真冬の蝉
いつもの公園を歩いていたら
どこからともなく蝉の鳴く声がした
こもったような羽ばたきが
頭上をかすめて飛んでゆく
わたしは空を仰ぎ
クルクルと身体を回転させながら
蝉の行方を追いかけた
見つけた
まだ枝葉の少ない
若い桜の木に止まっている
小ぶりな黒い胴体を
前後に震わせながら
あたり一体にその声を鳴り響かせて
真冬に蝉がいるなんて
一体どうしてなんだろう
つかまえたい
そう思ったけれど
きっと手では捕えきれない
自宅に虫取り網があったかもしれない
そんな思いを巡らせながら
写真を撮らなきゃと我に帰ったのも束の間
蝉はあっという間に
どこかへ飛び立ってしまった
あぁ 行ってしまった
真冬に生きるめずらしい蝉を
みんなにも見せたかったのに
そして視界はぐにゃりと曲がり
わたしの脳内へ溶けるように流動していった
ぼんやりとうっすらとこの目に映るのは
見慣れた天井の白
なんだ そうか 夢だったのか
突然現れ
消えた真冬の蝉よ
知らぬ間に
この手からこぼれ落ちている
本当に生きたかった
わたしの命のひとひらよ
ご覧いただきありがとうございます✨ 読んでくださったあなたに 心地よい風景が広がりますように💚