアル店舗とネット通販の顧客が奪い合いになってしまうこと。

④そもそも役割を担えるだけの能力や経験を持つ人がそう簡単に採用できるのか、ということ。人材が採用できない場合に、外注に出すならいくらかかるのか、またはイチから育てるならばどれだけのリードタイムが必要なのか、ということ。

⑤リアル店舗とネット通販の業務を同じと考えても良いのか、異なる給与テーブルを取った方が良いのか。その場合、どのくらいの設定にするのが良いか。

ちょっと考えるだけでもこれだけ出てきます。本当に売上を伸ばすのであれば組織規模も大きくなりますから、採用から教育までがスピーディに行われる必要があり、また情報も錯綜しないように統一化を進めて行く必要があるでしょう。これらは大きくなってからでは間に合わない性質のものです。

しかし、何も考えずにスタートされることが往々にしてあります。経験がないのであれば仕方ないにしても、問題なのは現場で不都合が生じた時に、現場にその解決を放り投げて誰も向き合わないことです。ですから、不満が不満を生む様相を呈してしまい、ほころびが生じ、結果的に空中分解することとなって事業が軌道に乗りづらくなるでしょう。

こうした時、私たち自身が経営者ならばすぐに判断して決断を下すかもしれませんが、中間管理職層や担当者層では物申すことが難しくなる可能性があります。(ですから、経営幹部層が中間管理職層とやり取りしながら、どう判断・決断するかについてレクチャーしつつ、日頃から鉈を振るっていくことが大切といえます。)


2.人事フローをベースに組織課題を発掘する

では、実際に経営戦略(事業戦略)によって組織が変わると言っても、どのようなパターンがあって一体何をどうすれば良いか?を説明しようとすると不可能な状態に陥ります。業種業界、組織規模、風土や文化を始めとして多様な変数を考慮に入れなければならないからです。

また、上記に挙げたような「壁」については経験やセンスがあれば発想として出てくるでしょうが、そうでない場合は何らかの手がかりを参考に考えていかざるを得ません。そこで、私たちが「人事フロー」と呼んでいる人事業務プロセスをベースに考えることをご紹介します(以下、図1参照)。

図1.人事フロー(日本人事技能協会作成)

大まかに説明をすると、ミッション・ビジョン・バリューと事業戦略・方針(インプット)が川上、そして目標管理や労務管理の結果と退職(アウトプット)が川下、という形となります。

イメージ的には、川上が変わっても川中が変わらなければ、川下は変わることがありません。逆に、川中が変わっても川上が変わらなければ形式が変化するだけで川下に変化は起こりづらいと言えます。また、川下だけを対症療法的にちょこちょこ変えたとしても川上と川中が変わらなければ堰き止めることはできません。つまり、川上と川中、川下が上手く一体となるように変化・調整する必要があります。

具体的には、川上である事業戦略が変わる際には人事フロー図を参照しながら、「組織設計をどうするか?」「人員計画をどうするか?」といった具合に検討していくと良いです。

つまり、あなたの会社の事業戦略が変わることで…

①組織設計をどうするか?(目先と今後の想定)
②人事に関わる方針(ポリシー)を変える必要があるか?
③人員計画をどうするか?(目先~3年先の構想くらいまで)
④人員計画に必要な人材をどう採用していくか?
⑤思ったように採用ができない場合、どう補填するか?
⑥人員計画に必要な人材をどう育成していくか?(目先~3年先の構想くらいまで)
⑦何を目標にどう進捗管理するか?どう目標達成させるか?
⑧どのようにコミュニケーションを取り、労務管理して不要な退職を防ぐか?
⑨誰がどのように評価(フィードバック含む)して実務能力を引き上げるか?
⑩業績に対する人件費をどう管理するか?

を検討していきます。

それでは、次回から具体的な組織設計についてお伝えしていこうと思いますので、フォローがまだの方はぜひ「フォロー」してくださいね。
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