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「幽霊」という言葉はいつからあるのか

二松学舎大学文学部シンポジウム「幽霊の歴史文化学」に参加するために、二松学舎大学学術叢書『幽霊の歴史文化学』を読んだ。

あらかじめ本を読んで勉強したことで、研究報告を聴くためのモチベーションが爆上がりした。予習というのは、モチベーションをあげる意味でも効果的なのだということを実感した。

シンポジウムに参加するのは初めてだったから、どんな感じで進むのかいまいちよくわかっていなかったけれど、一言で言うと大学の授業みたいな感じだった。

途中、悪い意味で大学の頃を思い出して、意識が明後日の方向に飛んでいってしまうこともあったが、興味深い研究報告ばかりでかなり勉強になった。レジュメを配布してくれた上に、今後なんらかの形でアーカイブを残してくださるということなのでありがたい。


前置きはこのくらいにして、ここからは、本の内容で特に興味深かった部分について記録していきたい。

『幽霊の歴史文化学』では、人びとが幽霊をどのように感知し、それを表彰するためにいかなる工夫をしてきたのかを探ることで、日本人の精神世界を浮き彫りにしていくことを目的としている。

「幽霊」という言葉からオカルト的な怪しい雰囲気を感じる人もいるかも知れないが、これはあくまで学術書である。霊感があるとかないとか、幽霊がいるとかいないとかなんてのはこの本においてはどうでも良いことなのだ。だから、オカルトに拒否反応を起こしてしまう人も安心して読んでほしい。


この本で最初に驚いたのは、「幽霊」という言葉がいつからある言葉なのかということだ。私はてっきり明治期あたりにできた言葉なのかと思っていたが、古くは747年の古文書に「幽霊」という言葉が記されているらしい。

古文書とは「歴史認識のための材料あるいは歴史叙述の根拠となる歴史資料(史料)のうちの文献史料の一種。」(Wikipediaから引用)とあるように、文学作品とは異なるものだ。

文学作品において「幽霊」という言葉が使われ始めるのはもっと時代が下ってからのことなのだそうだ。古くからある言葉にもかかわらず、なんとなく新しい言葉のように感じてしまうのは、古典文学で「幽霊」という言葉を見たことがないからかも知れないと思った。

さらに、古文書に記されている「幽霊」は、今で言う「幽霊」とは異なるものなのだと言う。現代において「幽霊」といえば、恨みや未練があることでこの世に止まっている成仏できない人の怨念を指すことが多いが、古文書における「幽霊」は、怨念を持たない死霊を指していたとのこと。

場合によっては、現代でいう「故人」にあたる言葉として「幽霊」が使われていたり、死体そのものを指したりすることもあったと言う。

怨念と幽霊が結びついたのは、怨霊やモノノケと混同してからのことで、さらにいえば、幽霊が姿をあらわすようになったのは能が登場してからと言われているそうだ。姿を表さない幽霊を思い浮かべる方が難しい気がするが。


また、幽霊とゾンビの比較も面白かった。

幽霊は心があり、現れる場所が決まっているという特徴がある。現れる場所というのは、幽霊が亡くなった場所であったり、生前の思い入れが強い場所であったり、特定の場所のこともあれば、恨みの対象となる人間や、未練のある人間など、特定の人の前のこともある。一方ゾンビは、心がなく、現れる場所が決まっていないとされる。

しかし近年、ゾンビ化する幽霊や、幽霊化するゾンビを描いた作品が現れてきているらしい。

例えば、貞子で有名な『リング』は、幽霊がウイルスで感染していくという設定がある。これは、ゾンビに噛まれるとウイルスに感染し、自らもゾンビ化してしまうというゾンビの特徴に当てはまる。

また、2018年に放送されたテレビアニメ『ゾンビランドサガ』は、「ゾンビとして生き返った少女たちがプロデューサーに導かれながら、佐賀県を救うためにご当地アイドルとして活動する様子を描いたオリジナルアニメ」(Wikipediaから引用)だが、このゾンビたちには理性があり、幽霊の特性も併せ持つ。

新しい幽霊像、新しいゾンビ像を模索していく中で、幽霊とゾンビの特徴が近しいものになって行っているというのは興味深かった。


ほかにも、古代において「アオ」は青色を指す言葉ではなく、どちらにも属さない中間の位置や状態を指す言葉であったという話や、上から現れる幽霊の話なども面白かった。これ以上書くとキリがないので(書くのに疲れたので)この辺にしておく。少しでも興味が湧いた方がいたら、是非読んでみてほしい。本当に面白かった。


余談だが、この本を読み始めた時に「集中力がない人でも読書が捗るコツを発見」というタイトルで記事を書いたのだけど、勉強としてメモを取りながら読んでみたところ、内容がいつもよりも頭に定着した感じがした。

小説となると話が変わってくるかも知れないけれど、人文書や自己啓発本などを読む場合には、メモを取りながら読むと良い気がする。かなり記憶の定着度が上がったように感じるし、文字の上を目が滑ってしまう感覚がかなり減った。メモを取りながら本を読むということが習慣になりつつある。

本を読みながらメモを取るの、かなりおすすめ。

大切なお時間を使って読んでくださり、本当にありがとうございます! 気に入っていただけましたら、サポートをいただけるととても嬉しいです。これまでにいただいたサポートが、私のモチベーションとなっています。